28 / 46
第03章 ヒロちゃん
04話 ヒロちゃん、たえ子ちゃん、うわさ話その後
しおりを挟む
5月も末のころのことである、空模様は走り梅雨を思わせた。たえ子ちゃんはもうすっかり学校になれた。とはいっても話をする相手が増えたわけではないので孤立しがちだったのだが…。ひとりに慣れたという事かもしれない。しかし、早朝と放課後の犬の散歩会があれば、ほぼほぼ心は満たされた。ここのところヒロちゃんの態度がつれなくなったのを除いては…。
さて、ヒロちゃんとたえ子ちゃんを、からかったあののうわさ話はどうなったのか。だいぶ薄まりはしたものの、鈴木を中心に、まだ辺りをにぎわしていた。しつこいやつらだ。
しかし、たえ子ちゃんはうわさ話を気にしていなかった。むしろ
「本当にヒロちゃんがわたしのことを好きならいいのにな」
とさえ思っていた。たえ子ちゃんは優しいヒロちゃんが好きだった。でもヒロちゃんは、この頃少し冷たい。
「ヒロちゃんはうわさ話を気にして、わたしから距離を置いているのではないか」
そんな思いが彼女の心情とは裏腹に、彼女を遠慮という行為に駆り立てた。
その他、この歳なりに、女性としての自分の未来を考えてみた。
「病気のせいで健康な赤ちゃんを授かれないかも知れない。そして、わたしの寿命も短いかもしれない。そんなわたしを誰がお嫁さんにもらってくれるのか」
そんな不安が心をよぎった。
「何でわたしだけがこんな運命に…」
たえ子ちゃんは、孤独を感じたし、病気を恨めしくも思った。
一方のヒロちゃんは、どう思っているのか。たえ子ちゃんの思う通り、うわさ話を気にしていた。でも、たえ子ちゃんにも、そのわけまでは、予想もつかなかった。ヒロちゃんは
「たえ子ちゃんが迷惑しているのではないか」
と思っていたのだ。そして
「こんな気弱な僕のことを、たえ子ちゃんが好きになるわけがない」
との一念に心が支配されていた。前にも述べたが、ヒロちゃんは、たえ子ちゃんのことを異性としてひそかに思っていた。それが無意識であるにせよ自然と態度に出ていたので、こんなうわさ話をされるはめになってしまったのではないのかと、恥ずかしい思いもしていた。
「うわさ話をされる前の自然な関係に戻りたい」
こんな思いが、この頃では、たえ子ちゃんに対するヒロちゃんの態度を冷たくしていたのだ。ふたりの仲は、何でもありませんよというわけだ、しかし結果は本人の意思とは裏腹にふたりの関係を悪くしてしまっただけだった。
ヒロちゃんは、たとえ散歩会でも、その態度を緩めなかった。困ったときはさとしらに相談すればいいと、日呂志おじさんにも言われていたのに、ヒロちゃんは恥ずかしがって相談しようとしなかったのだ。おじさんの見通しは甘かった。ただヒロちゃんはもう、たえ子ちゃんとは、以前のような関係には戻れないと泣く泣くあきらめていた。サムが両脇を歩いているヒロちゃんとたえ子ちゃんの顔を交互に眺めて、不思議そうな顔をした。
そう、ふたりはお互い思いあっているのに離れてしまった。たえ子ちゃんのヒロちゃんへの遠慮にしろ、ヒロちゃんのたえ子ちゃんへの冷遇にしろ、それは良かれと思ってやったことだった。このふたりの関係はどうなってしまうのか。両思いであることを、お互い知っていたなら、こんな不毛なことは起こらなかったであろうに。まだ幼い二人には他にどうすることもできなかった。
つづく
さて、ヒロちゃんとたえ子ちゃんを、からかったあののうわさ話はどうなったのか。だいぶ薄まりはしたものの、鈴木を中心に、まだ辺りをにぎわしていた。しつこいやつらだ。
しかし、たえ子ちゃんはうわさ話を気にしていなかった。むしろ
「本当にヒロちゃんがわたしのことを好きならいいのにな」
とさえ思っていた。たえ子ちゃんは優しいヒロちゃんが好きだった。でもヒロちゃんは、この頃少し冷たい。
「ヒロちゃんはうわさ話を気にして、わたしから距離を置いているのではないか」
そんな思いが彼女の心情とは裏腹に、彼女を遠慮という行為に駆り立てた。
その他、この歳なりに、女性としての自分の未来を考えてみた。
