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第2章 鳥や動物たちの時代
11話 少年よ大志を抱け
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さて、年末を迎え大掃除を済ませると年越しの準備をした。無事大晦日を迎え、年越し蕎麦をすすると、あっという間である。年が明けた。和寿は約束通りチュヴィンを連れて初詣に出かけた。神社は同じく初詣に出かけた人の群れで大変賑わっていた。いつの世も人々の希望は絶えない。みな願い事を胸にしまい神社を訪れて神社の神様に打ち明ける。チュヴィンには縁のない習慣だけど、せっかく和寿とお参りにきたのだから、何か願ってみようと思い、考え出した。思いついたのは、和寿の恋愛が叶いますように、というものだった。そう和寿は忙しい身の上で、そっちの方にさく時間がなかったのだが、大変モテた。しかし女の子には高嶺の花と思われていて、アプローチを受けることはなかった。そして和寿は、恋愛に人並みに興味があったものの、自分がその主人公になるなんてと、全く心の準備ができていなかった。ある女の子を密かに思っていたが、告白できずにいる。こう言うのは人間特有な心理である。チュヴィン達、鳥族にはもどかしい一面なのだが、ここは神さまに願ってあげることにした。さらに物理的にも助太刀してあげることにしていた。しかしこれは、人間が鳥や動物たちの救われる未来がかなってからのご褒美ということにしていた。
「和寿は何をお願いしたの」
チュヴィンが尋ねた。
「僕はありきたりのことだよ。今年も一年健康にいられますように、という事さ」
「健康は確かに大事だけど。年頃なのだからもっと色っぽいことを願わないのかなと思って。好きな女の子の一人や二人はいるんだろ」
「僕には無縁だよ。ぼくはもっと自分の手でできることをためしたくて。そのための健康を祈ったのさ」
「そんなに意識が高いのかい」
「そんなつもりはないよ。人間の男はそういうことに惹かれるのさ」
「ああ知ってるよ人間のことは。でも人間も動物なんだから異性に魅かれることもあるだろうにと思って」
「それは無くはないけど。今の僕には高嶺の花なのさ」
「そんなこと言ってるとあっという間におじいさんになっちゃうよ」
「それが運命なら、それでもでもかまわないさ。おじいさんになってもこんな思いでいる人が人間にはいるみたい」
チュヴィンにはおじいさんになっても少年の心を持つというのが、なんだか気持ちが悪かったが、人間の若い男の性質は分かっていたので、追及はここまでにした。つまりチュビンは和寿が、現在の北海道大学の前身である札幌農学校のクラーク博士が教え子におくった言葉「少年よ大志を抱け」という言葉を、どこかで聞きかじったのかなと思ったのだ。
「スズメには神さまにお祈りをする習慣はないのかい」
「無いね」
それで話は終わってしまった。チュヴィンはちょっとそっけなかったなと反省した。
そこへどこからともなくハクセキレイのハクちゃんが現れた。ハクちゃんは人間のお参りというものに興味を持っていた。
「願いが叶うというのは本当かい」
「神様はみんなの願いをかなえるために忙しいのさ。だから、かなえてもらうのはほんの一握りの人だけなのさ。それに本人の努力も考慮されるよ」
和寿が説明した。
「チュビン聞いたかよ。人間界には神さまというのがいるんだって、鳥の世界にもほしいもんだね」
「鳥さんの世界にはないのかい」
「無いね」
ハクちゃんが答えた
「またしてもその答えかい。鳥さんたちは、しらけているなぁ」
和寿はもう笑ってしまった。
「だってそんな存在というのは、いくら人間が空想好きであるとしても、常識を越えちゃっているよ」
ハクちゃんが言った。
「そうかもね。まぁそう馬鹿にするなよ」
「いや馬鹿にしてない。人間は頭を使いすぎる。神様を超人と呼びたい。コミュニケーション不全だった時代に人間はそんな発明をしていたとは、人間というものはたいしたものだ」
「そうかい。ありがとう。でも、改めて考えると色々分からないからこそ、頭を使うのかもしれないね。そしてさらに我々を越える存在も創る」
「チュヴィン。聞いたか超人の話。聞いてはいたが思ったより素晴らしいものだぞ」
「あぁそうかもしれない。想像をたくましくしくできて、より楽しいかもしれない」
チュヴィンが言った。
ハクちゃんもお祈りしてみた。
「何をお祈りしたのかい」
和寿が尋ねた。
「そりゃあ和寿坊ちゃんの恋の行方さ」
「なんだよそれは。チュヴィンに続いてお前もか」
「坊っちゃんの噂はよく伝わって来るんでね。坊っちゃんはもてるから、捨て身の覚悟があればだれでもなびきますよ」
「なんだよ捨て身の覚悟っていうのは」
「勇気のことですよ。あまり頭を使わずに行動在るのみです。我々の世界ではもっぱらそればかりです」
「あぁそうみたいだね。様子を見ていると、わかるよ」
「分かりますか」
チュヴィンとハクちゃんはこたえた。
「うん」
和寿はうなずいた。種族を越えた男たちの会話は、正月早々唐突に、パートナー探しの話で幕を閉じた。鳥や動物たちのもっぱらの関心は、春の繁殖期に向けられていたのである。
「和寿は何をお願いしたの」
チュヴィンが尋ねた。
「僕はありきたりのことだよ。今年も一年健康にいられますように、という事さ」
「健康は確かに大事だけど。年頃なのだからもっと色っぽいことを願わないのかなと思って。好きな女の子の一人や二人はいるんだろ」
「僕には無縁だよ。ぼくはもっと自分の手でできることをためしたくて。そのための健康を祈ったのさ」
「そんなに意識が高いのかい」
「そんなつもりはないよ。人間の男はそういうことに惹かれるのさ」
「ああ知ってるよ人間のことは。でも人間も動物なんだから異性に魅かれることもあるだろうにと思って」
「それは無くはないけど。今の僕には高嶺の花なのさ」
「そんなこと言ってるとあっという間におじいさんになっちゃうよ」
「それが運命なら、それでもでもかまわないさ。おじいさんになってもこんな思いでいる人が人間にはいるみたい」
チュヴィンにはおじいさんになっても少年の心を持つというのが、なんだか気持ちが悪かったが、人間の若い男の性質は分かっていたので、追及はここまでにした。つまりチュビンは和寿が、現在の北海道大学の前身である札幌農学校のクラーク博士が教え子におくった言葉「少年よ大志を抱け」という言葉を、どこかで聞きかじったのかなと思ったのだ。
「スズメには神さまにお祈りをする習慣はないのかい」
「無いね」
それで話は終わってしまった。チュヴィンはちょっとそっけなかったなと反省した。
そこへどこからともなくハクセキレイのハクちゃんが現れた。ハクちゃんは人間のお参りというものに興味を持っていた。
「願いが叶うというのは本当かい」
「神様はみんなの願いをかなえるために忙しいのさ。だから、かなえてもらうのはほんの一握りの人だけなのさ。それに本人の努力も考慮されるよ」
和寿が説明した。
「チュビン聞いたかよ。人間界には神さまというのがいるんだって、鳥の世界にもほしいもんだね」
「鳥さんの世界にはないのかい」
「無いね」
ハクちゃんが答えた
「またしてもその答えかい。鳥さんたちは、しらけているなぁ」
和寿はもう笑ってしまった。
「だってそんな存在というのは、いくら人間が空想好きであるとしても、常識を越えちゃっているよ」
ハクちゃんが言った。
「そうかもね。まぁそう馬鹿にするなよ」
「いや馬鹿にしてない。人間は頭を使いすぎる。神様を超人と呼びたい。コミュニケーション不全だった時代に人間はそんな発明をしていたとは、人間というものはたいしたものだ」
「そうかい。ありがとう。でも、改めて考えると色々分からないからこそ、頭を使うのかもしれないね。そしてさらに我々を越える存在も創る」
「チュヴィン。聞いたか超人の話。聞いてはいたが思ったより素晴らしいものだぞ」
「あぁそうかもしれない。想像をたくましくしくできて、より楽しいかもしれない」
チュヴィンが言った。
ハクちゃんもお祈りしてみた。
「何をお祈りしたのかい」
和寿が尋ねた。
「そりゃあ和寿坊ちゃんの恋の行方さ」
「なんだよそれは。チュヴィンに続いてお前もか」
「坊っちゃんの噂はよく伝わって来るんでね。坊っちゃんはもてるから、捨て身の覚悟があればだれでもなびきますよ」
「なんだよ捨て身の覚悟っていうのは」
「勇気のことですよ。あまり頭を使わずに行動在るのみです。我々の世界ではもっぱらそればかりです」
「あぁそうみたいだね。様子を見ていると、わかるよ」
「分かりますか」
チュヴィンとハクちゃんはこたえた。
「うん」
和寿はうなずいた。種族を越えた男たちの会話は、正月早々唐突に、パートナー探しの話で幕を閉じた。鳥や動物たちのもっぱらの関心は、春の繁殖期に向けられていたのである。
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