1 / 46
第01章 さとし
01話 おばあちゃんからの手紙
しおりを挟む
ある夏の日の夕方、雨宮家では、ようやく仕事から帰ってきた美都子母さんが、玄関で息子のさとしをよんだ。
「文子おばあちゃんから、手紙がとどいているわよ」
何でもメールや電話ですます世の中、でも文子おばあちゃんは、メールはできないし、耳が遠いので電話も不得手だった。
おばあちゃんは、やさしかったおじいちゃんに先立たれ、郊外でさびしくくらしていた。おばあちゃんは孫のさとしをとてもかわいがった。そんなことがあってさとしもおばあちゃん子になった。母さんは聞いた。
「何が書いてあるの。さとしに読めるかしら」
さとしは手紙の短い文面に目を通した。
さとし君、元気でやっていますか。もうすぐ誕生日ですね。プレゼントをあげたいのだけれど、何がいいかしら? お返事ください。
ばあちゃんより
さとしはまだ習っていない漢字を飛ばして読んだ。でも大方の意味は読み取った。そして大喜び。
「お母さん、おばあちゃんがプレゼントくれるって。どうしたんだろう」
「バカねえ。もうすぐあなたの誕生日でしょ。それでプレゼントに何か欲しいものを聞いて来たのよ」
もうすでに、仕事から帰っていた高史父さんが、リビングから出て来て、会話に加わった。
「もう誕生日か? 早いもんだな。おばあちゃんが何かくれるって。何か欲しいものがあるのか?」
さとしはためらいながら父さんに答えた。
「ぼく、犬がほしい。おばあちゃんのかっているマルみたいなの」
「あのね、さとし、犬は高くて、おばあちゃんにはとても買えないわ。おばあちゃんの事をよく考えてあげて!」
と母さんがあきれて言った。
「おばあちゃんはどうやってマルをむかえたの?」
「おばあちゃんは近くの知り合いに、たまたま生まれた子犬をゆずってもらったのよ」
と母さんは言った。父さんもうなずいた。
「他にほしいものなんて何もないもん。犬がほしいんだ」
とさとしはすねた。
「わからないこと言うもんじゃありません! それなら小鳥にしなさい!」
さとしはどうしても犬がほしかったのだ。去年、おばあちゃんの犬、マルと出会ってからはなおさらそうだった。さとしはむくれてしまった。そして、おばあちゃんへの手紙の返信もわすれてしまった。
おばあちゃんは手紙の返信が来ないのでがっかりした。そしてむすめである美都子母さんに、事情をきいてきた。母さんは、さとしが返信していないのをあやまり、事情を説明した。おばあちゃんは悲しんだ。
母さんはさとしをしかった。
「なんで、おばあちゃんに返信しないの!」
さすがにさとしは悪いことをしたと思って、おばあちゃんに返信を書いた。「プレゼントはおばあちゃんがくれるものなら何でもいいよ」と書いておいた。
つづく
「文子おばあちゃんから、手紙がとどいているわよ」
何でもメールや電話ですます世の中、でも文子おばあちゃんは、メールはできないし、耳が遠いので電話も不得手だった。
おばあちゃんは、やさしかったおじいちゃんに先立たれ、郊外でさびしくくらしていた。おばあちゃんは孫のさとしをとてもかわいがった。そんなことがあってさとしもおばあちゃん子になった。母さんは聞いた。
「何が書いてあるの。さとしに読めるかしら」
さとしは手紙の短い文面に目を通した。
さとし君、元気でやっていますか。もうすぐ誕生日ですね。プレゼントをあげたいのだけれど、何がいいかしら? お返事ください。
ばあちゃんより
さとしはまだ習っていない漢字を飛ばして読んだ。でも大方の意味は読み取った。そして大喜び。
「お母さん、おばあちゃんがプレゼントくれるって。どうしたんだろう」
「バカねえ。もうすぐあなたの誕生日でしょ。それでプレゼントに何か欲しいものを聞いて来たのよ」
もうすでに、仕事から帰っていた高史父さんが、リビングから出て来て、会話に加わった。
「もう誕生日か? 早いもんだな。おばあちゃんが何かくれるって。何か欲しいものがあるのか?」
さとしはためらいながら父さんに答えた。
「ぼく、犬がほしい。おばあちゃんのかっているマルみたいなの」
「あのね、さとし、犬は高くて、おばあちゃんにはとても買えないわ。おばあちゃんの事をよく考えてあげて!」
と母さんがあきれて言った。
「おばあちゃんはどうやってマルをむかえたの?」
「おばあちゃんは近くの知り合いに、たまたま生まれた子犬をゆずってもらったのよ」
と母さんは言った。父さんもうなずいた。
「他にほしいものなんて何もないもん。犬がほしいんだ」
とさとしはすねた。
「わからないこと言うもんじゃありません! それなら小鳥にしなさい!」
さとしはどうしても犬がほしかったのだ。去年、おばあちゃんの犬、マルと出会ってからはなおさらそうだった。さとしはむくれてしまった。そして、おばあちゃんへの手紙の返信もわすれてしまった。
おばあちゃんは手紙の返信が来ないのでがっかりした。そしてむすめである美都子母さんに、事情をきいてきた。母さんは、さとしが返信していないのをあやまり、事情を説明した。おばあちゃんは悲しんだ。
母さんはさとしをしかった。
「なんで、おばあちゃんに返信しないの!」
さすがにさとしは悪いことをしたと思って、おばあちゃんに返信を書いた。「プレゼントはおばあちゃんがくれるものなら何でもいいよ」と書いておいた。
つづく
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
怪談掃除のハナコさん
灰色サレナ
児童書・童話
小学校最後の夏休み……皆が遊びに勉強に全力を注ぐ中。
警察官の両親を持つしっかり者の男の子、小学6年生のユウキはいつでも一緒の幼馴染であるカコを巻き込んで二人は夏休みの自由研究のため、学校の不思議を調べ始める。
学校でも有名なコンビである二人はいつもと変わらずはしゃぎながら自由研究を楽しむ……しかし、すすり泣くプール、踊る人体模型、赤い警備員……長い学校の歴史の裏で形を変える不思議は……何にも関係ないはずの座敷童の家鳴夜音、二次動画配信者として名を馳せる八尺様を巻き込んで、本物の不思議を体験することになった。
学校の担任や校長先生をはじめとする地域の大人が作り上げた創作不思議、今の世に発祥した新しい怪異、それを解明する間にユウキとカコは学校の最後のにして最初の不思議『怪談掃除のハナコさん』へと至る。
学校の不思議を舞台に紡がれるホラーコメディ!
この夏の自由研究(読書感想文)にどうですか?
こーる・おぶ・くとぅるー ~ひと夏の呼び声~
AAKI
児童書・童話
父親の仕事の都合で海の見える街へと引っ越してきたショウゴ。引っ越し作業のおりにケガをしてしまい入院することとなったショウゴは、病院でツカサという少女に出会う。浜辺に現れた謎の怪物やショウゴを呼ぶ声の正体とは。ツカサを助けるべく、少年はひと夏の冒険へと挑む。
猫のバブーシュカ~しましましっぽ彗星の夜に~
catpaw
児童書・童話
猫の女の子バブーシュカは自然豊かなセント・ポピー村にあるタンジェリン夫妻の家で幸せに暮らしていました。しかしある事から、自分は夫妻にもう必要とされてないのだと思い、家出を決意します。家に閉じ込められたバブーシュカは彗星に願いをかけて家から飛び出しましたが、思わぬ世界へと迷い込みます。服を着て後ろ足で立って歩き、まるで人間のように暮らす猫たち。人間は見当たりません。王族・貴族・平民。猫が身分階級を持つ社会に突然放り込まれ、『おまえは何者だ』と問われるバブーシュカ。--バブーシュカの波乱に満ちた物語が始まります。
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)
【完結】カラ梅雨、美津希! ―蛙化女子高生の日常―
ginrin3go/〆野々青魚
児童書・童話
完結しました!
川原美津希(かわはらみづき)は高校一年生。
彼女は憧れの先輩にひとめぼれしてしまい、カナヅチにもかかわらず水泳部へと入部してしまう。
いくら頑張ってもまともに泳ぐことすらできない美津希。
記録会を前にした練習で溺れてしまうという失態を演じ、とうとう退部を決意する。
その日の夜、彼女の身にとんでもないことが起こる。
SF(すこしふしぎ)系のぬるいお話。全11話 約2万2000字の短編です。
※本作は奨励賞を頂戴した長編のプロトタイプ的な作品で、作中、似たシチュエーションがあります。
今回はあえてその部分は変更せず、そのまま公開いたします。
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。
takemot
児童書・童話
薬草を採りに入った森で、魔獣に襲われた僕。そんな僕を助けてくれたのは、一人の女性。胸のあたりまである長い白銀色の髪。ルビーのように綺麗な赤い瞳。身にまとうのは、真っ黒なローブ。彼女は、僕にいきなりこう尋ねました。
「シチュー作れる?」
…………へ?
彼女の正体は、『森の魔女』。
誰もが崇拝したくなるような魔女。とんでもない力を持っている魔女。魔獣がわんさか生息する森を牛耳っている魔女。
そんな噂を聞いて、目を輝かせていた時代が僕にもありました。
どういうわけか、僕は彼女の弟子になったのですが……。
「うう。早くして。お腹がすいて死にそうなんだよ」
「あ、さっきよりミルク多めで!」
「今日はダラダラするって決めてたから!」
はあ……。師匠、もっとしっかりしてくださいよ。
子供っぽい師匠。そんな師匠に、今日も僕は振り回されっぱなし。
でも時折、大人っぽい師匠がそこにいて……。
師匠と弟子がおりなす不思議な物語。師匠が子供っぽい理由とは。そして、大人っぽい師匠の壮絶な過去とは。
表紙のイラストは大崎あむさん(https://twitter.com/oosakiamu)からいただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる