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第1章 100の仲間たち
12話 空太、旅立ち
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和寿はもう、内緒で鳥や動物と話すこともなくなった。魔女の封印を解かれて、すべての人にこの『万能のコミュニケーション能力』が、ある日突然、何の前触れもなく、自然にいきわたったのだから。この物語を読んでいる君と和寿と紳吉おじいさんには前後の違いが分かるけど、多くの物語の中の人には違いが分からない。いつとも知れず、そんな体に入れ替わっていたのだから。よっていつも通り何も変わらなかったといっていい感じなのだ。とりあえず物語を読んでいる君はコミュニケーションの質が密になってあまり話さなくても人の心が分かるようになったのと、鳥や動物たちの地位が上がった、少なくとも子どもたちにとっては。くらいは覚えておいてほしい。そして和寿は相変わらずスズメのチュヴィンたちと仲良くしていた。なんたって今の世界をつくったのはこの和寿と紳吉おじいさんを入れた100の仲間たちなのだから。
最近、和寿は学校に行くのに、チュヴィンに乗って行くのが日課になっていた。これは、和寿と紳吉おじいさんにのみ許された特別な魔法です。チュヴィンやハクちゃんの背中を撫でると、メキメキという轟と共に、みるみる背丈が縮んで小びとになり、そのまま鳥の背に乗って飛んで行けるというしろものでした。もしも姉の明美にこの魔法が知れたなら、さぞかしうらやむだろう。彼女は遅刻の常習者なのだから。365日ほぼ毎日朝からダッシュだ。和寿は学校に着くと再びチュヴィンの背を撫でて、シュ~~~という轟をあげて等身大になり替わった。小人になる時も等身大に戻る時も、一瞬の出来事なので、誰にもさとられずにすんだ。飼育係の和寿は、学校に着くとまだだれも登校していない校舎を調理室に向かい、給食を作っているおばさんたちに、とっておいてもらったくず野菜をもらって、教室に向かった。そして教室の扉を開けると、ウサギのピョンちゃんが話し始めた。
「やっと来たぞ。おいら腹がペコペコさ。早くご飯ちょうだい」
ピョンちゃんは北の森の作戦で魔女のおとりになって、一番の大仕事をしたと、どこか、威張りん坊さんになっていた。
「待ってよ。今敷き藁を取り換えるから、それが終わったらあげるよ」
「そんなつれないこと言わないでよ。最初にちょうだい」
和寿は何も答えないで、さっさと敷き藁を代えた。すると少し離れたところからハムスターのミッキーの声がした。こちらも威張りん坊さんだ。魔女の朝ご飯に唐辛子を入れたのは俺たち10匹の仕事だぞと言わんばかりだ。
「ウサギはもういいよ。こっちに野菜ちょうだい。我らこそ真の勇者」
とつぶやいている。それに対し和寿は、
「めんどくせー」
とつぶやいて笑った。でもこれも幸せな生活の証だ。そろそろ校舎に生徒が登校してくる。授業が始まるまでの自由時間、生徒の中には動物たちと触れ合う生徒もいた。和寿だからこそわかることだが、生徒たちとウサギやハムスターが何気なく話をしているのを聞くと感極まるものがある。これぞ和寿が夢見た世界だ。皆ももっと動物を好きになってほしいと思った。僕の好きなものをもっと知ってほしい。そんな純粋な思いだった。そんな時、教室の前の廊下で、クラスの自治委員の幹夫君から申し出があった。
「僕の家のハムスターが学校のハムスターの話をしたら、ここに来たいと言っているんだけどいいかな?」
幹夫君が話した。
「いいけど大切な家族じゃないの?」
和寿が言った
「そうなんだけど病気でもう先が長くないんだ。そんな時、学校のハムスターの話をしたら喜んで、僕もその勇敢なハムスターの一員に成りたい。と言い出して困っているんだ」
「無理にとは言わないよ」
と幹夫君は言った。
「もちろんいいけどあいつらに任せたら一日中、先の冒険の話をされてしまうよ。病気だっていうけど、しんどくないかな」
「でも死ぬまでにいい思い出が欲しいっていうんだ。でも学校のハムちゃんにしたらいい迷惑だよね」
「いや大丈夫さ。あいつらときたら死ぬのなんて怖くはないぞ。とはげましてくれるかもしれないよ。そういうやつらなんだ」
「それは、先の冒険(普通の人間には安易なファンタジーが伝わっている)で命を張ったからなの?」
「う、うん、そうらしいよ。とにかく勇敢な奴らなんだ」
「じゃあ連れてきてもいいのかい」
「良かったらぜひ」
「やったー。空太、喜ぶぞ。空太っていうんだ。ハムスターの名前」
「名前覚えたよ皆に伝えておく!」
「じゃあ明日連れてくるよ。じゃあね。準備するから帰るよ」
「うん、じゃあね」
和寿はハムスターのケージの前に行って話した。
「明日新しい仲間が増えるけど頼むね」
「どうしたんです。急に」
「クラスの幹夫君が、明日病気のハムスターを連れてくるんだ。思い出を作りたいんだって、だから得意の冒険の話でも聞かせってやってくれよ」
「もう先が長くないんですね、承知しました」
ハムスター班の大黒柱的存在のジェリーが答えた。
翌日ハムスターの空太がやって来た。病気の空太はもうあまり動かなかった。でも、空太は一生懸命立ち上がり皆に
「こんにちは」
と言った。
ハムスターのジェリーを始め皆が歓迎の意を込めて歌をうたい出した。
チューチュー僕らは勇敢なチューチュー隊
仲良しハムスターのチューチュー隊
皆が助けを呼んでいるレッツゴー
「皆さん歌をありがとう。どうかよろしくね」
と言って椅子に座った。
空太を迎えたハムスターたちは授業時間中も小さな声だったが、ずっと話をしていた。事情を知った先生は何も言わなかった。放課後までずっと話はを続いた。放課後になって幹夫君と生徒の半数が居残って空太の様子を観察した。ジェリーの冒険談は続く。疲れたのだろう空太は居眠りを始めたらしい。安らかな顔だった。ハムスターの一匹が空太にひざ掛けをしてあげてと言った。誰かが空太にブランケットをかけてあげた。
でも空太はもう息をしていなかった。
「勇敢だった空太君に哀悼の意を込めて敬礼」
とハムスターのミッキーが静かにうながした。
幹夫君の目から涙がこぼれる。
クラスのみんなも泣いていた
空太は満足だったろう…。
空太の旅立ちは象徴的出来事だった。子どもたちにとって動物の死も人間の死も、何ら変わりなかった。世の中は人間中心から鳥や動物の時代が来ようとしている。空太の永眠は大切な出来事として皆の記憶に刻まれた。鳥や動物たちは以前からずっと『万能のコミュニケーション能力』を使って生きてきた。人間は魔女の封印を解かれて、やっと目覚めた新参者といってよかった。
最近、和寿は学校に行くのに、チュヴィンに乗って行くのが日課になっていた。これは、和寿と紳吉おじいさんにのみ許された特別な魔法です。チュヴィンやハクちゃんの背中を撫でると、メキメキという轟と共に、みるみる背丈が縮んで小びとになり、そのまま鳥の背に乗って飛んで行けるというしろものでした。もしも姉の明美にこの魔法が知れたなら、さぞかしうらやむだろう。彼女は遅刻の常習者なのだから。365日ほぼ毎日朝からダッシュだ。和寿は学校に着くと再びチュヴィンの背を撫でて、シュ~~~という轟をあげて等身大になり替わった。小人になる時も等身大に戻る時も、一瞬の出来事なので、誰にもさとられずにすんだ。飼育係の和寿は、学校に着くとまだだれも登校していない校舎を調理室に向かい、給食を作っているおばさんたちに、とっておいてもらったくず野菜をもらって、教室に向かった。そして教室の扉を開けると、ウサギのピョンちゃんが話し始めた。
「やっと来たぞ。おいら腹がペコペコさ。早くご飯ちょうだい」
ピョンちゃんは北の森の作戦で魔女のおとりになって、一番の大仕事をしたと、どこか、威張りん坊さんになっていた。
「待ってよ。今敷き藁を取り換えるから、それが終わったらあげるよ」
「そんなつれないこと言わないでよ。最初にちょうだい」
和寿は何も答えないで、さっさと敷き藁を代えた。すると少し離れたところからハムスターのミッキーの声がした。こちらも威張りん坊さんだ。魔女の朝ご飯に唐辛子を入れたのは俺たち10匹の仕事だぞと言わんばかりだ。
