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第04章 大団円
08話 日呂志おじさんの子犬たちのお世話
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日呂志おじさんは犬の離乳食をつくっていた。
「離乳食もそろそろ終わりだな」
子犬たちは生後ひと月半になっていた。さとしは
「大変だね」
と比呂志おじさんをねぎらった。
「おう、任せておけ。マルの子犬時代の世話は、おれがやっていたんだぞ。」
「人間の子どもを育てるにも劣らないほどの大変さよ。人間の子は、育てたことないけどな」
「日呂志おじさん仕事の方は大丈夫なの」
「ああ心配してくれてありがとう。でもそれにはおよばないよ。何時間すわっていてもしょうがないんだ。集中して3~4時間程度の時間がとれればそれでいい。あとは毎日それを続けられれば問題ない。おじさんは遅筆だからたくさん時間がかかるけれども、早いやつは同じ量の仕事を1時間でこなしてしまうよ。アイデアが思い浮かばなければ、その日はそれまで。筆が進むのに数日かかるかもしれないけれど仕方がない。そんなものなのさ」
さとしにはよくわからないけれど日呂志おじさんが言う通り「そんなものか」と思っておいた。
「今体重が800gぐらいだ。生まれてからの比較で8倍くらいに成長した。早いもんさ。まだ子犬の顔してるけれどポメラニアンであることは分かるだろ」
「ああ、本当だね。まちがいなくポメラニアンだ」
「最終的な大きさは今のところ分からない。サムに似れば大きくなるだろうし、ヒメに似れば小さくなるだろう。神のみぞ知るってやつだ。もうあと一ヶ月で飼育はバトンタッチだからな。覚悟はいいか?」
「うん。ユキの時も大変だったけど1年くらいの辛抱さ。それに一番かわいい時だしどんな苦労も乗り越えられるよ。あとは自然に成長してくれるよね」
「ああ。そうだ。頑張れよ。ユキはあの調子でマイペースだから、子犬を可愛がってもしっとすることはないだろう。サムのところも、うちに来て顔合わせしたときは、親子という認識で自覚があるようだから安心だね。けんかすることもないだろうに」
と、日呂志おじさんは言った。それから時は学校での文化祭などをはさんで、またたくように過ぎていった。
さあ、子犬が産まれて3カ月。12月の半ばだ。約束の日がやって来た。散歩会のメンバーは雨宮家に集合した。子犬の飼育が日呂志おじさんから、それぞれのメンバーにバトンタッチされる日だ。日呂志おじさんは名前を考えてきたか、とみなに聞いた。たえ子ちゃんはその黒のポメラ二アンの女の子に「モモ」という名前を付けた。ヒロちゃんが聞いた。
「何で「モモ」にしたの」
「エンデの童話「モモ」の主人公の名前なの。時間泥棒の灰色の男たちから時間を取り戻してくれるのよ」
しかしヒロちゃんはたえ子ちゃんといっしょに図書委員をしていたにもかかわらず、本をまったく読まなかったので、何のことかさっぱり分からなかった。たえ子ちゃんが聞いた
「ヒロちゃんは何て付けたの」
ヒロちゃんはそのクリームのポメラニアンの男の子に「フク」という名をつけた。
「フクにした。幸福の福さ」
ヒロちゃんの名付けは、いつもそのままの単純だった。しかしヒメにしろフクにしろ、ヒロちゃんなりの愛情がこもっているのを知っていたからみなは何も言わなかった。
寺本が聞いた。
「さとしはなんて名付けたのさ」
さとしの子犬もクリームの男の子だ。
「ぼくはソラにした。大空のように大きな心を持ってもらいたいんだ」
「みな名づけ方に個性があっていいね」
日呂志おじさんは言った。
さとしがいつから散歩会にさんかさせるかみなに問うた。
「寺本とお日呂志じさん以外は、みな2ひきだからな。当分の間は抱っこ散歩だろ。手がふさがっているから、2ひきは無理だ。ペットカートがあれば片手が空く。まずはカートを買わなくちゃ。この辺にカートが置いてある店なんかあったろうか?」
「そう言えば見た事ないわ」
たえ子ちゃんが言った。
日呂志おじさんが
「ネットで探しておくよ。おそろいでいいだろ」
と言ったので、三人は声をそろえて「はい」とお願いした。
これら三びきの子犬たちが、さらに散歩会メンバーの絆を深くしてゆくのだろう。この物語もそろそろ終わりです。散歩会のお話でしたね。その散歩会をつくったきっかけの犬がユキでした。これまでユキのことがあまり語られなかったので、次はユキの話をしましょう。
つづく
「離乳食もそろそろ終わりだな」
子犬たちは生後ひと月半になっていた。さとしは
「大変だね」
と比呂志おじさんをねぎらった。
「おう、任せておけ。マルの子犬時代の世話は、おれがやっていたんだぞ。」
「人間の子どもを育てるにも劣らないほどの大変さよ。人間の子は、育てたことないけどな」
「日呂志おじさん仕事の方は大丈夫なの」
「ああ心配してくれてありがとう。でもそれにはおよばないよ。何時間すわっていてもしょうがないんだ。集中して3~4時間程度の時間がとれればそれでいい。あとは毎日それを続けられれば問題ない。おじさんは遅筆だからたくさん時間がかかるけれども、早いやつは同じ量の仕事を1時間でこなしてしまうよ。アイデアが思い浮かばなければ、その日はそれまで。筆が進むのに数日かかるかもしれないけれど仕方がない。そんなものなのさ」
さとしにはよくわからないけれど日呂志おじさんが言う通り「そんなものか」と思っておいた。
「今体重が800gぐらいだ。生まれてからの比較で8倍くらいに成長した。早いもんさ。まだ子犬の顔してるけれどポメラニアンであることは分かるだろ」
「ああ、本当だね。まちがいなくポメラニアンだ」
「最終的な大きさは今のところ分からない。サムに似れば大きくなるだろうし、ヒメに似れば小さくなるだろう。神のみぞ知るってやつだ。もうあと一ヶ月で飼育はバトンタッチだからな。覚悟はいいか?」
「うん。ユキの時も大変だったけど1年くらいの辛抱さ。それに一番かわいい時だしどんな苦労も乗り越えられるよ。あとは自然に成長してくれるよね」
「ああ。そうだ。頑張れよ。ユキはあの調子でマイペースだから、子犬を可愛がってもしっとすることはないだろう。サムのところも、うちに来て顔合わせしたときは、親子という認識で自覚があるようだから安心だね。けんかすることもないだろうに」
と、日呂志おじさんは言った。それから時は学校での文化祭などをはさんで、またたくように過ぎていった。
さあ、子犬が産まれて3カ月。12月の半ばだ。約束の日がやって来た。散歩会のメンバーは雨宮家に集合した。子犬の飼育が日呂志おじさんから、それぞれのメンバーにバトンタッチされる日だ。日呂志おじさんは名前を考えてきたか、とみなに聞いた。たえ子ちゃんはその黒のポメラ二アンの女の子に「モモ」という名前を付けた。ヒロちゃんが聞いた。
「何で「モモ」にしたの」
「エンデの童話「モモ」の主人公の名前なの。時間泥棒の灰色の男たちから時間を取り戻してくれるのよ」
しかしヒロちゃんはたえ子ちゃんといっしょに図書委員をしていたにもかかわらず、本をまったく読まなかったので、何のことかさっぱり分からなかった。たえ子ちゃんが聞いた
「ヒロちゃんは何て付けたの」
ヒロちゃんはそのクリームのポメラニアンの男の子に「フク」という名をつけた。
「フクにした。幸福の福さ」
ヒロちゃんの名付けは、いつもそのままの単純だった。しかしヒメにしろフクにしろ、ヒロちゃんなりの愛情がこもっているのを知っていたからみなは何も言わなかった。
寺本が聞いた。
「さとしはなんて名付けたのさ」
さとしの子犬もクリームの男の子だ。
「ぼくはソラにした。大空のように大きな心を持ってもらいたいんだ」
「みな名づけ方に個性があっていいね」
日呂志おじさんは言った。
さとしがいつから散歩会にさんかさせるかみなに問うた。
「寺本とお日呂志じさん以外は、みな2ひきだからな。当分の間は抱っこ散歩だろ。手がふさがっているから、2ひきは無理だ。ペットカートがあれば片手が空く。まずはカートを買わなくちゃ。この辺にカートが置いてある店なんかあったろうか?」
「そう言えば見た事ないわ」
たえ子ちゃんが言った。
日呂志おじさんが
「ネットで探しておくよ。おそろいでいいだろ」
と言ったので、三人は声をそろえて「はい」とお願いした。
これら三びきの子犬たちが、さらに散歩会メンバーの絆を深くしてゆくのだろう。この物語もそろそろ終わりです。散歩会のお話でしたね。その散歩会をつくったきっかけの犬がユキでした。これまでユキのことがあまり語られなかったので、次はユキの話をしましょう。
つづく
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