クラップロイド

しいたけのこ

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サソリの毒

クラップロイド・起動

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「ホラ積み込め、積み込め! 急ぐんだ!!」
「予定の時刻まであと15分しかない! さっさとしろ!」

『……えー、見えますでしょうか。ただいま、クラリス・コーポレーションのフェスティバルは大変な混乱に陥っております。スコーピオンズと思われる武装集団が会場を襲撃、警察と自衛隊が現場に向かっていますが、いまだに一般人の避難がうまくいかず……』

「……ははは、うまく暴れてやがる」

 青いオーラを放つグローブを手の中でもてあそびながら、浅黒い肌の男……コラプターは笑みを浮かべてテレビ端末を見つめる。これもまた、戦争だ。

 彼の周囲では、部下たちが港のタンカーへ向け、武器を積み込む作業中だ。夜の水平線は不気味に静かであり、嵐の前のような不穏さを感じさせる。

『……あっ、み、見えますでしょうか! 今、会場に、クラップロイドが!!』
「……」

 テレビ画面から歓声が上がる。コラプターはそれを見、笑みを深める。銀のロボットが、会場のステージへ向けて走って行く。


「せいぜい踊れ、クラップロイド。俺達はもう止められねえ」


 夜の港には、潮騒の音が響いていた。





 衝撃が、俺の頬で弾けた。思わずよろめいたところで足を刈られ、思い切り倒れ伏す。


「なあんじゃ、他愛のない」
『でええいっ!!』


 クズハの声が頭上から響くと同時、俺は倒れていた体を起こし、相手の脚目掛けてパンチを繰り出す。が、彼女は跳び退き、パンチを躱して姿勢を直す。

 俺はステージの上、膝立ちからすっくと立ちあがり、もう一度構える。こちらが受けた有効打は恐らくそろそろ30を超える。対するこちらは1発も相手に打ち込めていない。


 もう俺の全身はアザまみれだろう。だが、それでも、ここからだ。ここでクズハを野放しにすれば、虐殺が起きる。警察たちも、軍人たちも、市民の避難誘導でまだ本格的な介入が出来ていない。

 ここからが本番だ。敵の武器輸送がいつ始まるか分からない以上、迅速にクズハを打ち倒す、ないしは警察たちに任せ、俺は港へ向かわねばならない。

 だが、それをクズハがさせてくれるのか。彼女はあくまで余裕を崩さず、遊びじみて俺と闘っている。


『……随分悠長に構えてるじゃないか。さっさと俺を倒さないと、警察たちが来ちまうぜ』
「くくく、小僧め。拳で敵わなければ口に頼るのか?」
『まさか。アンタの目的が分からないだけさ。倉庫に巻物を置いたのは、アンタだろう』
「……ほう」

 狐面の奥、暗殺者の目が細まる。彼女は測るような視線で俺を見詰め、そしてゆっくりと扇を取り出し、口元を隠した。

「いかにも、巻物を置いたのはわらわじゃ。貴様と、あの無様な警官が隅に隠れた時に、頭上から落としてやったのよ」
『何故だ。俺達をここに呼ぶ意味は何だ』
「く、く、く。決まっておろう。最も厄介なおぬしをここに縛り付けるためよ」
『……』
(声紋、心拍、少し乱れました。嘘をついています)


