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第02章 散歩会新メンバー、日呂志おじさん、たえ子ちゃん
12話 人の口に戸は立てられぬ、人のうわさも七十五日
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さて翌日の早朝である。たえ子ちゃんは、いつもそうしていたようにサムを連れて、ヒロちゃんの家をたずねた。彼女は玄関のチャイムを鳴らす。ねむい目をこすって、ヒロちゃんが出た。
「おはよう、ヒロちゃん」
「おはよう、たえ子ちゃん」
サムが、ひろちゃんの足元に、まとわりついて来た。
「おお、よしよし。サムは人なつっこいな」
と言った瞬間ヒロちゃんはくつしたに暖かいものがしみていくのを感じた。
「アッこら! たえ子ちゃん。ぼくの足にサムがおしっこしてるよ」
「サム、ダメよ。人様に向けて、なんてことしてるの。ごめんなさい。ヒロちゃん。これはわざとやっているんじゃないの。サムとしては親愛の情をヒロちゃんに示しているだけなの。本当よ」
「本当?」
そこへ丁度さとしと日呂志おじさんが、ユキを連れてヒロちゃんちの玄関に上がって来た。
「おはよう」そして日呂志おじさんが笑って言った。
「ヒロちゃん。さてはサムにうれしょんされたな。あはは。サムは興奮するとおしっこもらすタイプか。俺も昔、飼っていた犬によくされたよ。うちを空けて久しぶりに帰った時なんかにな」
「サムは久しぶりにヒロちゃんに会えて、うれしかったんだよ。一番気に入られていたもんな」
さとしも、いっしょになって笑った。
「くつした変えて来るよ」
たえ子ちゃんは何度もヒロちゃんに謝った。
「さあ、急ごう。このさわぎで、また寺本を待たせてしまう」
とさとしは言った。ヒロちゃんはたえ子ちゃんに会って、なんだか気まずいなと思った。昨日、鈴木にからかわれたことを気にしていたのだ。そうだ。たえ子ちゃんは気まずくないのだろうか。ぼくがあんまりたえ子ちゃんに、熱心に話しかけたせいで、お調子者の鈴木のおもちゃにされたこと。そして何より、たえ子ちゃんを巻き込んでしまったことをおこっていないのだろうか。
寺本の家が見えてきた。寺本はもう外に出て待っていた。
「やあ、たえ子ちゃん久しぶり」
寺本が言った。寺本の愛犬のロロがたえ子ちゃんにしっぽを振っている。皆は、たえ子ちゃんとサムの復帰を喜んだ。寺本は言った。
「昨日変なうわさを耳にしたぞ。ヒロちゃんとたえ子ちゃんの仲があやしいとか何とか」
「なんだそれは、俺は初耳だぞ。ヒロちゃん、たえ子ちゃんのことが好きなのか」
さとしが言った。
ヒロちゃんは思った。「ぼくが2組で、寺本は3組で。さとしは1組だった。鈴木の仲間は3組に多い、それで寺本はそんな噂話を聞いたのだろう」
「なんかあったのか」
と寺本が聞いた。ヒロちゃんは、もうかくしておいたってしょうがないと、すべてを話すことにした。話してしまって誤解を解いてもらう方が楽だと思ったのだ。ヒロちゃんが口を開いた。
「いやね。担任の木村先生がとちゅうから入学してくるたえ子ちゃんを助けてあげてくれとたのむから、休み時間中ずっとたえ子ちゃんと話をしていたんだ。そしたら鈴木にからかわれて…、その話に尾ひれがついて、うわさ話が広まってしまったんだろう」
「それで本心はどうなんだよ」
さとしが聞いた。
「誤解だよ」
たえ子ちゃんは
「誤解なの?」
と聞いた。
ヒロちゃんはあせって思った「エッ、話をややこしくしないで、たえ子ちゃん!」
ヒロちゃんは意図的に話題のトーンを落とした。
「それは好きだよ。でも友達としてだ」
たえ子ちゃんが、また口をはさんだ
「友達としてなの?」
ヒロちゃんはうろたえて思った「エッ、だからたえ子ちゃん、話をややこしくしないで」日呂志おじさんが口をはさんだ。
「まあいいや、ヒロちゃんは誤解にしたいんだろ」
「そうです」
おじさんは言う。
「人の口に戸は立てられぬ。それに人のうわさも七十五日というから、うわさ話の、自然しょうめつをおとなしく待つんだな。それまでこの仲間うちでは、誤解ということにしといてやるよ。困ったことがあれば相談するんだな。これだけでも気持ちがずいぶん楽になるだろ」
「俺たちはいつでも仲間だ」
とさとしが言った
確かに、ヒロちゃんは不思議と心が楽になった。おじさんはちょっと年をとっているけど人生経験を積んだ大人なんだなと、ヒロちゃんは思った。そしてたえ子ちゃんの先程の言葉の真意は今は考えないでおいた。
そして、今日の散歩会の話題は、またしてもヒロちゃんにスポットライトが当たった。なぜサムはヒロちゃんになつくんだという疑問である。ヒロちゃんは一番気に入られているサムを間にはさんでたえ子ちゃんといっしょに歩いた。ユキは一番大きななりをしているが、さとしとその後を歩いた。先頭はロロと寺本だ。ロロは一番年上だし、散歩会に一番最初からいたメンバーだという事をちゃんと知っている。日呂志おじさんは最後方からついて来た。ヒロちゃんはまたしても話の種にされて、疲れた。
つづく
「おはよう、ヒロちゃん」
「おはよう、たえ子ちゃん」
サムが、ひろちゃんの足元に、まとわりついて来た。
「おお、よしよし。サムは人なつっこいな」
と言った瞬間ヒロちゃんはくつしたに暖かいものがしみていくのを感じた。
「アッこら! たえ子ちゃん。ぼくの足にサムがおしっこしてるよ」
「サム、ダメよ。人様に向けて、なんてことしてるの。ごめんなさい。ヒロちゃん。これはわざとやっているんじゃないの。サムとしては親愛の情をヒロちゃんに示しているだけなの。本当よ」
「本当?」
そこへ丁度さとしと日呂志おじさんが、ユキを連れてヒロちゃんちの玄関に上がって来た。
「おはよう」そして日呂志おじさんが笑って言った。
「ヒロちゃん。さてはサムにうれしょんされたな。あはは。サムは興奮するとおしっこもらすタイプか。俺も昔、飼っていた犬によくされたよ。うちを空けて久しぶりに帰った時なんかにな」
「サムは久しぶりにヒロちゃんに会えて、うれしかったんだよ。一番気に入られていたもんな」
さとしも、いっしょになって笑った。
「くつした変えて来るよ」
たえ子ちゃんは何度もヒロちゃんに謝った。
「さあ、急ごう。このさわぎで、また寺本を待たせてしまう」
とさとしは言った。ヒロちゃんはたえ子ちゃんに会って、なんだか気まずいなと思った。昨日、鈴木にからかわれたことを気にしていたのだ。そうだ。たえ子ちゃんは気まずくないのだろうか。ぼくがあんまりたえ子ちゃんに、熱心に話しかけたせいで、お調子者の鈴木のおもちゃにされたこと。そして何より、たえ子ちゃんを巻き込んでしまったことをおこっていないのだろうか。
寺本の家が見えてきた。寺本はもう外に出て待っていた。
「やあ、たえ子ちゃん久しぶり」
寺本が言った。寺本の愛犬のロロがたえ子ちゃんにしっぽを振っている。皆は、たえ子ちゃんとサムの復帰を喜んだ。寺本は言った。
「昨日変なうわさを耳にしたぞ。ヒロちゃんとたえ子ちゃんの仲があやしいとか何とか」
「なんだそれは、俺は初耳だぞ。ヒロちゃん、たえ子ちゃんのことが好きなのか」
さとしが言った。
ヒロちゃんは思った。「ぼくが2組で、寺本は3組で。さとしは1組だった。鈴木の仲間は3組に多い、それで寺本はそんな噂話を聞いたのだろう」
「なんかあったのか」
と寺本が聞いた。ヒロちゃんは、もうかくしておいたってしょうがないと、すべてを話すことにした。話してしまって誤解を解いてもらう方が楽だと思ったのだ。ヒロちゃんが口を開いた。
「いやね。担任の木村先生がとちゅうから入学してくるたえ子ちゃんを助けてあげてくれとたのむから、休み時間中ずっとたえ子ちゃんと話をしていたんだ。そしたら鈴木にからかわれて…、その話に尾ひれがついて、うわさ話が広まってしまったんだろう」
「それで本心はどうなんだよ」
さとしが聞いた。
「誤解だよ」
たえ子ちゃんは
「誤解なの?」
と聞いた。
ヒロちゃんはあせって思った「エッ、話をややこしくしないで、たえ子ちゃん!」
ヒロちゃんは意図的に話題のトーンを落とした。
「それは好きだよ。でも友達としてだ」
たえ子ちゃんが、また口をはさんだ
「友達としてなの?」
ヒロちゃんはうろたえて思った「エッ、だからたえ子ちゃん、話をややこしくしないで」日呂志おじさんが口をはさんだ。
「まあいいや、ヒロちゃんは誤解にしたいんだろ」
「そうです」
おじさんは言う。
「人の口に戸は立てられぬ。それに人のうわさも七十五日というから、うわさ話の、自然しょうめつをおとなしく待つんだな。それまでこの仲間うちでは、誤解ということにしといてやるよ。困ったことがあれば相談するんだな。これだけでも気持ちがずいぶん楽になるだろ」
「俺たちはいつでも仲間だ」
とさとしが言った
確かに、ヒロちゃんは不思議と心が楽になった。おじさんはちょっと年をとっているけど人生経験を積んだ大人なんだなと、ヒロちゃんは思った。そしてたえ子ちゃんの先程の言葉の真意は今は考えないでおいた。
そして、今日の散歩会の話題は、またしてもヒロちゃんにスポットライトが当たった。なぜサムはヒロちゃんになつくんだという疑問である。ヒロちゃんは一番気に入られているサムを間にはさんでたえ子ちゃんといっしょに歩いた。ユキは一番大きななりをしているが、さとしとその後を歩いた。先頭はロロと寺本だ。ロロは一番年上だし、散歩会に一番最初からいたメンバーだという事をちゃんと知っている。日呂志おじさんは最後方からついて来た。ヒロちゃんはまたしても話の種にされて、疲れた。
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