「ウサギはもういいよ。こっちに野菜ちょうだい。我らこそ真の勇者」
とつぶやいている。それに対し和寿は、
「めんどくせー」
とつぶやいて笑った。でもこれも幸せな生活の証だ。そろそろ校舎に生徒が登校してくる。授業が始まるまでの自由時間、生徒の中には動物たちと触れ合う生徒もいた。和寿だからこそわかることだが、生徒たちとウサギやハムスターが何気なく話をしているのを聞くと感極まるものがある。これぞ和寿が夢見た世界だ。皆ももっと動物を好きになってほしいと思った。僕の好きなものをもっと知ってほしい。そんな純粋な思いだった。そんな時、教室の前の廊下で、クラスの自治委員の幹夫君から申し出があった。
「僕の家のハムスターが学校のハムスターの話をしたら、ここに来たいと言っているんだけどいいかな?」
幹夫君が話した。
「いいけど大切な家族じゃないの?」
和寿が言った
「そうなんだけど病気でもう先が長くないんだ。そんな時、学校のハムスターの話をしたら喜んで、僕もその勇敢なハムスターの一員に成りたい。と言い出して困っているんだ」
「無理にとは言わないよ」
と幹夫君は言った。
「もちろんいいけどあいつらに任せたら一日中、先の冒険の話をされてしまうよ。病気だっていうけど、しんどくないかな」
「でも死ぬまでにいい思い出が欲しいっていうんだ。でも学校のハムちゃんにしたらいい迷惑だよね」
「いや大丈夫さ。あいつらときたら死ぬのなんて怖くはないぞ。とはげましてくれるかもしれないよ。そういうやつらなんだ」
「それは、先の冒険(普通の人間には安易なファンタジーが伝わっている)で命を張ったからなの?」
「う、うん、そうらしいよ。とにかく勇敢な奴らなんだ」
「じゃあ連れてきてもいいのかい」
「良かったらぜひ」
「やったー。空太、喜ぶぞ。空太っていうんだ。ハムスターの名前」
「名前覚えたよ皆に伝えておく!」
「じゃあ明日連れてくるよ。じゃあね。準備するから帰るよ」
「うん、じゃあね」
和寿はハムスターのケージの前に行って話した。
「明日新しい仲間が増えるけど頼むね」
「どうしたんです。急に」
「クラスの幹夫君が、明日病気のハムスターを連れてくるんだ。思い出を作りたいんだって、だから得意の冒険の話でも聞かせってやってくれよ」
「もう先が長くないんですね、承知しました」
ハムスター班の大黒柱的存在のジェリーが答えた。
翌日ハムスターの空太がやって来た。病気の空太はもうあまり動かなかった。でも、空太は一生懸命立ち上がり皆に
「こんにちは」
と言った。
ハムスターのジェリーを始め皆が歓迎の意を込めて歌をうたい出した。
チューチュー僕らは勇敢なチューチュー隊
仲良しハムスターのチューチュー隊
皆が助けを呼んでいるレッツゴー
「皆さん歌をありがとう。どうかよろしくね」
と言って椅子に座った。
空太を迎えたハムスターたちは授業時間中も小さな声だったが、ずっと話をしていた。事情を知った先生は何も言わなかった。放課後までずっと話はを続いた。放課後になって幹夫君と生徒の半数が居残って空太の様子を観察した。ジェリーの冒険談は続く。疲れたのだろう空太は居眠りを始めたらしい。安らかな顔だった。ハムスターの一匹が空太にひざ掛けをしてあげてと言った。誰かが空太にブランケットをかけてあげた。
でも空太はもう息をしていなかった。
「勇敢だった空太君に哀悼の意を込めて敬礼」
とハムスターのミッキーが静かにうながした。
幹夫君の目から涙がこぼれる。
クラスのみんなも泣いていた
空太は満足だったろう…。
空太の旅立ちは象徴的出来事だった。子どもたちにとって動物の死も人間の死も、何ら変わりなかった。世の中は人間中心から鳥や動物の時代が来ようとしている。空太の永眠は大切な出来事として皆の記憶に刻まれた。鳥や動物たちは以前からずっと『万能のコミュニケーション能力』を使って生きてきた。人間は魔女の封印を解かれて、やっと目覚めた新参者といってよかった。
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