犬と歩けば!

もり ひろし

文字の大きさ
上 下
24 / 46
第02章 散歩会新メンバー、日呂志おじさん、たえ子ちゃん

12話 人の口に戸は立てられぬ、人のうわさも七十五日

しおりを挟む
 さて翌日よくじつの早朝である。たえ子ちゃんは、いつもそうしていたようにサムを連れて、ヒロちゃんの家をたずねた。彼女は玄関のチャイムを鳴らす。ねむい目をこすって、ヒロちゃんが出た。
「おはよう、ヒロちゃん」
「おはよう、たえ子ちゃん」
サムが、ひろちゃんの足元に、まとわりついて来た。
「おお、よしよし。サムは人なつっこいな」
と言った瞬間しゅんかんヒロちゃんはくつしたにあたたかいものがしみていくのを感じた。
「アッこら! たえ子ちゃん。ぼくの足にサムがおしっこしてるよ」
「サム、ダメよ。人様ひとさまに向けて、なんてことしてるの。ごめんなさい。ヒロちゃん。これはわざとやっているんじゃないの。サムとしては親愛の情をヒロちゃんに示しているだけなの。本当よ」
「本当?」
そこへ丁度さとしと日呂志おじさんが、ユキを連れてヒロちゃんちの玄関に上がって来た。
「おはよう」そして日呂志おじさんが笑って言った。
「ヒロちゃん。さてはサムにされたな。あはは。サムは興奮するとおしっこもらすタイプか。俺も昔、飼っていた犬によくされたよ。うちを空けて久しぶりに帰った時なんかにな」
「サムは久しぶりにヒロちゃんに会えて、うれしかったんだよ。一番気に入られていたもんな」
さとしも、いっしょになって笑った。
「くつした変えて来るよ」
たえ子ちゃんは何度もヒロちゃんにあやまった。

「さあ、急ごう。このさわぎで、また寺本を待たせてしまう」
とさとしは言った。ヒロちゃんはたえ子ちゃんに会って、なんだか気まずいなと思った。昨日、鈴木にからかわれたことを気にしていたのだ。そうだ。たえ子ちゃんは気まずくないのだろうか。ぼくがあんまりたえ子ちゃんに、熱心に話しかけたせいで、お調子者の鈴木のおもちゃにされたこと。そして何より、たえ子ちゃんをき込んでしまったことをおこっていないのだろうか。

 寺本の家が見えてきた。寺本はもう外に出て待っていた。
「やあ、たえ子ちゃん久しぶり」
寺本が言った。寺本の愛犬のロロがたえ子ちゃんにしっぽを振っている。皆は、たえ子ちゃんとサムの復帰ふっきを喜んだ。寺本は言った。
「昨日変なうわさを耳にしたぞ。ヒロちゃんとたえ子ちゃんの仲があやしいとか何とか」
「なんだそれは、俺は初耳だぞ。ヒロちゃん、たえ子ちゃんのことが好きなのか」
さとしが言った。
ヒロちゃんは思った。「ぼくが2組で、寺本は3組で。さとしは1組だった。鈴木の仲間は3組に多い、それで寺本はそんな噂話を聞いたのだろう」
「なんかあったのか」
と寺本が聞いた。ヒロちゃんは、もうかくしておいたってしょうがないと、すべてを話すことにした。話してしまって誤解ごかいを解いてもらう方が楽だと思ったのだ。ヒロちゃんが口を開いた。
「いやね。担任の木村先生がとちゅうから入学してくるたえ子ちゃんを助けてあげてくれとたのむから、休み時間中ずっとたえ子ちゃんと話をしていたんだ。そしたら鈴木にからかわれて…、その話に尾ひれがついて、うわさ話が広まってしまったんだろう」
「それで本心はどうなんだよ」
さとしが聞いた。
「誤解だよ」
たえ子ちゃんは
「誤解なの?」
と聞いた。
ヒロちゃんはあせって思った「エッ、話をややこしくしないで、たえ子ちゃん!」
ヒロちゃんは意図的に話題のトーンを落とした。
「それは好きだよ。でも友達としてだ」
たえ子ちゃんが、また口をはさんだ
「友達としてなの?」
ヒロちゃんはうろたえて思った「エッ、だからたえ子ちゃん、話をややこしくしないで」日呂志おじさんが口をはさんだ。
「まあいいや、ヒロちゃんは誤解にしたいんだろ」
「そうです」
おじさんは言う。
「人の口に戸は立てられぬ。それに人のうわさも七十五日というから、うわさ話の、自然しょうめつをおとなしく待つんだな。それまでこの仲間うちでは、誤解ということにしといてやるよ。困ったことがあれば相談するんだな。これだけでも気持ちがずいぶん楽になるだろ」
「俺たちはいつでも仲間だ」
とさとしが言った
確かに、ヒロちゃんは不思議と心が楽になった。おじさんはちょっと年をとっているけど人生経験を積んだ大人なんだなと、ヒロちゃんは思った。そしてたえ子ちゃんの先程の言葉の真意は今は考えないでおいた。



 そして、今日の散歩会の話題は、またしてもヒロちゃんにスポットライトが当たった。なぜサムはヒロちゃんになつくんだという疑問ぎもんである。ヒロちゃんは一番気に入られているサムを間にはさんでたえ子ちゃんといっしょに歩いた。ユキは一番大きななりをしているが、さとしとその後を歩いた。先頭はロロと寺本だ。ロロは一番年上だし、散歩会に一番最初からいたメンバーだという事をちゃんと知っている。日呂志おじさんは最後方からついて来た。ヒロちゃんはまたしても話の種にされて、疲れた。

                                   つづく
しおりを挟む
script?guid=on
感想 0

あなたにおすすめの小説

チュヴィン

もり ひろし
児童書・童話
スズメのチュヴィンと和寿のきずなの物語

シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。 以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。 不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

時空捜査クラブ ~千年生きる鬼~

龍 たまみ
児童書・童話
一学期の途中に中学一年生の教室に転校してきた外国人マシュー。彼はひすい色の瞳を持ち、頭脳明晰で国からの特殊任務を遂行中だと言う。今回の任務は、千年前に力を削ぎ落し、眠りについていたとされる大江山に住む鬼、酒呑童子(しゅてんどうじ)の力の復活を阻止して人間に危害を加えないようにするということ。同じクラスの大祇(たいき)と一緒に大江山に向かい、鬼との接触を試みている間に女子生徒が行方不明になってしまう。女子生徒の救出と鬼と共存する未来を模索しようと努力する中学生の物語。<小学校高学年~大人向け> 全45話で完結です。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

創作童話『ハクちゃん』

もり ひろし
児童書・童話
ハクセキレイの「ハクちゃん」と、スズメの「チュビーノ」、あるいは、文学のお師匠様と、その弟子、あるいは………。二羽と二人が紡ぐ、自由と絆の物語。

処理中です...