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第2章 鳥や動物たちの時代
01話 北の森作戦祝勝会
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これまですべての生き物は人間同士の軋轢が原因で滅亡の危機にひんしていた。核爆弾の発射のスイッチは今か今かと押されようとしていたのだ。でも人間に『万能のコミュニケーション能力』が解放されると人間同士の軋轢は嘘のように解消した。人間同士は、より深いコミュニケーションが可能となったからだ。それに鳥や動物とも会話ができる。まるで動物語の翻訳ツールがあるとすればそれが頭の中に組み込まれたような感じだ。
でも、その能力の前後を自覚できるのは、初めからその能力を持っているすべての鳥や動物たちが人間を見てそう思うのと、意識的にその能力を身につけた和寿と紳吉おじいさんと、この物語を読んでいる君、のみである。普通の人間には何の前触れもなく、いつの間にか、そのような体になったので自覚がない。時をさかのぼっても自分の自己同一性が邪魔をして、いつからという線引きができないのだ。つまり昔も今の自分と同じだと思い込むので、どこまでさかのぼっても、同じであり、どこにも線引きができないのだ。
またこれまでの人間より動物を劣ったものとする考えは、小学校内では跡形もなく消え去っていた。人と鳥や動物との関係は対等となった。コミュニケーションが双方向となり色々なことが分かったからだ。あとは和寿のクラスメートにとっては、ハムスターの空太との出来事が象徴的に心に刻まれていたからだ。人間も鳥や動物も変わりない。命は同格だった。人と鳥や動物は運命共同体になった。
梅雨明けの太陽が容赦なく照り付ける日が続いて一週間、学校は夏休みに入った。飼育係の仕事は先生に頼むことができるけど和寿は進んでその役目を担った。学校までは小びとになって楽に飛んでいけたのがうれしい。チュヴィンとハクちゃんの魔法は、この世界でも有効だったのだ。チュヴィンには「また仲間を連れて夕方家に寄ってね」と言っておいた。ささやかな祝勝会を開こうと思っていたのだ
ハムスターたちはにぎやかだ。ウサギは静かに動き回っている。ハムスターのジェリーは「早くご飯を」と催促した。ウサギのピーターも負けていない。ドンドンと足踏みをしながら「早くご飯を」と催促した。今日はくず野菜ではなく八百屋で買った野菜を持ってきていた。北の森作戦の祝勝会のつもりであった。「今日の野菜はいつもよりおいしいぞ」と誰かが言った。皆静かに夢中で食べている。そして両者ご飯が済むと今度は散歩の催促だ。和寿は休む暇もなかった。16本のリードにそれぞれ彼らをつけて校庭のにぎやかな散歩会が始まった。他のクラスのペットたちも散歩を始めていたが、先生がやっているクラスもある。おおかた飼育係が面倒くさいという理由で、先生に丸投げしてしまったのだろう。自分が動物と同格だということが分かっても、実行に移さない者もいる。こういうクラスの飼育係には動物はそれなりにしか懐かなかった。動物たちが。今までの、暴君としての人間のイメージを、払しょくできずにいたのだ。おおよその各クラスの飼育係は忙しくなった。少なくとも小学校内では動物の地位はそれだけ上がったのだ。散歩が終ると和寿は帰ろうとした。
「もう少し遊ぼうよ」
とウサギのピーターがと和寿の帰り仕度をはばもうとする。
「今日は色々と忙しいんだ。ごめんよ」
と和寿は言って屋上に出た。
ハクちゃんは来ていた。今日はトンビのトヴィンとカラスのジャックが一緒だ。毎度のことだが、ハクちゃんはよく襲われないよなと感心した。それを見越してかハクちゃんは
「前にも言ったかもしれないけれど、俺の友達だから弱虫なんだ。安心して下さい」
といった。和寿はハクちゃんの背中を撫でるとみるみるうちに轟きをあげて一瞬のうちに背丈を縮めた。そしてハクちゃんの首にしがみつき飛んで行った。今日は和寿が北の森作戦の成功を祝しておごってあげると言っていたのだ。ハクちゃんにはミルワームをトヴィンとジャックには魚を一尾ずつ買ってやった。そして家に帰ると与えてやった。トヴィンとジャックは喜んでいた。弱虫な彼らには他のトンビやカラスがつついたあとの、残り物しか食べることができなかったからだ。ハクちゃんもたらふく食べて満足したようだ。そしてハクちゃんは言った。
「これからもよろしくお願いします。ご飯を」
と言った。
「ハクちゃんはしっかりしてるなあ。僕のお小遣いじゃ、そんなに買ってあげられないよ。他のトンビやカラスには内緒だからね」
と和寿は言ってやった。三羽は仲良く帰って行った。
夕方、家には、スズメの群れがやって来た。チュヴィンはみなに何か話そうとしている。
「今から北の森作戦の祝勝会をする。ご主人が雑穀をたらふく食べさせてくれるということだ。ありがたく頂戴しよう」
チュヴィンのスピーチが終ると、和寿は雑穀を五カ所に分けて置いていった。「美味しいね」とあちこちでスズメが仲よくついばんだ。おかわりも自由だ。和寿はまだ雛だった頃のチュヴィンを思い出していた。あんなにも虚弱だったチュヴィンが今では皆を率いてまとめている。僕もいつかあんな風に成長していきたいなと思っていた。スズメたちは、たらふく食べてねぐらに帰って行った。
和寿は夕食後、おじいさんも呼んで、文鳥のブンちゃんをかごから出してやった。最後の祝勝会だ。そして庭でつんだハコベとひまわりの種を剥いてやった。
「ご主人ありがとうございます。やっぱりご主人が一番我々の気持ちを分かってらっしゃる。ここに生まれてよかったです」
「わしは迷惑じゃったかなあ」
とおじいさんがしょげた。
「とんでもありません。わたしの話し相手の多くはおじいさんですから」
と文鳥のブンちゃんは笑っていた。
でも、その能力の前後を自覚できるのは、初めからその能力を持っているすべての鳥や動物たちが人間を見てそう思うのと、意識的にその能力を身につけた和寿と紳吉おじいさんと、この物語を読んでいる君、のみである。普通の人間には何の前触れもなく、いつの間にか、そのような体になったので自覚がない。時をさかのぼっても自分の自己同一性が邪魔をして、いつからという線引きができないのだ。つまり昔も今の自分と同じだと思い込むので、どこまでさかのぼっても、同じであり、どこにも線引きができないのだ。
またこれまでの人間より動物を劣ったものとする考えは、小学校内では跡形もなく消え去っていた。人と鳥や動物との関係は対等となった。コミュニケーションが双方向となり色々なことが分かったからだ。あとは和寿のクラスメートにとっては、ハムスターの空太との出来事が象徴的に心に刻まれていたからだ。人間も鳥や動物も変わりない。命は同格だった。人と鳥や動物は運命共同体になった。
梅雨明けの太陽が容赦なく照り付ける日が続いて一週間、学校は夏休みに入った。飼育係の仕事は先生に頼むことができるけど和寿は進んでその役目を担った。学校までは小びとになって楽に飛んでいけたのがうれしい。チュヴィンとハクちゃんの魔法は、この世界でも有効だったのだ。チュヴィンには「また仲間を連れて夕方家に寄ってね」と言っておいた。ささやかな祝勝会を開こうと思っていたのだ
ハムスターたちはにぎやかだ。ウサギは静かに動き回っている。ハムスターのジェリーは「早くご飯を」と催促した。ウサギのピーターも負けていない。ドンドンと足踏みをしながら「早くご飯を」と催促した。今日はくず野菜ではなく八百屋で買った野菜を持ってきていた。北の森作戦の祝勝会のつもりであった。「今日の野菜はいつもよりおいしいぞ」と誰かが言った。皆静かに夢中で食べている。そして両者ご飯が済むと今度は散歩の催促だ。和寿は休む暇もなかった。16本のリードにそれぞれ彼らをつけて校庭のにぎやかな散歩会が始まった。他のクラスのペットたちも散歩を始めていたが、先生がやっているクラスもある。おおかた飼育係が面倒くさいという理由で、先生に丸投げしてしまったのだろう。自分が動物と同格だということが分かっても、実行に移さない者もいる。こういうクラスの飼育係には動物はそれなりにしか懐かなかった。動物たちが。今までの、暴君としての人間のイメージを、払しょくできずにいたのだ。おおよその各クラスの飼育係は忙しくなった。少なくとも小学校内では動物の地位はそれだけ上がったのだ。散歩が終ると和寿は帰ろうとした。
「もう少し遊ぼうよ」
とウサギのピーターがと和寿の帰り仕度をはばもうとする。
「今日は色々と忙しいんだ。ごめんよ」
と和寿は言って屋上に出た。
ハクちゃんは来ていた。今日はトンビのトヴィンとカラスのジャックが一緒だ。毎度のことだが、ハクちゃんはよく襲われないよなと感心した。それを見越してかハクちゃんは
「前にも言ったかもしれないけれど、俺の友達だから弱虫なんだ。安心して下さい」
といった。和寿はハクちゃんの背中を撫でるとみるみるうちに轟きをあげて一瞬のうちに背丈を縮めた。そしてハクちゃんの首にしがみつき飛んで行った。今日は和寿が北の森作戦の成功を祝しておごってあげると言っていたのだ。ハクちゃんにはミルワームをトヴィンとジャックには魚を一尾ずつ買ってやった。そして家に帰ると与えてやった。トヴィンとジャックは喜んでいた。弱虫な彼らには他のトンビやカラスがつついたあとの、残り物しか食べることができなかったからだ。ハクちゃんもたらふく食べて満足したようだ。そしてハクちゃんは言った。
「これからもよろしくお願いします。ご飯を」
と言った。
「ハクちゃんはしっかりしてるなあ。僕のお小遣いじゃ、そんなに買ってあげられないよ。他のトンビやカラスには内緒だからね」
と和寿は言ってやった。三羽は仲良く帰って行った。
夕方、家には、スズメの群れがやって来た。チュヴィンはみなに何か話そうとしている。
「今から北の森作戦の祝勝会をする。ご主人が雑穀をたらふく食べさせてくれるということだ。ありがたく頂戴しよう」
チュヴィンのスピーチが終ると、和寿は雑穀を五カ所に分けて置いていった。「美味しいね」とあちこちでスズメが仲よくついばんだ。おかわりも自由だ。和寿はまだ雛だった頃のチュヴィンを思い出していた。あんなにも虚弱だったチュヴィンが今では皆を率いてまとめている。僕もいつかあんな風に成長していきたいなと思っていた。スズメたちは、たらふく食べてねぐらに帰って行った。
和寿は夕食後、おじいさんも呼んで、文鳥のブンちゃんをかごから出してやった。最後の祝勝会だ。そして庭でつんだハコベとひまわりの種を剥いてやった。
「ご主人ありがとうございます。やっぱりご主人が一番我々の気持ちを分かってらっしゃる。ここに生まれてよかったです」
「わしは迷惑じゃったかなあ」
とおじいさんがしょげた。
「とんでもありません。わたしの話し相手の多くはおじいさんですから」
と文鳥のブンちゃんは笑っていた。
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