 パラサイトの声を聞きながら、俺はじっと考える。今の嘘を指摘したところで、クズハは何も答えないだろう。ゆえに、自分で考えるしかない。何故、コイツが警告したのかを。


 だが、クズハは身を屈め、考える暇すら与えず蹴りを繰り出した。俺は咄嗟にガードし、反撃のパンチを繰り出す。


 クズハは柔軟に身を反らし、後頭部が床につくほど体を曲げる。その姿勢から片脚を俺の腕に引っ掛け、跳ね上がって俺の顎を蹴り上げる。


 予想外の動きに弾き飛ばされ、よろめく。だが俺は素早く意識を揺り戻し、ガード姿勢でクズハを睨む。


「くく、面白いのう。時間が無いのはお主も同じじゃろう、はようわらわを倒さぬか」
『俺には俺のファイトスタイルがある。これが俺のやり方だ』


 クズハの挑発に乗らず、俺はしっかりと脇を締めてクズハを見つめる。


 自分の特徴をパラサイトに尋ね、テレビに映る自分を見て研究した結果、最も効率的なのはガードして相手の疲労につけこむスタイルだという結論に達していた。これは俺の硬さ、そして稼働時間が問題になってくるが、それでも素人に出来る最高の戦い方だ。そもそも数日前に戦い始めたばかりで、そう高度な戦闘はできない。


 クズハはつややかな唇に笑みを浮かべ、流れるように半身になる。俺も一歩だけ脚を後ろへ置き、踏ん張りやすい姿勢を作る。


 直後、一回のまばたきの瞬間に、クズハは俺の眼前に迫っていた。想定内だ。俺は拳を振り、クズハの顔を狙う。

 が、彼女はゆらりと首を傾けて拳を躱す。そして俺の腕を巻き込みながら回転して引き寄せ、俺の胸に両手の掌底を叩き込んだ。

『ごあっ……!?』
「『かうんたあ』は、わらわも得意でのう」


 クズハがニヤリと笑う。俺は吹き飛ばされ、ステージの壁を突き破って公園の地面に転がる。


 相変わらず馬鹿力だ。俺は咳き込み、わずかの血を吐きながら立ち上がる。この程度では音を上げられない。


 クズハもステージを降り、こちらへ向かって来る。まだだ、休む暇を与えてはならない。今度は俺が駆け出し、クズハへと殴りかかって行く。

 彼女は少し驚いたように口をすぼめ、だが問題なく俺の一撃をいなす。そして殴り合いが開始される。

 クズハは小ぶりな一撃で次々に俺の身体を打つ。対する俺は大振りな一撃でクズハの致命的部位を狙う。だが彼女はまるで水のように俺の攻撃を躱して行く。


 のれんと戦っているような感覚だ。だが俺は退かず、逆に一歩を踏み出して強引に拳を繰り出して行く。


 じりり。クズハが退き、俺が追う。拳が俺達の影を幾度となく繋ぎ、その度に殴り合いは激化する。


「よう耐えるのう……成長を認めてやらんでもないぞ」
『当然! 俺は! お前に、勝つ!!』


 一度敗北した相手だ。当然対策は立てる。クズハの一撃は基本的には軽い。重い一撃を引き出し、疲れさせなければならない。そのためには、相手を暖める必要がある。


 だからこそ、今、俺は休む事なく拳を繰り出し続けている。たとえ脇腹に強烈な一撃を食らっても、鋭い一撃が顎をかすめても、その度に意識を強固に引き結び直し、ほつれぬように歯を食いしばる。


 俺は拳を引き絞り、狙いすました拳を突き出した。だがクズハは俺のパンチに沿うように体を回転させ、懐に飛び込んできた。そのまま、両手の掌底を俺の胸に押し当てる。


 緩慢に思えたその仕草は、とてつもない威力を伴っていた。俺は吹っ飛び、木に背中を打ち付け、吐血して膝をつく。ダメージを受けすぎたのか、俺の身体は震え、言う事をきかない。


「「「……正直驚いておるのじゃ。おぬしがここまで戦えるようになるとは思っておらなんだ」」」


 クズハの声が歪んで耳に届く。彼女は優雅に構え、すり足でこちらへ向かって来る。上からの口調とは裏腹に、その構えに一切の油断はない。


 俺は木に背中を預け、もう一度立ち上がろうとあがく。しかし膝が笑い、手が震え、思い通りに立ち上がれない。


「「「しかし、ここまでじゃ。おぬしのお遊びに付き合っておる暇などない」」」
『『『こちらテツマキ! クラップロイド、見えるか!? タンカーだ、出航してしまった!!』』』


 情報が錯そうする中、俺は顔を上げ、海の方を見た。遠方では闇に混じり、タンカーが出港している。俺の鋭敏な視覚は、その船の上、こちらを見詰めているコラプターを見る。


「「「小僧、お前には手の届かん事もある。諦めよ。こたびの件は、荷が重すぎるのじゃ」」」
『……、……』


 俺は頭に、善人を描く。シマヨシさん。イコマ先生。テツマキさん。

 それだけではない。火事の現場で、子供を助けて欲しいと泣いていたあの父親。ショッピングモールで、助けを求めて怯えていた人々。クラリス・コーポレーション本社ビルで、怯え切っていた俺の同級生たち。


 そして今、俺は周囲を見回す。警察たちが必死に避難誘導し、ライオットシールドを構えた機動隊が、テロリスト共と激戦を繰り広げる。市民たちの悲鳴がこだまし、泣き声が響く。


 力不足なのか。俺はまた、シマヨシさんと同じように、この人達を死なせてしまうのか。


「「立つな。お前はもう、よう戦った」」
『……』


 いいや、違う。俺は歯を食いしばり、苦痛に耐えて立ち上がる。まだだ。まだ、俺は戦える。

『俺は……』


 こんな俺を、シマヨシさんが信じ、イコマ先生が想い、テツマキさんが拾い上げてくれた。俺は、きっとあの人達に報いてみせる。あの人達の、良心に。


 そのために、俺は、ヒーローになるのだ。


『俺は、クラップロイドだ』


 立ち上がり、虚勢を張るように声を出す。拳を構え、血を踏み、もう一度クズハと向かい合う。


 クズハは呆れたように笑みを浮かべている。彼女はひとしきりクスクスと笑うと、口を開いた。

「……面白い。お前を測り損ねておったわ。ただの馬鹿かと思っておったが、くくく、お前はとびきりの大馬鹿じゃ!」


 そして、瞬時に彼女は距離を詰めて来る。そして強烈な一撃が、俺の首を打った。


 揺らぎそうになる上半身に喝を入れ、もう一度ガードを徹底する。そこへラッシュのように重い攻撃が連なる。


「倒れるなよ、小僧! 貴様、正義を背負うと決めたのならば……!! この程度!! 耐えてみせい!!!」


 クズハが叫び、次々に変幻自在の攻撃を繰り出す。俺は圧倒されながら、クズハの戦闘スタイルに対しての認識を改めた。軽い一撃が主体の戦い方は、あくまで彼女の戦い方の一つにすぎないのだと。


 今、クズハはまるで一発一発の威力が大砲のような攻撃を繰り出す。俺は木を背に必死にガードし、揺らされ、吐血し、そして、


「死なないで!!!」


 聞き覚えのある叫び声が響いた。咄嗟にそちらへ目を向けると、避難誘導の警官に取り押さえられながら、彼女は必死に叫んでいた。


「お願い、死なないで!!!」



 イコマ先生。そうだ、死ぬわけにはいかない。あの人を悲しませるわけにはいかない。


その瞬間、俺は火がついたように再起動し、クズハの手首を掴んだ。


「なに」
『だあぁぁあらぁっ!!!』


 首を仰け反らせ、思い切り頭突きする。クズハの狐面が割れ、恐ろしいほどの美貌と、驚愕の表情が露になる。


「きさ、」
『おおおおお!!!』


 この機、逃すべからず!! 俺は思い切り首を仰け反らせ、もう一度頭突きを叩き込む!! クズハの額が割れ、血がにじみ出る!!


 気圧されていたクズハは瞬時に立ち直り、カウンターの頭突きを俺の額に繰り出す! まともに食らい、俺は後退る! しかし! 手は、決して、離さない!!


『このやろぉぉぉぉぉぉおぉ!!!』


 もはや闘争本能も剥き出しに吼え、俺はクズハの手を掴んだまま振り回し、地面に叩き付ける! 彼女は叩き付けられる寸前で柔軟に着地、身を翻して逆に俺を投げ飛ばす!

 が、俺は空中で必死に身をよじり、クズハの方へ向き直る! そして無理やりに回転を開始、踵落としでクズハの脳天を狙う!


 クズハはステップで躱す! 踵落としが地面にめり込み、石畳が爆ぜ割れる!!  破片が舞う中、俺とクズハは一瞬だけ視線を合わせ、すぐにまた、互いに踏み込む!


 クズハは戦闘スタイルを切り替え、またも小ぶりなラッシュで俺の身体を打ち据える。俺は一発一発のリズムを分析し、相手が躱せないだろう瞬間を狙ってパンチを繰り出す。クズハは身を反らすが、躱し切れず、傷が増えて行く。


「しつこい小僧っ子じゃのう!」
『勝つまでやってやる!!』
(ご主人様、ガス欠が近いです!)


 三者三様の叫びをあげ、それぞれの集中を開始する! クズハは一撃必殺の重い一撃を狙い! 俺は敵の一撃の瞬間を見計らい! パラサイトは俺の視界にサポート表示を浮かばせ続ける!!

 
 俺は拳を振りかぶる! が、それまでのダメージがたたり、少しだけバランスを崩してしまう。その隙を見たクズハの目が光る。


 拳が振り下ろされ、空を切る。クズハは俺の腕に沿うように回転し、懐に飛び込んで来る。


 このままでは、またあの致命的な両手掌打を食らってしまう。俺は必死に考え、パラサイトの演算結果にもない動きを繰り出した。



 クズハの背中を掴み、思い切り抱き寄せる。クズハの顔と俺の顔が突き合わされ、一瞬、時が止まる。この距離から掌打は繰り出せない。


『踊りは終わりだ』


 クズハを抱きしめ、思い切り締め上げる。そして俺は地を蹴り、思い切り上体を反らし、二人分の体重を込めたバックドロップを繰り出した。石畳が割れ、風が吹き抜ける。


「おおっぐぅぅう!?」


 クズハの苦悶の声が響く。俺は跳び退き、肩で息をしながら警戒を続ける。


 会場では既にあらかたの退避が終わり、警察たちと軍人たちが、テロリスト共との戦いに入っている。銃声が辺りで鳴り響き、悲鳴と怒号が飛ぶ。


 クズハは暫くもがいていたが、地面に突き刺さっていた頭を引き抜くと、土を振り飛ばし、大きく息を吐いて俺を睨みつけた。俺は拳を構え、クズハと向かい合う。


 彼女は暫く俺を睨んでいたが、軍隊と警察がすぐそこまで迫って来ているのを見ると、溜め息をついてゆっくりと後退りする。

「……ここまで手を出したのじゃ。中途半端は許さんぞ、クラップロイド」

 謎めいた言葉を残し、クズハは疾風のように夜の闇の中へと逃げて行く。本当は追いたかったが、体力の限界だった。俺は膝をつき、思い出したようにやってきた息苦しさに耐える。

『はあ、はあ……!』
(オイルエンプティ、オイルエンプティ。ただちに給油してください)
『ちくしょう、困った事になったな……! ここから港に行って、泳いでタンカーに追いつけってか……!』


 胸を抑えて喘ぎながら、必死に呼吸を整えようとする。そこへ、俺に肩を貸し、立たせてくれる人が居た。

 隣を見ると、イコマ先生が必死な顔で俺を担ぎ、運んでくれているのが見えた。俺が勝つまでずっと待っていてくれたのだ。

『……だめっすよ、避難誘導に従わないと……』
「それはキミも同じでしょ。生徒を置いて自分だけ安全になる先生なんて居ません」


 どこか頑なな口調で言いながら、イコマ先生は俺をフェスティバル会場の外へと連れて行く。俺はヘルメットの中、どういう表情をしたら良いのか迷ってしまう。

『……すみません、黙ってて』
「本当だよ。……せ、先生、っ、び、びっくりした」

 しゃくりあげる音が聞こえる。見れば、先生は大粒の涙を流しながら、じっと前方を睨んでいた。

『えっと……』
「んくっ……でも、分かってた。分からなきゃ、駄目だったよね。キミは、優しいから」
『そんな、事は』
「あるよ。キミは優しくて、自分の優しさを認めようとしない。だから、こんな事だって、しちゃうんだよね」

