9 / 30
第1章 100の仲間たち
09話 紳吉おじいさん、出撃する
しおりを挟む日向智樹は何と言うか、感覚派な奴だった。
見かけ真面目なくせに、中身は大雑把というか、なんというか……
フットサルの動きもそんな感じ。「なんであんな動きしたの?」と聞くと、返ってくる答えは大体「何となく」だった。
勿論それが良い結果に結びつく事もあるけれど、いずれにしても自分を省みる事をしないから、結果が次に活きる事は無かった。
まあ趣味のようなサークルだし、そこまでは……と言えばそれまでなのだけれど、じゃあ何のための練習なんだとか。負けっぱなしじゃやる気出ないとか、そう言う話にもなるもので。
結果、なんて言うか……俺は日向に好かれていないようだった。
(努力の方向性が違うんだよなあ)
俺から見るとそうなんだけど、本人にとっちゃ精一杯頑張っている。じゃあお前はどうなんだと結果を引き合いに出されると、やっぱ考え方が違うんだよなと思う。
過程の方が大事じゃね?
結果に結び付かなくても、努力の方向性が分からないままがむしゃらに走っても、何が良かったのか、悪かったのかを自分で把握出来ないなら意味がない、と思う。
まあ日向は、そんな風にぐちぐちと言いたくなるような、俺にとっては相性の悪い相手。
だからそいつの彼女がサークルに顔を出した時、正直言ってうんざりした。
別に彼女を連れて来るなとは言わないよ。
他の部員も連れてきて見学とかしてるしな。
でもなー、心象としては日向の彼女と聞いただけで関わりたく無かった。
まあだからこっちも簡単な挨拶だけして気配消してんだけど。
マネージャーの亜沙美が「可愛い彼女さん」何て褒め言葉を日向に言ったのをきっかけに、頻繁に連れて来るようになってしまった。
……面倒くせ。日向だけでも鬱陶しいのに。
とは言え関わる気が無いものだから、視界に入れないでいると、逆に変に意識するようになる。
(何か静かじゃね……?)
チラリと見ればコートの端で一人座って観戦しているようだった。
……別にどこで見ようと勝手だけど……遠くないか?
日向を見れば彼女の事は目にも入らないのか、別の部員と話し込んでいる。
(俺関係ないし……)
結局そんな光景を三日も見たら俺の神経は根を上げてしまって……
仕方がないので、それとなく「彼女さん」に近付いて、もっと皆の傍に寄ったら? なんて声を掛けてみた。
「気が散るみたいなんです……すみません。お気遣いありがとうございます」
困ったように笑う彼女に対して眉間に皺が寄る。
──なんであいつの都合に付き合ってんの?
そもそもあいつも見栄の為に呼びつけておいて、放置って冷たく無いか?
イラつき出す俺に静かな声で彼女さんが口にする。
「ご迷惑ですか?」
「……いや」
そんな事を思ってる訳じゃ無いけど……
もし日向に「彼女を放っておくなよ」とか言ってしまえば、俺のその言葉を盾に「他の部員から苦情があったから」とでも彼女に対して言い兼ねない。
俺と同じように、あいつも俺の事は嫌っているからな。
だから、
「……彼女さん、名前何て言うの?」
そんなあいつの都合に付き合うのが嫌だと思った俺は、それなら彼女さんと仲良くなれば、あいつに苦言を呈してくれるかもしれない、なんて単純に考えて。深く考えもせず三上さんに声を掛けた。
三上さんは段々と亜沙美や他の女子部員たちとも仲良くなっていき、自然とサークルに溶け込んでいった。
俺も少しずつ彼女と話すようになっていって、彼女は大分盲目的だなあ。と、かなり心配になってしまった。
「日向の一途なところが好きになったんだ?」
恥ずかしそうに話す彼女を見ては、いらっと顳顬に力が篭る。
「そんな人が自分を好きになってくれたらなあ……と」
はにかむ顔にむかつくのは何故だ。
一途と言えば響きがいいけど、結局どっちつかずの状態なんじゃないの?
腹立ち紛れに、じゃあもう幼馴染の子とは会って無いんだね? なんて、意地悪な言葉をぶつけてしまった。
この歳まで仲良くしている幼馴染と、急に距離を置くなんてありえないような気はしてた。
それでも心のどこかで、彼女から「うん」なんて嬉しそうな返事が返ってくる予感があったのと、そんな反応を聞いておきたい自分がいたから。
けれど彼女は曖昧に笑っただけで……否定はしなかった。
それを見ただけで俺は、
頭にカッと血が登った。
(何でだよ)
何で平気なんだ?
ずっと本命だった相手と、彼氏がまだ会ってるんだぞ。
しかも三上さんも、何でわざわざライバルの女に会ってやるんだよ。お人好し過ぎるだろ。
声を掛ける日向もおかしいが、応じる三上さんだって──
何で主張しないんだ……
(何で俺はこんなにイライラしてるんだ)
三上さんが笑ってるから。
……日向が好きだって。
一途で……いい奴だって。
一途イコールいい奴って訳じゃないだろうに。
付き合ってる彼女を不安にさせてる時点で……本当は日向は不誠実なんじゃないの?
はっと気づく。
でも多分それは……俺が三上さんに……日向に対して持って欲しい感情なんだって……
だからいつもこんなにイラついてたんだ。
一体いつからか、どうしてか、何て、自分でもよく分からないけれど……
(うあー、最悪……)
大嫌いな奴の彼女の事が……俺は好きみたいだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説


なんでぼくじゃだめなの?
まりぃべる
児童書・童話
かずくんは、いつも気に入った服を着ます。それしか着ません。他の服たちも着て欲しいので、かずくんにお願いしてみると…?
子どもは大人には分からない〝自分のこだわり〟を持つ時がある。けれどそれを突き通すと…を書きました。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。

秘密
阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
時空捜査クラブ ~千年生きる鬼~
龍 たまみ
児童書・童話
一学期の途中に中学一年生の教室に転校してきた外国人マシュー。彼はひすい色の瞳を持ち、頭脳明晰で国からの特殊任務を遂行中だと言う。今回の任務は、千年前に力を削ぎ落し、眠りについていたとされる大江山に住む鬼、酒呑童子(しゅてんどうじ)の力の復活を阻止して人間に危害を加えないようにするということ。同じクラスの大祇(たいき)と一緒に大江山に向かい、鬼との接触を試みている間に女子生徒が行方不明になってしまう。女子生徒の救出と鬼と共存する未来を模索しようと努力する中学生の物語。<小学校高学年~大人向け> 全45話で完結です。
参上! 怪盗イタッチ
ピラフドリア
児童書・童話
参上! 怪盗イタッチ
イタチの怪盗イタッチが、あらゆるお宝を狙って大冒険!? 折り紙を使った怪盗テクニックで、どんなお宝も盗み出す!!
⭐︎詳細⭐︎
以下のサイトでも投稿してます。
・小説家になろう
・エブリスタ
・カクヨム
・ハーメルン
・pixiv
・ノベルアップ+
・アルファポリス
・note
・ノベリズム
・魔法ランド
・ノベルピア
・YouTube
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる