犬と歩けば!

もり ひろし

文字の大きさ
上 下
25 / 46
第03章 ヒロちゃん

01話 ヒロちゃん、犬ぎらい直る? Ⅱ

しおりを挟む
 時はゴールデンウイーク初日、空は五月晴さつきばれで気持ちが良かった。以前は五月月晴れというと梅雨の晴れ間をさしたが、今では5月のさわやかな晴れ間のことを言う。
 そんな空の下、散歩会の面々もはつらつとしていた。先頭はロロと寺本ゆうじこと、寺本、二番目を行くのはサムと斉藤たえ子こと、たえ子ちゃんに、新田ひろゆきこと、ヒロちゃん、三番目をユキと雨宮さとしこと、さとし、最後方を藤堂日呂志こと、日呂志おじさんがとぼとぼとついて行く。もはやこの海岸線の遊歩道では、おなじみの風景だった。
 ロロは4歳のマルチーズのオス犬。性格は落ち着いていた。忠犬ちゅうけん中の忠犬である。サムは3歳半のポメラニアンのオス犬。性格はおっちょこちょい。でもとにかく陽気だった。ユキは7カ月の柴犬の雑種のメス犬。まだ子犬だけれど性格は情に厚く、おとなしめの優しい犬に育って行ってるようだ。それに母親のマルを見ればわかる通り中型犬なので散歩会の三匹のうちでも、もうすでに一番大きかった。

 ヒロちゃんはサムを挟んでたえ子ちゃんと仲良く話した。
「ぼくもポメラニアンだったら飼おうかなと思っているんだ」
サムにしか愛されないヒロちゃんはそう言った
「ぼくだけ犬を持っていないなんておかしいだろ。昨日父さんと母さんに話したんだ。ぼくにも犬を買ってって。そしたらあんたに犬を買ったらもっと勉強ができなくなるっていうんだ。だから言ってやったんだ。成績よくなったら買ってくれるのって? そしたら成績が学校でベスト10に入ったら飼ってやるって。」
ヒロちゃんは、満面の笑みをこぼして笑ったのだ。
「それじゃあ無理だな」
ベスト10の寺本が、即、否定した。
「なんでだよ」
「ヒロちゃんはワースト10テンだもんな、どうやってベスト10に入れるんだよ」
とさとしが言った。寺本はうなづいた。そして話した。
「ヒロちゃん。そろそろ勉強しないとまずいぞ。よっぽどの才能があるんなら別だが、世渡りに苦労するぜ。もっと勉強しとけばよかったってなるんだ」
日呂志おじさんが頭を抱えている。
「そうなのか。じゃあぼくもこれをきっかけに勉強するかな」
たえ子ちゃんがこらえきれず笑い出した。
ヒロちゃんもつられて笑い出した。
「今、ぼく、面白いこと言った?」
たえ子ちゃんが笑うとヒロちゃんもうれしいらしい。
「勉強した方がいいぞ。おれも最近親がうるさい。中学から少しは努力するように決めてる」
とさとしが言った。
「ぼくの親はあまり言わないよ」
ヒロちゃんの親がベスト10にと言ったのは何かの冗談だろう。ヒロちゃんは三人兄弟の三男、家ではそんなに期待されていなかった。親の教育方針は本人の自主性に任せるという事らしい。何とか高校を卒業して、自分の分をわきまえたところに就職してくれたら、それでいいと思っている。

                                   つづく
しおりを挟む

処理中です...