上 下
20 / 23
第2章 鳥や動物たちの時代

07話 チュヴィン 、SDGsの授業を受ける

しおりを挟む
 やっとこの前、涼しい秋が来たと喜んでいたのだが、早くも冬の足音が聞こえてきた。まあ夏が長かった分、冬が早く感じられたのだろう。冬といってもそれほど冷え込まない予報なので少しは安心だった。まあ冷え込む日もあるのだろうが長くは続かないのだろう。

 最近はチュヴィンに乗って登校し、そのままチュヴィンは寿和の胸ポケットに入って授業を聞いていた。人間の事なら何でもわかるらしい。クラスの皆もチュヴィンと話をしたがった。
 明後日はスポーツの日だ。先進国らしい祝日だ。国民がスポーツに親しみ、健康な心身を培う日という、うたい文句がついている。世界では貧困のせいで心身の健康を保つのが困難な国もあるのだ。そんな国をなくすために2030年までに国連は、世界から貧困をなくそうと働きかけている。これが世に言うSDGs(エスディージーズ、人類がこの地球で暮らし続けていくために、2030年までに達成すべき目標)の柱の一つになっている。そんなSDGsは宣言されてから、もうすでに9年目が経とうとしていた。それなりの効果は出ているがまだまだという印象だ。この目標の期限はあと6年だ。



「SDGs。皆も名前は聞いたことがあると思います」
担任の佐々木先生がホームルームの時間に話し始めた。
「目標の期限はあと6年です。これからどれくらいの成果が出せるのか皆にも考えてもらいたいのです。このホームルームの一時限では足りないのだけれど、これからの年月で考えるきっかけとなってくれたらと思いました」
と先生は言った。
「ではSDGsについて知っていることがあったら手をあげて教えてください」
諏訪君が手をあげた。
「ニュースで聞いたことがあります。でも何なのかは知りません」
皆もうなずいた。
「そうでしょうね。ではこれからみんなで学習しましょう」
先生は黒板に書きだした。

『人類がこの地球で暮らし続けていくために、2030年までに達成すべき目標』

「皆はこれから先も生きていきます。そのためには地球人として達成すべき17の目標があるのです。それを書きだしていきましょう」

① 『貧困をなくそう』

② 『飢餓を0に』

③ 『すべての人に健康と福祉を』

④ 『質の高い教育をみんなに』

⑤ 『ジェンダーの平等を実現しよう』

⑥ 『安全な水とトイレを世界中に』

⑦ 『エネルギーをみんなに。そしてクリーンに』

⑧ 『働きがいも経済成長も』

⑨ 『産業と技術革新の基盤を作ろう』

⑩ 『人や国の不平等をなくそう』

⑪ 『住み続けられるまちづくりを』

⑫ 『つくる責任、つかう責任』

⑬ 『気候変動に具体的な対策を』

⑭ 『海の豊かさを守ろう』

⑮ 『陸の豊かさも守ろう』

⑯ 『平和と公正をすべての人に』

⑰ 『パートナーシップで目標を達成しよう』

「皆さん書き出しただけではわからないと思います。具体的に思い浮かばなかったりすることは、挙手して質問してください」
皆は手をあげた。

「では岡部君どうぞ」
「先生③の福祉って何ですか?」
「はい、言葉の意味ね。公的サービスによって生活をより良くすることを福祉と言います。ここでは薬などの保険サービスね。究極的には少額の負担が前提です。

「では斉藤あかねさんどうぞ」
「⑤のジェンダーとは何ですか?」
「はい。これも言葉の意味ね。ちょっと難しいので宿題とさせてください。一般的には性別のことです」

「では金子君どうぞ」
「⑥のトイレが無いということはどういうことですか?」
皆に笑いが起こった
「はい。みなさんにはトイレが無いということが信じられないのでしょうが。トイレのない生活をしている人がまだたくさんいるということです。そこらへんで用を足さなければならないのです。プライバシーの問題もありますね。女性は困ります。あとトイレがないことによって衛生が保てなくなって病気が蔓延してしまうこともあります」

「では林さんどうぞ」
「⑩のことについて聞きたいのですが、逆に人や国で差別するということが行われているのですか」
「はい。ここでは主に発展途上国を守る仕組みをつくろうとする目標が設定されています。世の中は人や国による格差が広がっています。公正な機会が与えられていません。世界人口の1%の人が世界の富の1/3を持っています。格差は是正されなくてはなりません」

「では斉藤寿和君どうぞ」
「⑰のパートナーシップというのはどういうことですか」
「これも言葉の意味が分からないのね。みんなで協力して目標を達成しようということです」

その他たくさんの質問が集まった。先生は言った。
「ここに示された達成目標も実現方法も日々進化しています。課題は山積みなのです。今日を機に皆で考えてゆきましょう。個人でもできることがたくさんあります」

 チュヴィンも授業を聞いてすこぶる納得したようだ。
「人が困るということは我々鳥類も困ることを意味しています。私としては⑮の『陸の豊かさも守ろう』が心に響きました。もし人類が2030までの目標を達成できなければ我々鳥類の14%が絶滅の危機にさらされるというのが、真実味をもって伝わりました。わが県の鳥シロチドリがだいぶ前からっ絶滅危惧種になっているんだけど大丈夫かな。その他の動物たちもこれを聴いたら、何とかしようと動き出すでしょう。もちろん人間とのパートナーシップのもとに。また森林が伐採されて太陽光パネルが置かれるなど本末転倒だと思う。人間はもう動き出しているのでしょ。成果はどれくらい得られたのかな」
「それが、成果もあるのだけれど。壁を乗り越えるたびに新たな壁ができるみたい。課題は山ほどあるようだよ」
寿和が言った。
「我々スズメが人類の脅威、核戦争を失くしたのだから、今度は我々鳥や動物を助けてよ。人間というのは罪作りな動物だなー」
チュヴィンが言った。
「あと6年待ってよ。人間も馬鹿ではないはず。せめて納得できるだけの結果は出すはず」
寿和が言った。
しおりを挟む

処理中です...