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14話 ハクちゃん、新しい家族ができる

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 チュビーノの父親と妹は、弟子の手のひらの上で手のひらに留まるという事をすっかり学び、今では目標だったお師匠様の手のひらの上で、チュビーノとメイメイさんをともなって、ゆったりと過ごしていた。弟子は、2羽がお師匠様の手のひらに移ってしまうし、ハクちゃんまで最近姿を現さなくなっていたので寂しい思いをしていた。お師匠様がこの前チュビーノに聞いたところによると、ハクちゃんは最近姿を見ないという事だった。弟子は、それをお師匠様から聞いて馴染みのハクちゃんまで来なくなったことを悲しんでいた。弟子はお師匠様に頼んでチュビーノに話しをつけてもらった。そんなわけで弟子は今日チュビーノに乗ってハクちゃんを探しに行くことになっていた。弟子はチュビーノの背中を撫でた。するとメリメリと音を轟かせて体が縮こまり気を失ってゆく。そして弟子は小びとになった。チュビーノにつつかれて起こされると弟子はそのまま背中に乗った。なんだかハクちゃんとは違う匂いがする。でもこの匂いも悪くない。お日さまの匂いがする。チュビーノが尋ねた。
「どこから探す?縄張り内にはいないと思うよ。いちよう調べたから」
「思い当たるところはないの」
「そうだねえ、ハクちゃんの両親の縄張りなんてどうかな。ここからちょっと離れているけど飛べない距離じゃないよ」
「よし、そこを訪ねよう」

 チュビーノはバタバタと飛び立った。チュビーノはここから3kmほど離れたところにあるチュビーノの親の縄張りへ向かった。
「チュビーノの親の縄張りなんてよく知っているなあ」
「同じ出身地なもんでね」
「なんだ、そこからのハクちゃんのことも知っていたんだ」
「そうなんです。そして俺が彼を誘ったんでね、今の縄張りに…」
「なるほどね幼馴染みなんだね」
「まあ、あいつのことなら大抵何でも知ってまさあ」
 目的地まであと少しだ。しかし目的地に着く前にハクちゃんはいた。今飛んでる真下にハクちゃんはいたのだった。チュビーノは急降下してハクちゃんの隣に下りた。

「やっと見つけたぞ。ハクちゃん。何も言わずにこんなところまで来たら心配するじゃないか」
「ごめんよ。そんなつもりはなかったんだよ。君ら家族がうらやましくなったのさ」
「でもうちの家族は冷たいや。この縄張りには、おいてもらえないみたいなのさ」
「それが大方の鳥族の習わしだろうからね。うちが特殊なだけなのさ。おれがヒナだったころお師匠様に助けられたことは知っているだろ。それが心配で家族が離散しなかっただけのことさ。特殊なケースだね。君たちは自然の掟を守っているのさ。たいしたものさ」
「そんなに自然の掟って大切なのかねえ」
「それはそうさ。ぼくらみたいなのが大勢いちゃ、スズメ界が全滅しちゃう。でも自然界は僕ら少数のイレギュラーをも包み込んでくれる懐の深さも持っているのさ。家族が欲しいのならスズメ族だけれど僕らが成ってあげるよ」
「本当に!」
「ああ」
ハクちゃんは喜んだ。「ぼくにも家族ができる」
「すると僕は次男だね」
「俺の方が数週間生まれが早いからね。俺が長男さ」
チュビーノの背中にへばりついて聞いていた弟子は、感動して涙を流した。
「なんだお弟子さん。後ろにいたのか。びっくりしたよ突然声がして」
「彼も心配してたんだよ。彼も今は家族から離れてきているんだから。君のことを唯一相棒と思っていたのさ」
「ごめんよ。お弟子さん。心配かけて」
「それじゃあこの足でお師匠様にあいさつをしに行こう」
弟子はハクちゃんに乗り換えてお師匠様の屋敷に向けて飛び去った。やっぱりこの匂いがいいや。どこか芳ばしくて安らぐこの匂い。それに迫力のあるあの波状飛行。お師匠様の屋敷まで五分くらいで着いた。もう夕方で屋敷の庭では、お師匠様がところどころご飯を置いてスズメたちをもてなしていた。これからハクちゃんに家族のいる新しい生活が始まるのだ。チュビーノはハクちゃんを呼んで改めて紹介した。
「うちの家族の次男坊です。名前はハクちゃんといいます。よろしくね」
チュビーノ一族はそろって喜んだ。
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