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第3章 子どもが思うこと、大人が思うこと
03話 人の悩みについて和寿とチュヴィンが考えたこと
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個と個の間には誤解しか成立しないと述べた。しかし肯定的な誤解が生じればしめたものである。では、テーマである、人間の大人と鳥や動物が協調するにはどうしたらよいのだろうか。厳密なコントロールは不可能だけど、何か共通の状況を一緒に過ごすことができればよい。鳥や動物と人間の子の相性がいいのは両者が弱者という立場を共に生きているからだ。
「人間の大人たちと鳥や動物たちが共通の出来事を過ごすことはありそうでないね。鳥や動物たちが譲歩して合わせていくしかないのかもね」
チュヴィンが言った。
大半の大人は平気な振りをしているが、頭脳を持った人間ゆえに、実は悩みが深いのではないかとチュヴィンは考えた。鳥や動物たちがその悩む者に対して、相談を受け付けようという考えが浮かんだ。いわゆるカウンセラーだ。人間は助かるし、鳥や動物は、最終的に人間の大人と対等な位を得られるのだろうからウィンウインだ。端から見ると鳥や動物たちには「悩まない哲学」というべきものがあるように見える。実際悩まない。
「これを活かそう」
と和寿とチュヴィンは話し合った。まずはリサーチだ。和寿は早速大人の悩みを探ろうと思った。
まず家での大人の代表、父さんに聞いてみた。
「父さんに悩みってある」
「父さんには悩みはないよ。そんなに暇はないのさ。悩みは贅沢品だ。父さんは毎月の住宅ローンを払うのに手いっぱいなのさ。そんなことを聞いて来るということは、おまえに悩みがあるのか」
「僕の悩みはいいんだ。大人の悩みを聞きたいんだよ」
「なんじゃそれは」
「………」
じゃあ母さんはどうだろう。
「母さんちょっと話を聞かせてよ。母さんは何か悩みある」
「何だねわたしの悩みを聞いてくれるのかい。優しい子だね。はて何を悩んでたんだろうね。忙しくて忘れてしまったよ」
両親にはこれといった悩みはないようだ。
おじいさんはどうか。
「おじいちゃんは何か悩みある?」
「おじいちゃんかい。腰が痛いのが悩みかのう」
しかし、おじいさんはおおかた子ども側の人間だ。聞く人間を間違えた。
あと家で聞けるのは姉だ。姉は大人でも子どもでもない。もちろん年寄りでもない。悩みを聞いたら、柄にもなく恋の悩みとか聞かされるかもしれない。でもそれを聞いても、
「ああそうですか」
という答えしか返せないような気がして聞くのはよした。そんな答えを返したら、あとで何か言いがかりをつけられるかもしれない。くわばらくわばら。
他に聞こうが、真面目に答えてくれる大人は少ないだろう。悩みはたいてい隠すものだから。悩みを話さないのが普通の人間という、暗黙の了解があるのかもしれない。普通であることが大切なのだ。だから有効な回答が返ってくるのは、あと学校の先生だとか親戚の大人くらいだろう。
まず担任の先生に聞いてみた。
「わたしに悩みがあるとすれば。忙しいことくらいね。そんなことを聞いて来るなんて、悩みがあるのね。なんでも相談して。先生に答えられる範囲でしか相談には乗れないかもしれないけれど」
学校の先生になるなんて、子どもの成長に関心があるのか、単純に子どもが好きなのか、どちらかだろうと思った。先生はどちらかといえば単純に子ども好きなのだろう。あまり悩みが深い大人には見えなかった。せっせと毎日の仕事に追われる一般的な学校教師だった。
親戚の家に呼ばれた時に、おじさんおばさんにも聞いてみたが、妙なことを聞く子どもだと思われたのだろう。内緒であとに親に電話よこしたようだ。彼らも悩みを持つ大人には見えなかった。
これだけのリサーチで即断するのも違うような気がするが、大人は忙しいゆえに悩んでいる暇がないようだ。悩みが無いから忙しくしていられるのかも。相乗効果があるのかもしれない。また、自分の欲ゆえに悩むことは、自業自得だ。大人たちも、いずれこれらを克服して行くだろう。それは悩みと言わないでおこう。しかしそういうことではなく、運悪く若い頃に挫折に見舞われたり、純粋に悩み深い大人もいるだろう。そうした大人にしか悩みは持てないのかもしれない。人間は悩んで大人物になる。世界はこうした人間の努力で開かれていく。人間社会はそうやって役割分担しているのかもしれない。悩まない普通の大人が悪いと言っているのではない。人には度量というものがある。いい意味で悩む能力がないだけなのだ。和寿の周囲の大人は普通の大人だ。しかし何も、大きな目標を達成できなくても、人は幸せにひたれるし、それで十分なのだ。チュヴィンと和寿は見当違いをしていたようだ。大人で悩みを持った人間は割合的にかなり少ないのかもしれない。
鳥や動物たちに位をあたえるには、圧倒的に多い普通の大人を説得しなければならない。普通の大人の弱点は何処にあるのか。人の弱点に付け込むのは褒められたことではないが、背に腹は代えられない。チュヴィンと和寿のもくろみはまた振出しに戻った。
和寿が幼い頃、日本のトキは絶滅した。その頃はまだ鳥や動物たちと話せなかったけれど、最後の一羽はさぞ無念であったろうに。
「人間の大人たちと鳥や動物たちが共通の出来事を過ごすことはありそうでないね。鳥や動物たちが譲歩して合わせていくしかないのかもね」
チュヴィンが言った。
大半の大人は平気な振りをしているが、頭脳を持った人間ゆえに、実は悩みが深いのではないかとチュヴィンは考えた。鳥や動物たちがその悩む者に対して、相談を受け付けようという考えが浮かんだ。いわゆるカウンセラーだ。人間は助かるし、鳥や動物は、最終的に人間の大人と対等な位を得られるのだろうからウィンウインだ。端から見ると鳥や動物たちには「悩まない哲学」というべきものがあるように見える。実際悩まない。
「これを活かそう」
と和寿とチュヴィンは話し合った。まずはリサーチだ。和寿は早速大人の悩みを探ろうと思った。
まず家での大人の代表、父さんに聞いてみた。
「父さんに悩みってある」
「父さんには悩みはないよ。そんなに暇はないのさ。悩みは贅沢品だ。父さんは毎月の住宅ローンを払うのに手いっぱいなのさ。そんなことを聞いて来るということは、おまえに悩みがあるのか」
「僕の悩みはいいんだ。大人の悩みを聞きたいんだよ」
「なんじゃそれは」
「………」
じゃあ母さんはどうだろう。
「母さんちょっと話を聞かせてよ。母さんは何か悩みある」
「何だねわたしの悩みを聞いてくれるのかい。優しい子だね。はて何を悩んでたんだろうね。忙しくて忘れてしまったよ」
両親にはこれといった悩みはないようだ。
おじいさんはどうか。
「おじいちゃんは何か悩みある?」
「おじいちゃんかい。腰が痛いのが悩みかのう」
しかし、おじいさんはおおかた子ども側の人間だ。聞く人間を間違えた。
あと家で聞けるのは姉だ。姉は大人でも子どもでもない。もちろん年寄りでもない。悩みを聞いたら、柄にもなく恋の悩みとか聞かされるかもしれない。でもそれを聞いても、
「ああそうですか」
という答えしか返せないような気がして聞くのはよした。そんな答えを返したら、あとで何か言いがかりをつけられるかもしれない。くわばらくわばら。
他に聞こうが、真面目に答えてくれる大人は少ないだろう。悩みはたいてい隠すものだから。悩みを話さないのが普通の人間という、暗黙の了解があるのかもしれない。普通であることが大切なのだ。だから有効な回答が返ってくるのは、あと学校の先生だとか親戚の大人くらいだろう。
まず担任の先生に聞いてみた。
「わたしに悩みがあるとすれば。忙しいことくらいね。そんなことを聞いて来るなんて、悩みがあるのね。なんでも相談して。先生に答えられる範囲でしか相談には乗れないかもしれないけれど」
学校の先生になるなんて、子どもの成長に関心があるのか、単純に子どもが好きなのか、どちらかだろうと思った。先生はどちらかといえば単純に子ども好きなのだろう。あまり悩みが深い大人には見えなかった。せっせと毎日の仕事に追われる一般的な学校教師だった。
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これだけのリサーチで即断するのも違うような気がするが、大人は忙しいゆえに悩んでいる暇がないようだ。悩みが無いから忙しくしていられるのかも。相乗効果があるのかもしれない。また、自分の欲ゆえに悩むことは、自業自得だ。大人たちも、いずれこれらを克服して行くだろう。それは悩みと言わないでおこう。しかしそういうことではなく、運悪く若い頃に挫折に見舞われたり、純粋に悩み深い大人もいるだろう。そうした大人にしか悩みは持てないのかもしれない。人間は悩んで大人物になる。世界はこうした人間の努力で開かれていく。人間社会はそうやって役割分担しているのかもしれない。悩まない普通の大人が悪いと言っているのではない。人には度量というものがある。いい意味で悩む能力がないだけなのだ。和寿の周囲の大人は普通の大人だ。しかし何も、大きな目標を達成できなくても、人は幸せにひたれるし、それで十分なのだ。チュヴィンと和寿は見当違いをしていたようだ。大人で悩みを持った人間は割合的にかなり少ないのかもしれない。
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