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第2章 鳥や動物たちの時代

10話 世界子どもサミット

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 京都でクリスマスの日に、世界子どもサミットは開かれた。世界各国から20人が招待されている。日本は鳥や動物の事なら何でも知っている寿和がいるということで、サミットの開催国は日本とされた。SDGsのことが議題なので食事などあまり豪華な接待はされなかったし、望む者もいなかった。SDGsはなにも鳥や動物のことばかりではないことは承知だったが、今の世。鳥や動物が子どもたちにとってかけがえのない存在だったので、彼らもいっしょに招待されていた。そして鳥や動物のこと、つまりSDGsの⑮番目の目標である「陸の豊かさを守ろう」は、子どもたちの一大事の議題だったのである。
 アメリカやロシアの代表が述べる。この二大大国の大人がどう動くかで、SDGs運動の未来は決まるといっていい。しかしこの二国の子どもは、まるでそこの大人に洗脳されたようなことを言う。開発優先だ。寿和もこの前まではこの意見を取り入れていた。現実的な判断と思っていたのだから。しかしチュヴィンと喧嘩して鳥や動物の意見を取り入れる覚悟をしてきたのである。意を決して自分の意見を言った。すると各国の代表も賛成してくれたのだ。
 その言葉を待っていたと世界の子どもたちは言ってくれた。そのなかには二大大国の代表も加わっていた。その言葉とは、チュヴィンの言っていたことをそのまま述べただけのことであったのだが
「人間を最優先としたSDGsの運動の「陸の豊かさも守ろう」という目標に対しては、今、絶滅しようとする動物の立場からはもっと厳しい制限を設けるべきだと思います。早急な判断と実行を求めます」
と強い言葉を使ってしまったのだが反対意見はなかった。
「本当のことを言ってほしい」
と世界の子どもたちはチュヴィンたちの立場を知りたがった。しかし話したところで対策はないといっていい。大人たちの言い分はこうだ。我々が今していることの結果が、SDGsの目標に反するなら、その因果関係を教えてくれというのだ。個々のケースでいちいちそれを調査をするならば、莫大な時間と金がかかる。不可能なのだ。大人たちはそれを知っている。知ったうえで文句を言っているのだ。なんて小ずるいのであろう。
 こちらに力があったのなら、少しでも因果関係が疑われるものを中止できたであろうに。今の世界の仕組みの中で生かされている立場上、子どもたちには何も言う権利がないのだ。現在各国の代表が11歳だから、彼らが成人するまでの7年間に仲間を増やしながら時を待つしかないのか。それに、7年間ですべての仕組みを変えることができる保証もない。やっぱりこの問題が大きくなって人間が真面目に取り組むタイミングを待つしかないのだろうか。それでは遅いのだけど。
 日本の大人たちはトキが絶滅した時どのような気持ちでいたのだろう。寿和はいたたまれない気持ちになったのを覚えている。その大きな鳥はやがて活動しなくなり、ケージに入れられた。しかしその最後の国産トキ「キン」は、大空を飛びたかったのであろうか、突然羽ばたき、ケージの扉に衝突したことにより。静かに息を引き取った。涙がこぼれ、どうしてこんなことになったと、寿和らは、行き場のない悲しみに打ちひしがれた。多かれ少なかれ当時の日本の子どもたちはこんなことはもうたくさんだと思ったのではないだろうか。大人たちは何も思わなかったのであろうか。
 その他にも各国のSDGsの問題にも一通り意見がなされた。アフリカの問題が切実だった。日々の飲み水や食料の問題だ。それらを話し合って、会談は幕を閉じた。



 さて子供サミットということで、各国の代表は自分の連れてきた相棒の鳥や動物を呼んであとは自由に歓談した。日本からは言わずと知れた寿和とチュヴィンだ。アメリカ代表はプレーリードッグを連れていた。プレーリードッグはしきりに、こんな会談など無駄だと吠えている。ロシア代表が連れてきたのは、バイカルアザラシだ。その愛らしい瞳に覗かれると嘘など付けない気持ちになる。アフリカ代表の連れてきたアフリカオオコノハズクというフクロウは、細くなったり太くなったりしてしきりに緊張をほぐしているようだ。ブラジルのミツユビナマケモノは。ただ眠そうに木にぶら下がって動かないことで、かえって自己主張をしていた。インドからはベンガルタイガーがやって来た。一時は絶滅が危ぶまれたが保護で回復している。強そうである。ドイツからはハイイロオオカミがやって来た。彼らも絶滅危惧種だが、これまた強そう。およばれだからトラもオオカミも静かにしていた。そのほかの国からも多種多様な動物がやって来た。こうやって見ると世界には改めて色々な鳥や動物たちが生息しているのが分かる。みな個性的だ。それぞれの国の代表と鳥や動物たちは、寿和とチュヴィンのように、いつも隣にいるパートナーだった。各国の代表は彼ら鳥や動物の意見を聞いて暮らして来たのだった。

 各国の代表が連れた鳥や動物たちが大きいのを見て、スズメのチュヴィンはあまりにも小さくて、ものおじしていた。そしてカクカクと動き、羽音を立てて、落ち着かない。でも彼が人間の万能のコミュニケーション能力を開放して、世界を救った勇者であるという認識は、他の国の動物からは揺るがなかった。
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みんなの感想(41件)

emma
2024.03.28 emma

こんにちは👋😃

チュヴィン、頑張れ👊😆🎵
小さくても勇者に変わりないです😌💓

もり ひろし
2024.03.28 もり ひろし

こんにちは、感想ありがとうございます。

チュヴィンは小さな巨人を目指しています。
チュヴィンは子どもサミットのメンバーの中でも北の森作戦の中でも一番小さいです。
小さいけどすごい主人公を目指しています。
小さな巨人のテーマはありふれていますがあえて提示しました。
最近の風潮だと、小さいものはしょせん小さいとかいう話が多すぎます。
それではあまりに夢がないのでね。

いつもていねいによんでくださって感謝です。

解除
emma
2024.03.16 emma

こんにちは✨😃❗

ハクちゃんの演説に足をとめる人がいないのは悲しいですね😢💦
生物の多様性を守るのは人類の責務だと思います。

寿和がチュヴィンと仲直りできて良かったです。
子どもサミットで、スズメの絶滅が防げるといいですね🍀

もり ひろし
2024.03.17 もり ひろし

こんにちは。感想ありがとうございます♬

SDGsの目標⑮の陸の豊かさも守ろうは、
鳥や動物たちの多様性を守ろうと同義だと思っています。

スズメのことを振り返ってみると、改めて数が減ったなあと思います。
昔は、電線に数珠つなぎに留まっていたスズメが、
少しずつ数を減らしたので、人々は気づかなかったのでしょう。
わたしの地域ではスズメが電線に留まっている姿は、
消滅したといっていいくらいです。

鳥や動物たちにとってこの⑮の目標は、
自身に一番大切な目標なのでこのお話に取り上げました。
そのうちスズメも絶滅危惧種に指定されやしないかどうかと心配です。

ハクちゃんの演説に足を止める人がいないのは、
大人たちがまだ鳥や動物たちのことを下の見ていることの表われです。
これからは彼らの言葉を聞くように接しなくてはならないというのに。

敦子さんは、ハクちゃんの演説に、人が足を止めないのは悲しいと表現されました。
そんな感性が必要な時代になってきます。
そう言った感性は童話を読む時に必要な感性に留まることなく、
現実の世界に生かされてしかるべき時だと思います。

チュヴィンと寿和の喧嘩はチュヴィンの大幅な譲渡で幕を下ろしました。
だから、課題は山積み。
仲良くして次の課題に向かわなくてはなりません。
次の世界子どもサミットでは子供ばかりでなく鳥や動物も参加させる予定です。
チュヴィンと寿和の本当の仲直りができるといいですね。

解除
emma
2024.03.10 emma

おはようございます☀️🙋❗

SDGsについての具体的な目標を書いて下さって、ありがとうございます😉👍️🎶

感想は難しいですが、日本も先進国の上位を目指して、頑張りたいところです。

最近、谷口たかひささんの「シン・スタンダード」という本を読みました📖
日本の進むべき道を示してくれているような気がします。

SDGsの期限も環境問題の期限も時間がないですよね。
できることから、やっていこうと思います。

もり ひろし
2024.03.10 もり ひろし

こんにちは感想ありがとうございます♬

SDGsの知見、敦子さんの方がより深くより広く探っているのだなあと思いました。
谷口たかひささんの事も初めて知りました。
日本も社会が成熟してきて、これからはSDGsの運動に、
より責任ある国家となっていくのだろうなあと思っています。

日本という国は社会の成熟を待たなくても、
文化的にSDGsの上位国家になってもおかしくない、
ポテンシャルを持っているような気がしてなりません。

日本文化を一言でいったなら、
奥ゆかしいとか、質素とか、自然、などに価値を置く、
およそ発展とは縁がない身の処し方をしてきたのに、
(もちろん局地的な発展はします)
近年の経済成長は奇跡なのではという思いにさせられます。

日本の文化が好きです。
最近、日本は外国からの観光客でごった返しています。
きっと不思議・日本という国を感じたくて来日するのではないでしょうか。
日本という国はまだまだ世界をいい意味で驚かせるようなことをしてくれると思っています

わたしの記憶が正しければ、SDGsの前段階にも同じような運動があったはずです。
SDGsはあと6年で幕引きをしますが、6年ですべて解決する見込みはありません。
次の段階でのSDGsの目標を決めてくるはずです。
(だからといって手を緩めることは断じてなりませんが)
問題が解決を見るまで人々はあきらめないでしょう。信じてます。

なおわたしのこの物語の身の置きどころはチュヴィン側です
実際のSDGsには鳥や動物の視点がありません。
それは鳥や動物たちの意見などわからないからですが
わたしの物語では万能のコミュニケーション能力が発動するので、
人と鳥や動物との会話ができてしまいます。
これを利用して鳥や動物視点を可能にしています。
これにより人間同士のSDGsを独りよがりにしない方向を探ってみようと思っています。
よって「人間に都合の良いSDGsという運動」という
少し皮肉なタイトルになってしまいました(#^^#)

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