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第03章 ヒロちゃん
12話 にぎやかになった、さとしの誕生会
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夏休み、最初の日曜日、今年も、さとしの誕生会がもようされた。今年は大掛かりだ。さとしのおばあちゃんはもちろん、散歩会のメンバーも呼んだ。おばあちゃんの犬、マルは、お留守番だったが、散歩会メンバーのそれぞれの愛犬はいっしょだ。また、祝いの料理は一日前から仕込まれた。犬のおやつもたくさん用意された。
去年の誕生会に、今の生活の、すべてが始まったと言っていい。いやもっと前かも。さとしがおばあちゃんの家のマルに出会った時からそれは始まっていたのかもしれない。さとしは一人っ子で両親が共働きの鍵っ子だった。親友がいたとはいえ、多くの時間を一人で過ごし孤独だった。そんな時におばあちゃんの家のマルに出会ったのだ。この世に、こんなに自分を励ましてくれる存在がいるなんて、さとしは知らなかった。やがてさとしは自分にも、こんな存在がやって来てくれるのなら、どんなにうれしいだろうかと夢見るようになった。そして、去年の誕生会のおばあちゃんとの約束で、さとしのもとに愛犬ユキがやって来たのだ。
そろそろ始まるようだ。日呂志おじさんがマイクに向かう。
「あっあっ…。みなさんごせいしゅくに。今日は、お集まりいただきありがとうございます。それではこんにち、雨宮さとし君の誕生会を始めたいと思います。みなさん盛り上がってまいりましょう」
そしてみなはクラッカーのひもを引いた。「パン・パパン・パンパン おめでとう!」
みなは拍手でさとしを歓迎した。そしておじさんが指揮棒を取り出し、合唱が始まった。
「ハッピー・バースデー・トゥー・ユー ハッピー・バースデー・トゥー・ユー ハッピーバースデー・ディアさとし君 ハッピー・バースデー・トゥー・ユー」
みなが口笛を鳴らす。クラッカーもなった。
「それではみなさん御着席を」
みなは、話が盛り上がるようにと、小さめの二つの卓を囲んだ。ひとつは家族の卓、大人4人、もうひとつは散歩会のメンバーの卓、子ども4人のものだ。
日呂志おじさんの進行が続く。
「さあ、それでは誕生日プレゼントの、ぞうてい式を行いましょう。まずは大人組を代表しておばあちゃんが一言」
「さとし君。お誕生日おめでとう。もう中学生になったのね。この前までまだ小学生だったのに」
息子の日呂志おじさんが突っ込んだ。
「そりゃあ、あたりまえのことだよ」
みなに笑いが起こった。
「私からは、ユキの服をプレゼントするわ。採寸はマルのものだけど、親子だもの、きっとぴったりのはずよ」
おばあちゃんは得意のさいほうでユキの服を縫ってきたのだ。色違いで二枚用意されていた。共に服の背中にはユキの顔がそっくりリアルにししゅうされている。この写実的な刺しゅうは、おばあちゃんの作品の特徴だ。
「おばあちゃんの作ってくれるものには、何か力が宿っているんようなんです。去年のししゅう入りコースターだってそうさ。あれは今。ぼくのお守りになっていて、ずっと、はだみはなさず持っているんです。今年のユキの服はどんな力を発揮するのか楽しみです。ありがとうおばあちゃん」
さとしは礼を言った。
子ども組はみなで小遣いをかき集めたお金で、ユキのカッパを買ってプレゼントしてくれた。
「わあ、ありがとう。今のカッパが小さくなってたから困っていたんだ。これで雨の日も安心さ」
さとしはありがたく受け取った
「さあ堅苦しいのはここまで。あとは自由に歓談しましょう。それでは」
またみなが口笛を吹く。おじさんの進行は一時中断された。
後はみな、おいしく食べて、楽しく会話しながら時を過ごした。愛犬たちも普段はあまり食べられないものを喜んで食べていた。心配していたヒロちゃんのヒメも仲間に交わって食べていた。ちょっとおとなしめだったけれど確かに散歩会のメンバーとしての自覚が感じられた。これだけでも大進歩だ。食べたい盛りのさとしのユキがおとなしいふりを装って、なんだかんだよく食べていたのが笑えた。たえ子ちゃんのサムは頭を働かせて次に出て来るおやつをさいそくした。寺本のロロは主人そっくりで紳士を決め込んでいる。愛犬は主人そくっりになって行くという仮説を体で表現している…。
賑やかになった、さとしの誕生会。きっかけは何にせよ、犬が暮らしに入ってきたことによるものと言ってもよさそうだった。さとしの孤独は半分になった。そしてその半分の孤独はさとしの成長に必要な孤独だった。つまりネガティブな孤独だけが消えて無くなったのだ。さとしは心底喜んだ。こんな日がずっと続けばいいのにと思った。
つづく
去年の誕生会に、今の生活の、すべてが始まったと言っていい。いやもっと前かも。さとしがおばあちゃんの家のマルに出会った時からそれは始まっていたのかもしれない。さとしは一人っ子で両親が共働きの鍵っ子だった。親友がいたとはいえ、多くの時間を一人で過ごし孤独だった。そんな時におばあちゃんの家のマルに出会ったのだ。この世に、こんなに自分を励ましてくれる存在がいるなんて、さとしは知らなかった。やがてさとしは自分にも、こんな存在がやって来てくれるのなら、どんなにうれしいだろうかと夢見るようになった。そして、去年の誕生会のおばあちゃんとの約束で、さとしのもとに愛犬ユキがやって来たのだ。
そろそろ始まるようだ。日呂志おじさんがマイクに向かう。
「あっあっ…。みなさんごせいしゅくに。今日は、お集まりいただきありがとうございます。それではこんにち、雨宮さとし君の誕生会を始めたいと思います。みなさん盛り上がってまいりましょう」
そしてみなはクラッカーのひもを引いた。「パン・パパン・パンパン おめでとう!」
みなは拍手でさとしを歓迎した。そしておじさんが指揮棒を取り出し、合唱が始まった。
「ハッピー・バースデー・トゥー・ユー ハッピー・バースデー・トゥー・ユー ハッピーバースデー・ディアさとし君 ハッピー・バースデー・トゥー・ユー」
みなが口笛を鳴らす。クラッカーもなった。
「それではみなさん御着席を」
みなは、話が盛り上がるようにと、小さめの二つの卓を囲んだ。ひとつは家族の卓、大人4人、もうひとつは散歩会のメンバーの卓、子ども4人のものだ。
日呂志おじさんの進行が続く。
「さあ、それでは誕生日プレゼントの、ぞうてい式を行いましょう。まずは大人組を代表しておばあちゃんが一言」
「さとし君。お誕生日おめでとう。もう中学生になったのね。この前までまだ小学生だったのに」
息子の日呂志おじさんが突っ込んだ。
「そりゃあ、あたりまえのことだよ」
みなに笑いが起こった。
「私からは、ユキの服をプレゼントするわ。採寸はマルのものだけど、親子だもの、きっとぴったりのはずよ」
おばあちゃんは得意のさいほうでユキの服を縫ってきたのだ。色違いで二枚用意されていた。共に服の背中にはユキの顔がそっくりリアルにししゅうされている。この写実的な刺しゅうは、おばあちゃんの作品の特徴だ。
「おばあちゃんの作ってくれるものには、何か力が宿っているんようなんです。去年のししゅう入りコースターだってそうさ。あれは今。ぼくのお守りになっていて、ずっと、はだみはなさず持っているんです。今年のユキの服はどんな力を発揮するのか楽しみです。ありがとうおばあちゃん」
さとしは礼を言った。
子ども組はみなで小遣いをかき集めたお金で、ユキのカッパを買ってプレゼントしてくれた。
「わあ、ありがとう。今のカッパが小さくなってたから困っていたんだ。これで雨の日も安心さ」
さとしはありがたく受け取った
「さあ堅苦しいのはここまで。あとは自由に歓談しましょう。それでは」
またみなが口笛を吹く。おじさんの進行は一時中断された。
後はみな、おいしく食べて、楽しく会話しながら時を過ごした。愛犬たちも普段はあまり食べられないものを喜んで食べていた。心配していたヒロちゃんのヒメも仲間に交わって食べていた。ちょっとおとなしめだったけれど確かに散歩会のメンバーとしての自覚が感じられた。これだけでも大進歩だ。食べたい盛りのさとしのユキがおとなしいふりを装って、なんだかんだよく食べていたのが笑えた。たえ子ちゃんのサムは頭を働かせて次に出て来るおやつをさいそくした。寺本のロロは主人そっくりで紳士を決め込んでいる。愛犬は主人そくっりになって行くという仮説を体で表現している…。
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つづく
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