上 下
11 / 23
第1章 100の仲間たち

11話 魔女との総力戦2

しおりを挟む
 さて作戦も折り返し地点だ。魔女の魔力を減退するらしい唐辛子を魔女の朝食に混入させることに成功した。魔女がこの朝食を食べてくれれば魔女はただの老婆にすぎなくなるはずだ。部屋の片隅にある封印の水晶玉も、訳なく手に入れられるだろう。しかし果たしてうまくいくだろうか。チュヴィンが小屋の窓の片隅に隠れて中の様子をうかがった。隣には小人になった寿和が立っている。あれだけの唐辛子を朝食の煮込みに入れたのにもかかわらず、魔女は嫌な顔一つせず平らげた。チュヴィンは羽で寿和の背を押した。
「さあご主人の出番です」
寿和はチュヴィンの背を撫でた。シュ~~~ンという轟と共に等身大となり魔女の小屋の入り口をノックした
「誰だい」
魔女は入り口の扉を不用心に開けた。さっきのウサギが返ってきたと思ったのだ。そして寿和は部屋の片隅にある水晶玉を確認すると
「封印の水晶玉はいただいて行く」
といって強引に扉の中にはいって行く。魔女は魔法の呪文を唱えていた。しかし魔法は発動しない。どうやら魔封じも成功したようだ。魔女は杖で寿和をたたいたがそんなものへっちゃら。まるでぼうっきれで撫でられているほどの力しかこもっていない。寿和は、封印の水晶玉を持ち上げた。カラスのジャックが言った通りわりと重さがある。しかし寿和が持ち上げられるだけの重みしかなかった。さあ外では四角い網を広げたトンビが4羽待っている。寿和は網の真ん中に水晶玉を置いた。トンビは飛び立ち水晶玉は運ばれた。

上空に残っていたトンビやカラスが森に隠れていたウサギやハムスターをつかみ撤収する。彼らにはあと2往復、作戦本部との間を行き来してもらわねばならないだろう。スズメの撤収が残っていたのだ。魔女は相変わらず、か弱い力で杖を右に左に振っている。寿和を何とかしなければならないと一心不乱であったのだろう。あたりに運悪く子スズメが一羽隠れていた。メイちゃんだ。メイちゃんが杖で叩き落されてしまった。寿和は魔女の杖を取り押さえたチュビンが叩き落されたメイちゃんを見に行った。しかしメイちゃんは気を失っているだけらしい。寿和は左手に優しくメイちゃんを包み込んだ。ひとつでも犠牲者を出すわけにはいかない。魔女をこれ以上暴れないように寿和は体を抑えた。しばらくの間、抑えた。

さて最後の撤収だ。トンビとカラスがやって来た。まず寿和は気を失っているメイちゃんを優先してとんびに手渡した。続々やってくるトンビとカラスにスズメたちは運ばれてゆく。最後に寿和はチュビンの背を撫でるとメリメリメリと轟をあげ体が縮んでゆく。寿和はチュヴィンに身をまかせると空へ飛んで行った。魔女は寿和が小さくなりチュヴィンの背に乗り、逃げ去っていくのを確かめると、あとから追い上げた。しかし魔女のほうきの遅いこと遅いこと。時速1メートルくらいであろうかその飛行シーンはコミカルで面白かった。最後のトンビが寿和の乗ったチュヴィンをわしづかみにすると魔女にはどうやったって追い付かないスピードで離れてゆく。



「なっ。上手くいったろ。未来に心配や不安を持ち込む必要は無かったろ」
チュヴィンが言った。最後にちょっと子スズメが気絶させられたという予想外のアクシデントに見舞われたが、作戦は無事終わったのだ。おじいさんの運転する車は急ぐこともなく安全運転で自宅に向かった。気絶した子スズメのメイちゃんは無事目を覚ました。メイちゃんは最後までネットワークの一番隅でチュヴィンの声を仲間に伝えていたのだ。ご苦労様。

100の仲間たちが寿和の家に到着すると早速封印の水晶玉が寿和によって運ばれ、軒に設置された。そして封印を解くべく、スズメ4羽衆が集まって呪文が唱えられた。声は小さく聞き取ることはできなかったが、うなりのような音声となって場をおごそかにした。すると水晶玉に光が灯った。寿和は何が変わったか確かめるために、和美お母さんにチュヴィンを会わせてみた。
「こんにちは」
チュヴィンが話してみた。
「寿和、まだスズメを放さなかったの。駄目じゃない。あらこのスズメ。何か話したわよ。どうしちゃたのかしらわたし」
母さんが言った
「やった成功だ。これで世界が徐々に変化するだろう」寿和は喜んだ。



『万能のコミュニケーション能力』が人間に備わるとどうなるか。コミュニケーションが密になった。敵や味方がはっきりしてくる。しかしそれによって争うこともしなくなるのだ。争えばどちらも得が無いという結論にお互いが気づくのだ。それにコミュニケーションの障害という観念自体が無くなった
さらに人間と動物間での変化。双方向のやり取りができるようになった。これによって人間が発見したのは、鳥や動物が決して格下の生き物ではないという考え方だ。お互いの世界を大切にし始めたのだ。これで動物園などの施設は減り始めた。あらかじめわかっていたことだが知的生物であるイルカやクジラを狩るという習慣も無くなった。

まだまだ色々なことがたくさん起こった。
しおりを挟む

処理中です...