 なんとも気まずい時間だ。悪の大物を退けた直後に、先生にお説教を食らってしまうヒーローが何処に居るだろうか。


「……先生ね、ホントはキミがこういう事をするの、とっても嫌なんだけど……」

 イコマ先生は下唇を噛み、涙をこらえてから笑みを作る。そして俺を見た。

「……でも、キミはきっと、私が何をしたって立ち上がって、戦うんだよね。だから、」

 そこで一旦言葉を切り、先生は真っ直ぐ俺を見詰めて来た。俺は目を逸らせず、じっと見つめ返す。

「だから、覚えておいて。私はキミをいつだって心配してるし、絶対生きて帰って来てほしい、って事」
『……ありがとうございます。きっと、生きて戻ります』

 俺は自分の言葉にどれほど重みを持たせられているだろうか。心が温かく、同時に情けなくなりながら、俺は前を向く。そして、一般市民の避難所と化した駐車場を見つける。

『……えっと、先生、オイルいただけませんか。3リットルくらいでいいんで』
「オイル? ガソリンの事?」
『はい。必要で』

 3リットルあれば俺も戦えるハズだ。海を泳ぎ、タンカーを捕まえ、コラプターたちを叩きのめしてタンカーを停止させる。

 先生は俺を離し、走って駐車場へと向かってゆく。俺もそれにふらふらと追従しつつ、時折こけそうになって意識を揺り戻す。


「ね、ねえ、あれって……」
「うお、クラップロイドだ!」


 避難所で警察たちに守られている市民たちが、俺を見て口々に何かささやいている。警察たちは未だに俺への対応を決めかねているのか、何とも言えない視線を俺に送っている。


(ご主人様、スコーピオンズの武器輸送タンカーがもう少しで公海に出ます。急がなければ、他の国の排他的経済水域に入ります)
『ああクソ、急がないと……!』


 ふらふらと歩いていると、向こうから先生がポリタンクを持って駆け寄って来た。どう見ても3リットルより多いガソリンが入っている。

「はい、どうぞ! これをどうするの?」
『ありがとうございます、んっく、んっく……!』
「飲むの!?」

 間髪入れずガソリンをあおり始めた俺を見、先生は驚いたように声を上げる。徐々に息苦しさが薄れ、体が動かしやすくなってくる。

 飲み干してようやく万全の半分ほどに回復した俺は、口元を拭い、クリアになった思考で考え始める。ここからが一大事だ。

『先生、何度もお願いして悪いんだが、港に連れて行って欲しい。海に行きたいんだ』
「え、み、港に? どうして?」
『タンカーに追いつく必要がある。スコーピオンズの武器の輸出を止めないと』
「でも、キミ、どうやって……泳ぐの?」
『必要があるなら、何キロでも泳ぎます』


 頷くと、先生は呆れたように首を振る。確かに俺もこの策は現実的ではないと思うが、やらなければ。


 どうにかして先生を説得しようとしていると、これまた聞き覚えのある声が聞こえた。

「あ、あの!」


 その人は……避難所の中、人混みをかき分け、手を挙げて俺に歩み寄って来た。俺はその人を見、思わず目を丸くしてしまう。


「俺ならアンタを手伝えるぜ、クラップロイド!!」


 俺は……かつて、彼の息子を、燃え盛るマンションから助け出した事がある。というか、それはついこの前の事だ。


 一児の父が、俺に助けの手を差し伸べてくれていた。




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