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第02章 散歩会新メンバー、日呂志おじさん、たえ子ちゃん
09話 たえ子ちゃん入院する3
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春休みに入って最初の日曜日がきた、その日は、たえ子ちゃんと面会をやくそくした日だ。さとしに寺本にヒロちゃん、そしておじさんもほごしゃ代表としてついて来た。病院は東京の大学病院だ。電車とバスを乗りついで3時間はかかる。ちょっとした旅行だ。でも当然はしゃぐ気にはなれない。みなどんな顔して、たえ子ちゃんにせっすればいいのだろうかと気をもんでいた。病院行きのバスを降りると病院の建物はすぐそこだった。
中に入ると、病院特有の鼻につくにおいはするものの空調は整っていてあたたかかった。みな、やっとひと心地つけた気分だ。たえ子ちゃんの病室は小児科びょうとうの605号室。エレベーターで六階まで上がり、目の前のナースセンターで面会の記帳をすませた。看護師さんに聞くと、右にまっすぐに歩いて5番目の部屋がたえ子ちゃんの病室らしい。おのおのの部屋の外かべにはネームプレートがあり、五番目の部屋には、たえ子ちゃんのネームプレートがあった。相部屋でたえ子ちゃんをふくむ四人が入院している。
病室の中をのぞくと、通路側の仕切りに、たえ子ちゃんの姿が見えた。もうすでにたえ子ちゃんのお母さんが来ていて、彼女の世話をやいていた。
「こんにちは」
他のかんじゃさんもいるので、四人はささやくように声をそろえた
「まあ来てくれたのね。本当にありがとう」
たえ子ちゃんの母さんが言う。
子どもたちは、どう声をかけたらいいのか分からない。
「どうなの、たえ子ちゃん」
と日呂志おじさんがおもむろに声をかけた
「元気です。だっていたくもかゆくもないんですもん」
「本当に、元気そうだね」
とヒロちゃんが声をかけた。そしてリュックから手紙の束を取り出し、
「クラスのみんなが書いた手紙を代表して持ってきたんだ。あとで読んでよ」
と言った。
さとしはサムの写真をアルバムにして持ってきていたのでそれをわたした。
それを見てたえ子ちゃんが笑う。「やった―。笑ったぞ」とみなは心の中で思った。
「元気なら入院生活なんてたいくつするだろう」
と少し微笑んで日呂志おじさんが児童小説を差し出した。寺本も妹の書棚から持ってきた少女マンガを手わたした。
「ありがとう」
とたえ子ちゃんは答えた。そして夕方、サムの散歩をまかせているのを、母さんに聞いて知っていたので、みなに聞いた。
「サムは元気にしてる。このアルバムを見ればわかるけれど」
「サムはムードメーカ―さ。一番元気だよ」
とさとしが答えた
「サムは僕の投げたボールも拾いに行ってくれるんだ。博愛しゅぎしゃだね。ロロとはちがうんだ」
とヒロちゃんが言った
「お前がいけないんだぞ。ロロに堂々とせっしないから。それじゃ―いつまでたってもロロの子分のままさ」
とロロの飼い主の寺本が言い足した。みなに笑いが起こった。
よかったここで必要なのはみなの笑顔だ。とヒロちゃんはほっとした。この面会がしめっぽくなってしまったら、たえ子ちゃんもしょんぼりしてしまうだろう。
「ユキちゃんはどうしてるの」
たえ子ちゃんが聞いた
「ユキはまだ自分が子どもだってわかっているみたいだよ。ロロやサムの後をおとなしくついてゆくのさ。一番体が大きいのに」
とさとしは笑って答えた。それから一時間ほどこんな調子で笑顔をはさみながら面会時間はすぎていった。
「それじゃあそろそろ、たえ子ちゃんのお休みのために、おいとましようか」
と日呂志おじさんが言った。
皆は散歩会や中学校での笑顔の再会を誓い合った。そしてたえ子ちゃんは
「あまり気を使わないでね。わたしはもうこの病気のことを受け入れたの」
と最後に言った。
たえ子ちゃんの入院は、中学校の入学式をも、またいでしまうことがもうすでに決まっていた。小中いっかん校だから全く知らない子とクラスメートになるわけではないが、クラスがえがある。ひとりで途中からクラスに交わらなければならないのだ。たえ子ちゃんが入学するころには、もうすでにクラスの人間関係ができあがってしまっているかもしれない。そんな中でなじんでいけるのだろうか。何とタイミングの悪い事だろう。なんて神様は意地悪なんだと、さとしは思った。
つづく
中に入ると、病院特有の鼻につくにおいはするものの空調は整っていてあたたかかった。みな、やっとひと心地つけた気分だ。たえ子ちゃんの病室は小児科びょうとうの605号室。エレベーターで六階まで上がり、目の前のナースセンターで面会の記帳をすませた。看護師さんに聞くと、右にまっすぐに歩いて5番目の部屋がたえ子ちゃんの病室らしい。おのおのの部屋の外かべにはネームプレートがあり、五番目の部屋には、たえ子ちゃんのネームプレートがあった。相部屋でたえ子ちゃんをふくむ四人が入院している。
病室の中をのぞくと、通路側の仕切りに、たえ子ちゃんの姿が見えた。もうすでにたえ子ちゃんのお母さんが来ていて、彼女の世話をやいていた。
「こんにちは」
他のかんじゃさんもいるので、四人はささやくように声をそろえた
「まあ来てくれたのね。本当にありがとう」
たえ子ちゃんの母さんが言う。
子どもたちは、どう声をかけたらいいのか分からない。
「どうなの、たえ子ちゃん」
と日呂志おじさんがおもむろに声をかけた
「元気です。だっていたくもかゆくもないんですもん」
「本当に、元気そうだね」
とヒロちゃんが声をかけた。そしてリュックから手紙の束を取り出し、
「クラスのみんなが書いた手紙を代表して持ってきたんだ。あとで読んでよ」
と言った。
さとしはサムの写真をアルバムにして持ってきていたのでそれをわたした。
それを見てたえ子ちゃんが笑う。「やった―。笑ったぞ」とみなは心の中で思った。
「元気なら入院生活なんてたいくつするだろう」
と少し微笑んで日呂志おじさんが児童小説を差し出した。寺本も妹の書棚から持ってきた少女マンガを手わたした。
「ありがとう」
とたえ子ちゃんは答えた。そして夕方、サムの散歩をまかせているのを、母さんに聞いて知っていたので、みなに聞いた。
「サムは元気にしてる。このアルバムを見ればわかるけれど」
「サムはムードメーカ―さ。一番元気だよ」
とさとしが答えた
「サムは僕の投げたボールも拾いに行ってくれるんだ。博愛しゅぎしゃだね。ロロとはちがうんだ」
とヒロちゃんが言った
「お前がいけないんだぞ。ロロに堂々とせっしないから。それじゃ―いつまでたってもロロの子分のままさ」
とロロの飼い主の寺本が言い足した。みなに笑いが起こった。
よかったここで必要なのはみなの笑顔だ。とヒロちゃんはほっとした。この面会がしめっぽくなってしまったら、たえ子ちゃんもしょんぼりしてしまうだろう。
「ユキちゃんはどうしてるの」
たえ子ちゃんが聞いた
「ユキはまだ自分が子どもだってわかっているみたいだよ。ロロやサムの後をおとなしくついてゆくのさ。一番体が大きいのに」
とさとしは笑って答えた。それから一時間ほどこんな調子で笑顔をはさみながら面会時間はすぎていった。
「それじゃあそろそろ、たえ子ちゃんのお休みのために、おいとましようか」
と日呂志おじさんが言った。
皆は散歩会や中学校での笑顔の再会を誓い合った。そしてたえ子ちゃんは
「あまり気を使わないでね。わたしはもうこの病気のことを受け入れたの」
と最後に言った。
たえ子ちゃんの入院は、中学校の入学式をも、またいでしまうことがもうすでに決まっていた。小中いっかん校だから全く知らない子とクラスメートになるわけではないが、クラスがえがある。ひとりで途中からクラスに交わらなければならないのだ。たえ子ちゃんが入学するころには、もうすでにクラスの人間関係ができあがってしまっているかもしれない。そんな中でなじんでいけるのだろうか。何とタイミングの悪い事だろう。なんて神様は意地悪なんだと、さとしは思った。
つづく
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