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第1章 100の仲間たち

06話 チュヴィン、話し始める

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 チュヴィンはご主人の仲間を増やすべくあちこちにビラをまいて回った。「仲間を集う。勇敢なるもの。人間を救う旅へ」しかしこれでは仲間が集まらなかった。どんな鳥や動物も多かれ少なかれ人間には困らせられていたのだから。「自業自得さ」というわけだ。それではどうすれば仲間を増やすことができるのか。それにはご主人の鳥や動物に優しい人柄、心意気を皆に示さねばならない。それにはご主人が自ら立ち上がって行動で示さなければならないだろう。ご主人は何故そんなことをしなければならないのかというかもしれない、やはりご主人には、この冒険の概要を知らせておかなければならない。世界滅亡までの期限は刻々と近づいている。チュヴィンはご主人に話さざる負えない時が来ているのを感じていた。そこでチュヴィンはご主人を背中に負っている時、少しずつ話すことにきめた。いきなり冒険の全貌を明らかにしてしまえば、ご主人は怖気づいてしまうかもしれない。そこは慎重に、ある日曜の朝、チュヴィンは、まずご主人と私たち鳥や動物がなぜ話せるのかを知ってもらうため背中に乗ってもらい何気なく話しだした。

「ご主人は何故私たち鳥や動物と話せるんだと思います。」
「それは僕の願いが神さまに知れて特別な恩恵にあずかったのだと思うけど」
今まではそれでよかった。しかしそれは正しくない。チュヴィンはまず、チュヴィン一族の持っている能力のことを話さねばならなかった。
「我々スズメの貴族には代々一羽一羽に人間一人だけに魔法の術を使える能力が引き継がれます。その能力は失われた人間のコミュニケーション能力(鳥や動物との、あるいは人間同士でも誤解を生まない万能のコミュニケーション能力)を回復するというものです」
「しかしそれは発揮する人間の方でも素質が無ければならないというものでした。しかし人間の中にその素質を持ったものの少なき事、少なき事、過去何代もの祖先が試したもののついにその願いはかないませんでした」
「しかしついに願いがかなったのです。ご主人が素質を持ちうる人間だったのです」
「僕にはうれしい能力だけどなぜ君たち一族はそんなに人間と話をしたがるの」
「それは人間の力が間違った方に傾いて来たからです。
「間違った方向とはどういう方向なの」
「それは人間が世界のことわりを知らずして、自らの種族の滅亡を、はては我らの滅亡を導いてしまうからです。各国の軍事化は一瞬にしてそんな事態を招いてしまうでしょう。また地球温暖化もその一つの予兆にすぎません」
「軍事の事や、地球温暖化のことは知っているよ。テレビで特集を組んでたまに放送されるからね」
「この事態を避けるために我々は過去に我々に人間がしてきたことを水に流して再び人間と話し合う用意があるのです」
寿和は困ってしまった。
「その話が本当だとしても僕にはそんな大それたことに協力する力はないさ」
「だからこそ仲間が必要なのです。ご主人にはまずその鳥や動物と話せる能力を使って仲間を増やしていただきたいのです」
「なぜ子供のぼくに相談するのさ」
この鳥や動物と話せる能力を使えるものは子供らしさを持った大人か、子どもそのものの内、ほんの一握りのものにしか許されていない能力だからです。
「スズメの君に何故そんな大それた使命をあたえられたのさ」
「それは過去に話し合いで決まったのです。我々スズメが君たち人間の一番そばにいる種族だからです。少なくとも人間一人の協力が必要なのです」
「君はそんな重要な任務に就いているなんて驚かなかったの」
「初めは驚きました。でもお父さんお母さんに説得されて、それに一度は死んでいた身の上、ご主人に命を拾われたのです。覚悟を決めました」
「ご主人も一回だけ魔法が使えますつまり人間の仲間を一人だけ増やせます。その時が来たら慎重に使ってください。我々鳥や動物にはその能力で無際限に仲間を集えます」
では今日のところはこれぐらいにしておきましょうとチュヴィンは去って行った。(余計なことを詮索されないうちに。)



 とりあえず寿和は今まで知り合った鳥や動物に会いに行くことにした。まずハクちゃんが寄ってきたので話をした。
「やあご主人、背中に乗りますか」
というのでお言葉に甘えて背中をさすった。メリメリメリといって寿和は縮んでいった。一瞬気を失うがいつもの事、すぐに正気を取り戻すと、ハクちゃんの首にしがみついた。そして飛んだ
「ねえ、ハクちゃん。君にお願いがあるんだけれど」
「なんですか改まって」
「君は僕の味方かい」
「なんですか、いきなり」
「今度僕は世界のために大仕事の片棒を担いだのさ」
「なんですかその大仕事とやらは」
「世界の滅亡がもう迫っているんだって。それを食い止める役を担ったのさ」
「それはいきなり大きな話ですね。いいですぜ。私は大いに人間に興味があるんで味方とやらになりましょう」
「本当かい。本当にこんな話をしても君は驚かないのだね」
「なんてことはない冗談でしょ。それくらい心得ていますよ」
「それが冗談じゃないんだ」
「いいですぜ。どんなことが起ころうとあっしはご主人が好きなんでお仲間という事で」
「なんか適当だな。まあいいや君が僕の二番目の仲間だ」
「一番は誰なんで」
「チュヴィンさ」
「なるほどね………。改めて仲間なんて言わなくてもあっしは初めからそのつもりですよ」
「いや君の言っている仲間と僕の言った仲間はちょっとニュアンスが違うんだ」
「分かってますって」
「そうかい」
「じゃあそんなわけでどこへ下りますか」
「じゃあ学校という事で」
「それじゃあ行き過ぎだ、少し戻りますぜ」
バタバタバタ………。
「それにしてもべんりだよね飛ぶって」
「我々は、飛べなくっちゃ商売あがったりでサー」
「そうかい」
「そら付きましたよ。それじゃあ、また会いましょう」
ハクちゃんは飛び去って行きました。
「大丈夫かなあ…」
寿和は、こんな調子で学校で飼っているウサギとハムスターにも説得にかかった。
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