犬と歩けば!

もり ひろし

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第01章 さとし

01話 おばあちゃんからの手紙

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 ある夏の日の夕方、雨宮家では、ようやく仕事から帰ってきた美都子母さんが、玄関げんかんで息子のさとしをよんだ。
「文子おばあちゃんから、手紙がとどいているわよ」
何でもメールや電話ですます世の中、でも文子おばあちゃんは、メールはできないし、耳が遠いので電話も不得手だった。
おばあちゃんは、やさしかったおじいちゃんに先立たれ、郊外こうがいでさびしくくらしていた。おばあちゃんは孫のさとしをとてもかわいがった。そんなことがあってさとしもおばあちゃん子になった。母さんは聞いた。
「何が書いてあるの。さとしに読めるかしら」
さとしは手紙の短い文面に目を通した。

 さとし君、元気でやっていますか。もうすぐ誕生日ですね。プレゼントをあげたいのだけれど、何がいいかしら? お返事ください。
                               ばあちゃんより

 さとしはまだ習っていない漢字を飛ばして読んだ。でも大方の意味は読み取った。そして大喜び。
「お母さん、おばあちゃんがプレゼントくれるって。どうしたんだろう」
「バカねえ。もうすぐあなたの誕生日たんじょうびでしょ。それでプレゼントに何か欲しいものを聞いて来たのよ」
もうすでに、仕事から帰っていた高史父さんが、リビングから出て来て、会話に加わった。
「もう誕生日か? 早いもんだな。おばあちゃんが何かくれるって。何か欲しいものがあるのか?」
さとしはためらいながら父さんに答えた。
「ぼく、犬がほしい。おばあちゃんのかっているマルみたいなの」
「あのね、さとし、犬は高くて、おばあちゃんにはとても買えないわ。おばあちゃんの事をよく考えてあげて!」
と母さんがあきれて言った。
「おばあちゃんはどうやってマルをむかえたの?」
「おばあちゃんは近くの知り合いに、たまたま生まれた子犬をゆずってもらったのよ」
と母さんは言った。父さんもうなずいた。
「他にほしいものなんて何もないもん。犬がほしいんだ」
とさとしはすねた。
「わからないこと言うもんじゃありません! それなら小鳥にしなさい!」
さとしはどうしても犬がほしかったのだ。去年、おばあちゃんの犬、マルと出会ってからはなおさらそうだった。さとしはむくれてしまった。そして、おばあちゃんへの手紙の返信もわすれてしまった。

 おばあちゃんは手紙の返信が来ないのでがっかりした。そしてむすめである美都子母さんに、事情じじょうをきいてきた。母さんは、さとしが返信していないのをあやまり、事情を説明した。おばあちゃんは悲しんだ。

 母さんはさとしをしかった。
「なんで、おばあちゃんに返信しないの!」
さすがにさとしは悪いことをしたと思って、おばあちゃんに返信を書いた。「プレゼントはおばあちゃんがくれるものなら何でもいいよ」と書いておいた。

                                   つづく
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