犬と歩けば!

もり ひろし

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第03章 ヒロちゃん

09話 寺本とロロのお話

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 さて、長かった梅雨が明けた。梅雨明けとともにやってきた夏という季節を、五人と四匹は謳歌した。酷暑だった昼間に比べ、夕方は少し過ごしやすい。散歩会の面々はそれぞれに愛犬に暑さ対策をしていた。皆、冷凍庫で凍らせる保冷剤を、うまく利用していた。例えば寺本は愛犬ロロの首に格好よくスカーフを巻いてその中に保冷剤をしのばせている。そうだ。今回は今まであまり語られてこなかった寺本と愛犬ロロの話をすることにしよう。ロロはマルチーズの4歳6か月のオス犬だ。

 寺本は口数が少ないが、勉強ができてクールな男の子だ。家はお金持ちだった。父親は大手製薬会社の重役で寺本はその素養を受け継いでいた。そんな彼の将来は、じきにエリートとなり出世街道をまっしぐらと言ったところだろう。しかし本人はつまらないと言っていた。父親は多くの時間を出張先の外国で過ごし家を空けることが多かった。寺本も一皮むけばまだ中学生の子どもだ。父親のいない家が寂しかったに違いない。家には留守を守る母親と妹がひとりいるが、父親が恋しい。そこにロロがあてがわれたのだった。
 ロロは自分の任務を知ってか知らずか、主の寺本が絶対の忠犬で、冷静沈着な賢い犬だった。いざ自分の存在を示そうものなら、勇敢に働いた。例えば、仲間のひとりがピンチの時などにロロは力を発揮する。
 今朝の散歩の時などは、ろくにしつけもしていない大型犬がリードをかみ切って逃げて来たのだろう先頭を歩いていた寺本に襲い掛かってきた。そこにロロは反応し、寺本とその大型犬の中に割って入り、大声で吠え、寺本は難を逃れた。寺本は
「よーし」
とロロをねぎらった。寺本とロロの間には無言の絆があった。言葉を交わさなくても分かりあっている。寺本にはロロが必要だったし、ロロは自分の存在を頼りにしてくれる寺本が必要だったのだ。それがロロの生きる証だった。
 また、ちょっと前の散歩会の出来事だけれど、こんなこともあった。たえ子ちゃんの具合が悪くなった時に、ロロがいち早く彼女に寄り添い、ヒロちゃんに吠えたのだ。ヒロちゃん何のことか分からずロロにびっくりしたが、それ以前にロロが寄りそっているたえ子ちゃんの顔が青白いのに気づいた。たえ子ちゃんの母親が言っていた、「低血糖にだけは注意してあげて」と言われていたことを思い出すと、ヒロちゃんは彼女のポケットに入っていた角砂糖を彼女に食べさせて、難を逃れたのだ。実際にたえ子ちゃんは低血糖を起こしていたのだった。

 ロロは危険察知能力に、ずば抜けて頭がよく回転した。頭脳派のたえ子ちゃんのサムでさえ、そこだけはかなわない。普段はむすっとしているが、その力量には目を見張るものがある。また。ロロは人の言葉もよく理解していた。たえ子ちゃんのサムも人の言うことをよく理解していたが、ここが違う。主の言うことと自分の思っていることが違っていてもロロは真っ先に主に従う。たえ子ちゃんちのサムは一回は自分の我を通そうとするのだ。この夕方もそうだった。
「さあ、引き返そうか」
と日呂志おじさんが言うとロロは真っ先に従うが、サムは地面にふせてしまった。まだ散歩したかったのであろう。リードを引いてもびくともしない。強く引くと地面を引きずられて行くが立とうともしない。さとしとヒロちゃんが笑った。
「あはは…引きずられてるよ」
たえ子ちゃんが
「サームー」
と少し、おっかない声でいうと、しぶしぶ立ち上がって従わされた。そこもかわいいのだけれどね。

 さとしのユキと、ヒロちゃんのヒメも、少しためらったが女の子同士、素直にみんなに従った。

 今日も無事終わった。特に何も起こらなかったけど、皆は幸せに満足した。帰り道まず海の近くに家のある寺本とロロが別れを告げた。そしてさとしとヒロちゃんの家の前まで来ると日呂志おじさんを含めて三人と二匹が帰っていった。たえ子ちゃんとサムの家もここからそう遠くない。ひとりになった、たえ子ちゃんは、今日の散歩会も楽しかったなと思い出しながら、サムを引っ張ってスキップしながら帰っていった。サムは引っ張られて少し迷惑だなっと思ったが、されるがままに従った。

                                   つづく
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