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第1章 100の仲間たち

09話 紳吉おじいさん、出撃する

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 おじいさんは、もう現役を引退していたが、造園家だった。車の運転は慣れっこで、道は良く知っていた。
「富士山麓の北で森といったら青木ヶ原樹海であろう」
土曜日の朝、おじいさんは車を走らせた。出発から到着まで途中何度かサービスエリアと道の駅で休憩し6時間はかかったろう。河口湖に着いた。大変な道のりだった。トンビのビスコが車酔いをして吐いてしまった。みなも疲れていたので捜索は明日の朝からにしようと話し合った。その日寿和とおじいさんは車でひと晩を明かすことにした。鳥たちはその辺でご飯を食べた。寿和とおじいさんも持ってきていた大量のおにぎりを少し食べてひと心地ついた。寿和とおじいさんは車のシートを倒して眠ってしまった。

 翌朝になった。皆朝食を済ませ、ミッションに備えた。さあ始めようおじいさんは言った。上空からトンビが、森の中をカラスが捜索する。おじいさんと寿和はそれぞれ小人になってハクちゃんとチュヴィンに乗り、トンビとカラスたちについて行った。一日ではすべてを見ることができそうにない。全てを見渡すには1週間ほどかかるだろう。それほど広大な森だ。さとしは学校がある。帰らなければならない。あとはおじいさん任せとなった。おじいさんは寿和を家に戻して再び青木ヶ原樹海に出かけた。なあに現役の頃は24時間走っていたんだ。しかし車中泊を続けるのは、おじいさんにはつらかったので、近くの宿泊所に泊まることにした。

 そして捜索4日目の木曜日、カラスのアワアワが森の端に掘っ立て小屋を見つけたとの報告がチュヴィンを通じておじいさんに入った。トンビのヒョロンも上空から正確な位置を割り出した。魔女の小屋を尋ねるのは明日という事にした。部隊はその日はすぐに帰還して明日に備えることにした。

 その晩は全員が集まって会議が開かれた。車の脇にランタンを点した。トンビのピーヤンが
「明日は大丈夫だろうか」
と声をあげた。
「やっぱり魔女はここに居たのか。俺のばあ様の情報は正しかった」
トンビのトヴィンが話した。
「おれたちの命も明日までという事にならないだろうな」
カラスのブラックがつぶやいた。
「不吉なことを言うのはやめようぜ」
カラスのジャックが答えた。
皆は心配だったのだ。夜は更けていく。



 さて翌日の金曜日だ。部隊は昨日トンビのヒョロンが記憶した場所に向かう。トンビもからすも上空を一直線で飛んだ。目的地に着くと、確かに掘っ立て小屋がある。カラスのジャックが魔女の仲間のような身振りをしてたずねて行った。皆は周囲に隠れる。
「魔、魔女様」
どもってしまった
「日頃の感謝に応えて特性のパイを献上いたします」
このパイは寿和が用意しておじいさんに託したものだ。魔女には何が弱点となるかはわからない。そこでパイにしこたま唐辛子を仕込んでみたのだ。人間が食べれば大変なことになる。というか一口食べるだけで吐き出してしまうだろう。つまり食べられない。しかし魔女は食べた。でも何も起こらなかった。カラスのジャックはあせった。ここで弱った魔女をしり目に部屋の奥にある封印の水晶玉を仲間とともに奪って逃げるつもりだったのだ。しかも水晶玉は意外に大きくカラスがどうにかできるものでは無かった。魔女はパイを食べたが何かがおかしいと不振に思って
「これだけじゃなかろう」
とジャックに尋ねた。ジャックはとっさに、逃げ出した。隠れていた皆も一斉に飛びたった。魔女もほうきにまたがって追いかけてきた。しかしそのスピードの遅いこと、遅いこと、どうやら唐辛子がひそかに効いて魔女の魔力を弱めたのであろうか。しかし落ち付いてはいられない。魔女が魔力を封じられている間に逃げなくてはならない。森を出て皆は車に乗るとジャックは待機していたおじいさんとチュヴィンにわけを話した。おじいさんはみんなを乗せてすぐに車を走らせた。

 魔女から逃げて1時間ほどたっただろうか、どうやら魔女の追跡をまぬがれたようだ。もしあの唐辛子パイに魔力を弱める力が無かったら、今頃どんなことになっていたかと思うと、震えが止まらない。でも無事逃げられたので、作戦は成功としておこう。肝心の封印の水晶玉は手に入らなかったが。おじいさんは家に着いた



 さて翌日の土曜日の朝である。魔女の居場所は分かった。次はどんな手で行くか寿和は100の仲間を集めて会議を開いた。
「先週の作戦は少々場当たり的だった。今度は全員で出撃だ。土曜、日曜なら学校の教室の動物たちも参加できるであろう。そしてしっかり作戦を練ろう」
と寿和が言った。最初の偵察は文鳥のブンちゃんがやると言ってきかなかったので任せることにした。魔女に唐辛子が有効だというのは分かった。魔女にどうしたら唐辛子を食べさせられるのかという問題を話し合った。するとハムスターが
「魔女の食事時を狙って侵入し鍋の中に唐辛子を入れてくる」
と言った。
「この前の量じゃまだ魔力を失わないから大量に入れてこなければならない」
と寿和が言った。するとハムスターは
「10匹いるから大丈夫さ」
と言った。しかし魔女の小屋を留守にしなくてはとても無理であろうと皆は考えた。そこでウサギが
「魔女の鍋の具材になるように、おとりにでる」
と言い出した。でもとても危険な役なので皆は反対した。おじいさんに至ってはその自己犠牲の精神が切なくて涙を流した。そして語りだした。

「わしがそこに出てゆこう」
「わしが出てゆけば敵が現れたと思って魔女はウサギごときに目を向けることは無くなるだろう。わしはすぐにハクちゃんの背を撫で小人になる。そして素早く逃げる。魔女はまぼろしを見たと錯覚するであろう。戸惑って、しばらくはあたふたすること間違いなし。ウサギとわしの連携で時間を稼ぐことができる。そのすきにハムスターが鍋に唐辛子を盛ればよかろう。またそのすきにウサギも逃げればいい」
「あとは魔女に食事を促せばよい。魔女が鍋の唐辛子を食べたら、寿和の出番だ。魔女が魔法を失ったらただの老人だ。水晶玉を奪うくらいなんのこともない。あとはトンビとカラスにバトンタッチして網で水晶玉を、ウサギとハムスターも体を運んでもらえればいい。作戦総指揮と雑用はスズメ軍団に任せよう」
「わしと寿和はハクちゃんとチュヴィンを撫でれば小人になってどこへでも行ける」

 おじいさんは雄弁だった。これならボケることもなかろう。作戦は一週間後とした。
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