「病気のせいで健康な赤ちゃんを授かれないかも知れない。そして、わたしの寿命も短いかもしれない。そんなわたしを誰がお嫁さんにもらってくれるのか」
そんな不安が心をよぎった。
「何でわたしだけがこんな運命に…」
たえ子ちゃんは、孤独を感じたし、病気を恨めしくも思った。
一方のヒロちゃんは、どう思っているのか。たえ子ちゃんの思う通り、うわさ話を気にしていた。でも、たえ子ちゃんにも、そのわけまでは、予想もつかなかった。ヒロちゃんは
「たえ子ちゃんが迷惑しているのではないか」
と思っていたのだ。そして
「こんな気弱な僕のことを、たえ子ちゃんが好きになるわけがない」
との一念に心が支配されていた。前にも述べたが、ヒロちゃんは、たえ子ちゃんのことを異性としてひそかに思っていた。それが無意識であるにせよ自然と態度に出ていたので、こんなうわさ話をされるはめになってしまったのではないのかと、恥ずかしい思いもしていた。
「うわさ話をされる前の自然な関係に戻りたい」
こんな思いが、この頃では、たえ子ちゃんに対するヒロちゃんの態度を冷たくしていたのだ。ふたりの仲は、何でもありませんよというわけだ、しかし結果は本人の意思とは裏腹にふたりの関係を悪くしてしまっただけだった。
ヒロちゃんは、たとえ散歩会でも、その態度を緩めなかった。困ったときはさとしらに相談すればいいと、日呂志おじさんにも言われていたのに、ヒロちゃんは恥ずかしがって相談しようとしなかったのだ。おじさんの見通しは甘かった。ただヒロちゃんはもう、たえ子ちゃんとは、以前のような関係には戻れないと泣く泣くあきらめていた。サムが両脇を歩いているヒロちゃんとたえ子ちゃんの顔を交互に眺めて、不思議そうな顔をした。
そう、ふたりはお互い思いあっているのに離れてしまった。たえ子ちゃんのヒロちゃんへの遠慮にしろ、ヒロちゃんのたえ子ちゃんへの冷遇にしろ、それは良かれと思ってやったことだった。このふたりの関係はどうなってしまうのか。両思いであることを、お互い知っていたなら、こんな不毛なことは起こらなかったであろうに。まだ幼い二人には他にどうすることもできなかった。
つづく
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
台風ヤンマ
関谷俊博
児童書・童話
台風にのって新種のヤンマたちが水びたしの町にやってきた!
ぼくらは旅をつづける。
戦闘集団を見失ってしまった長距離ランナーのように……。
あの日のリンドバーグのように……。

ぼくとぼくたち
ちみあくた
児童書・童話
大好きなおばあちゃんが急な病気で亡くなり、明くんへ残してくれたもの。
それは、山奥で代々守られてきたという不思議な鏡でした。
特別なおまじないをし、角度を付けて覗くと、鏡の中には「覗いた人」の、少しだけ違う姿が映し出されます。
人生の様々な場面で、「覗いた人」が現実とは違う選択をし、違う生き方をした場合の姿を見ることが出来るのです。
おばあちゃんは、鏡の中にいる自分と話したり、会ったりしてはいけない、と言い残していました。
でも、ある日、その言いつけを破ってしまった事から、明くんは取り返しのつかないトラブルへ巻き込まれてしまうのです……
エブリスタ、小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しております。

こどものくに こどもだけのくに
笹木柑那
児童書・童話
小学六年生のスバルは、ひょんなことから『うさぎ』にテーマパークの招待券をもらう。
そこは職業体験などができる『こどものくに』のはずだったけれど、よく読めば『こどもだけのくに招待券』と書いてある。
仲のいい友達と六人で遊びに行くと、何やら違う入り口に導かれる。
そこに並んでいた機械に寝かされて……
目を開けたら、そこは
「なあ、ここ、俺たちの町じゃん」
でもいつもと違うところがある。
だって、ここには大人がいない。
いや。大人だけじゃない。
オレたちの他には、誰もいないんじゃないか?

コンプレックス×ノート
石丸明
児童書・童話
佐倉結月は自信がない。なんでも出来て人望も厚い双子の姉、美月に比べて、自分はなにも出来ないしコミュニケーションも苦手。
中学で入部したかった軽音学部も、美月が入るならやめとこうかな。比べられて落ち込みたくないし。そう思っていたけど、新歓ライブに出演していたバンド「エテルノ」の演奏に魅了され、入部することに。
バンド仲間たちとの触れ合いを通して、結月は美月と、そして自分と向き合っていく。
怪異探偵№99の都市伝説事件簿
安珠あんこ
児童書・童話
この物語の主人公、九十九卯魅花(つくもうみか)は、怪異専門の探偵である。年は三十歳。身長が高く、背中まで髪を伸ばしている。彼女は、怪異が関係していると思われる事件を、彼女自身の特異能力によって解決していた。
九十九卯魅花は鼻が効く。怪異の原因となる人外を臭いで感じ取れるのだ。だから、ある程度の距離なら大体の居場所もわかる。
九十九卯魅花は物に魂を宿すことが出来る。どんな物体でも、付喪神(つくもがみ)にして、自分の頼れる仲間に出来るのだ。
そして、九十九卯魅花は、過去に神隠しにあっている。翌日発見されたが、恐怖で彼女の髪は白く染まっていた。その時から、ずっと彼女の髪は白髪である。
東京都杉並区高円寺。とある小説で有名になった賑やかな商店街のいっかくにある九十九探偵事務所が、彼女の仕事場である。ここで彼女は助手の鷹野サキとともに、怪異の事件に巻き込まれた依頼人を待ち受けているのだ。
サキは童顔で身体が小さい。ショートボブの髪型も相まって、よく中学生と間違えられているが、年は二十七歳、アラサーである。
扉絵:越乃かん様

見える僕のこの世界の話 ~人に見えないモノが見える少年のお話~
かのん
児童書・童話
赤い和傘を背負う少年壱には人には言えない秘密があった。
それは、人には見えないモノが見えるという事。
これは、少年壱が、不思議な生き物の暁と出会ったことをきっかけに不思議な世界に巻き込まれていくお話し。
沖縄のシーサーとミケネコーンとわたしの楽しい冒険をどうぞ~
なかじまあゆこ
児童書・童話
友達がいることは素晴らしい! 異世界(怪獣界)から地球に落っこちてきたミケネコーンも人間もみんな友達だよ。
門柱の上に置かれていたシーサーの置物が目に入った。その時、猫の鳴き声が聞こえてきた。だけど、この生き物は白、茶色、黒の三色の毛色を持つ短毛のいわゆる三毛猫と同じ柄なんだけど、目なんて顔からはみ出すほど大きくて、お口も裂けるくらい大きい。
猫ではない不思議な生き物だった。
その生き物は「ミケネコーンですにゃん」と喋った。
シーサーとぶさかわもふもふ猫怪獣ミケネコーンと中学一年生のわたし夏花(なつか)とクラスメイトみっきーのちょっと不思議な元気になれる沖縄へテレポートと友情物語です。
ミケネコーンは怪獣界へ帰ることができるのかな。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる