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第01章 さとし
09話 おばあちゃんの申し出、両親の決断
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さて、さとしの夏休みが終わる二日前のことである。文子おばあちゃんから娘の美都子母さん宛てに一通の手紙が届いていた。「マルが来月子どもを産むことになった。ついては、子犬を一ぴきさとしにやろうと思うが、どうだろう。三月くらいはこちらで世話をする。」と書いてあった。美都子母さんは、まよった。子犬をさとしが世話出来るであろうか? とにかく一人では決められない。美都子母さんは高史父さんの帰りをおそくまで待った。
そのばん、高史父さんと美都子母さんの話し合いが行われた。父さんはおばあちゃんの申し出に同意した。
「何とかなるさ」
と楽天的だ。母さんは言った。
「でも、もし子犬を受け入れて、さとしが世話しきれなかった場合、いや、たとえさとしが世話をできたとしても、少しのしわよせは、とりあえずわたしのもとに来るわ。今の正社員の仕事を辞めてパートをしなければならないかもしれない。お金にゆとりのないわたしたちには無理よ。持ち家のローンだってあるし、さとしの学費も積み立てなければならないのよ。」
しかし母さんは、マイナスばかりではないことも知っていた。さとしが犬の世話をしっかりできたなら、思いやりのあるやさしい子に育ってくれるだろう。現実を考えるか、それとも理想を追いかけてみるか、母さんはまよった。高史父さんはまよったら理想を追うタイプだった。母さんはそんなところが好きで父さんをパートナーに選んだのだ。それを思うと複雑だった。しかし、高史父さんの「何とかなるさ」という言葉は、美都子母さんにも現実味をもって、たしかに伝わった。「おばあちゃんの申し出を受け入れてみましょう。そして明日さとしに話そう」と母さんは決心した。
明くる日の夏休み最終日の朝、母さんはさとしに言った。
「マルが今度、子犬を産むの。それでそのうちの一ぴきをおばあちゃんがさとしにくれると言ってきたんだけど。どうする?」
「え、ぼく、犬をかってもいいの?」
さとしはこれ以上ないほどの笑顔で答えた。
「ちゃんと世話をすると約束ができるなら考えてあげるわ。たいへんな役目よ。家がかたむくかもしれないわ」
「ちゃんと世話をするよ。マルはいつ子犬を産むの?」
「来月よ。三月くらいは、おばあちゃんが世話をしてくれるって言っているわ。もしさとしの決心が固ければの話だけれど、本当に子犬が家に来るのは冬休みくらいね」
「がんばって世話をする、約束するよ」
「本当に」
「本当さ、よしと言って」
「それじゃあ、よし!」
「やったー!」
さっそくさとしはお守り代わりのマルのコースターを取り出して思いをこめた。まさか自分の家にやって来る犬がマルの子どもだなんて! もう未来への、おいのりはしなかった。ただ今の思いだけをこめた。このきせきに感謝の意だけをこめて。
母さんはおばあちゃんに「子犬はもらうわ」と返事をした。
つづく
そのばん、高史父さんと美都子母さんの話し合いが行われた。父さんはおばあちゃんの申し出に同意した。
「何とかなるさ」
と楽天的だ。母さんは言った。
「でも、もし子犬を受け入れて、さとしが世話しきれなかった場合、いや、たとえさとしが世話をできたとしても、少しのしわよせは、とりあえずわたしのもとに来るわ。今の正社員の仕事を辞めてパートをしなければならないかもしれない。お金にゆとりのないわたしたちには無理よ。持ち家のローンだってあるし、さとしの学費も積み立てなければならないのよ。」
しかし母さんは、マイナスばかりではないことも知っていた。さとしが犬の世話をしっかりできたなら、思いやりのあるやさしい子に育ってくれるだろう。現実を考えるか、それとも理想を追いかけてみるか、母さんはまよった。高史父さんはまよったら理想を追うタイプだった。母さんはそんなところが好きで父さんをパートナーに選んだのだ。それを思うと複雑だった。しかし、高史父さんの「何とかなるさ」という言葉は、美都子母さんにも現実味をもって、たしかに伝わった。「おばあちゃんの申し出を受け入れてみましょう。そして明日さとしに話そう」と母さんは決心した。
明くる日の夏休み最終日の朝、母さんはさとしに言った。
「マルが今度、子犬を産むの。それでそのうちの一ぴきをおばあちゃんがさとしにくれると言ってきたんだけど。どうする?」
「え、ぼく、犬をかってもいいの?」
さとしはこれ以上ないほどの笑顔で答えた。
「ちゃんと世話をすると約束ができるなら考えてあげるわ。たいへんな役目よ。家がかたむくかもしれないわ」
「ちゃんと世話をするよ。マルはいつ子犬を産むの?」
「来月よ。三月くらいは、おばあちゃんが世話をしてくれるって言っているわ。もしさとしの決心が固ければの話だけれど、本当に子犬が家に来るのは冬休みくらいね」
「がんばって世話をする、約束するよ」
「本当に」
「本当さ、よしと言って」
「それじゃあ、よし!」
「やったー!」
さっそくさとしはお守り代わりのマルのコースターを取り出して思いをこめた。まさか自分の家にやって来る犬がマルの子どもだなんて! もう未来への、おいのりはしなかった。ただ今の思いだけをこめた。このきせきに感謝の意だけをこめて。
母さんはおばあちゃんに「子犬はもらうわ」と返事をした。
つづく
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