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第03章 ヒロちゃん
10話 ユキとヒメ
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ヒロちゃんの愛犬ヒメは元保護犬。それ以前は劣悪な環境で生きてきた。ヒロちゃんが里親になりヒロちゃんにだけは心を開いたものの、他の犬との関係、ヒロちゃん以外の人との関係、といった社会性を築くには、まだまだクリアしなければならない問題がたくさんある。それらを築くには散歩が一番だとヒロちゃんは思っていた。しかしなかなか進展しない。しかし不思議なことにヒメは猫にだけには興味を示した。散歩中に現れる猫にだけは寄って行く。こうなったら猫にだけでもいいから心を開いてくれ、とヒロちゃんは思っていた。しかし片思いのようだ。ヒメは寄るのだが、猫は避ける。あんまりしつこくすると猫は「シャーッ」と言って立ち去って行った。
今日もヒメはお尻の匂いをロロやサムユキに嗅がれた。自分の匂いも嗅いでいいよというサインだろうか。しかしヒメは、今日も嗅ぎ返すことをしない。そして散歩が始まった。ヒメは最後方を行く、ロロ(マルチーズ、オス、4歳6か月)と寺本が先頭で、サム(ポメラニアン、オス、4歳)とたえ子ちゃんが次、3番目をユキ(柴犬の雑種、メス、10カ月)とさとしが歩き、4番目がヒメ(ポメラニアン、メス、推定6歳)とヒロちゃんが行く。正確に言えば5番目だ。日呂志おじさんが4番目でその後を行く。
ヒメは6歳。生まれてから6年の習慣を変えるのは並大抵のことじゃない。ヒロちゃんはじっくりと構えるしかなかった。なに、ヒメと名づけたんだ。名は体をあらわす。幸せになってくれるさ、とヒロちゃんは辛抱強く待つことにした。時々ユキが下がってきてしきりにヒメの機嫌をうかがう。
「女の子はやっぱり優しいな」
と日呂志おじさんが言った。
でもヒメは、そんなユキにさえあまり反応を示さなかった。
ヒロちゃんはユキに礼を言った。
「ユキちゃんありがとう。そのうちヒメはユキちゃんのいい友達になってくれるさ。あはは…」
ユキは
「ワン!」
と一声鳴いた。その時である。ヒメがおもむろにユキに近ずいて、ユキのお尻の匂いを嗅いだのは。それを見ていたさとしとヒロちゃんと日呂志おじさんは驚いた。おじさんは感嘆の声を上げた。
「へー! やっぱり女の子は女の子同士で伝わるものがあるんだな」
と言った。寺本とたえ子ちゃんが
「なになに」
と振り向いた。ヒロちゃんは
「今ヒメがユキちゃんのお尻の匂いを嗅いだんだ! 大進歩だよ!」
と大声で叫んでいた。我がことのように喜んだ。しばらく散歩会の面々は立ち止ってヒメを囲い、膝を突き合わせた。寺本が
「ロロの匂いを嗅いでやってくれ」
とヒメに頼んだ。たえ子ちゃんまで
「サムの匂いも嗅いで」
とヒメに頼んだ。皆この記念すべき瞬間に立ち会ったことに感激した。元保護犬ヒメが初めて他の犬に心を開いたのだ。ヒメは心もとない顔をしていたが…。
「夏休みになったらもっといろんなことして遊ぼう。そうすればヒメちゃんももっと心開いてくれるかもしれない」
とさとしが言った。皆、夏休みが楽しみになった。あと1週間だ。
つづく
今日もヒメはお尻の匂いをロロやサムユキに嗅がれた。自分の匂いも嗅いでいいよというサインだろうか。しかしヒメは、今日も嗅ぎ返すことをしない。そして散歩が始まった。ヒメは最後方を行く、ロロ(マルチーズ、オス、4歳6か月)と寺本が先頭で、サム(ポメラニアン、オス、4歳)とたえ子ちゃんが次、3番目をユキ(柴犬の雑種、メス、10カ月)とさとしが歩き、4番目がヒメ(ポメラニアン、メス、推定6歳)とヒロちゃんが行く。正確に言えば5番目だ。日呂志おじさんが4番目でその後を行く。
ヒメは6歳。生まれてから6年の習慣を変えるのは並大抵のことじゃない。ヒロちゃんはじっくりと構えるしかなかった。なに、ヒメと名づけたんだ。名は体をあらわす。幸せになってくれるさ、とヒロちゃんは辛抱強く待つことにした。時々ユキが下がってきてしきりにヒメの機嫌をうかがう。
「女の子はやっぱり優しいな」
と日呂志おじさんが言った。
でもヒメは、そんなユキにさえあまり反応を示さなかった。
ヒロちゃんはユキに礼を言った。
「ユキちゃんありがとう。そのうちヒメはユキちゃんのいい友達になってくれるさ。あはは…」
ユキは
「ワン!」
と一声鳴いた。その時である。ヒメがおもむろにユキに近ずいて、ユキのお尻の匂いを嗅いだのは。それを見ていたさとしとヒロちゃんと日呂志おじさんは驚いた。おじさんは感嘆の声を上げた。
「へー! やっぱり女の子は女の子同士で伝わるものがあるんだな」
と言った。寺本とたえ子ちゃんが
「なになに」
と振り向いた。ヒロちゃんは
「今ヒメがユキちゃんのお尻の匂いを嗅いだんだ! 大進歩だよ!」
と大声で叫んでいた。我がことのように喜んだ。しばらく散歩会の面々は立ち止ってヒメを囲い、膝を突き合わせた。寺本が
「ロロの匂いを嗅いでやってくれ」
とヒメに頼んだ。たえ子ちゃんまで
「サムの匂いも嗅いで」
とヒメに頼んだ。皆この記念すべき瞬間に立ち会ったことに感激した。元保護犬ヒメが初めて他の犬に心を開いたのだ。ヒメは心もとない顔をしていたが…。
「夏休みになったらもっといろんなことして遊ぼう。そうすればヒメちゃんももっと心開いてくれるかもしれない」
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つづく
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