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08話 チュビーノとハクちゃん、種族の中での役割
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「お師匠様。今日あたりどうでしょうか」
弟子はお師匠様を誘った。あのファンタジー世界へ。弟子には分かっていた。お師匠様がここのところスランプなのを。お師匠様が今書いている小説の構想に煮詰まっていたのを。こんな時は気晴らしが一番だ。弟子はお師匠様に気を使った。
純文学を書いていたお師匠様は一時、あのファンタジー世界に迷い込んだのを機にファンタジー作家を目指したのだが、自らには向いてないことを悟り、ストイックにあの世界を遠ざけていたのだ。しかし、弟子に誘われて、久しぶりにあの世界で羽を伸ばすことを自らに許した。
世間ではファンタジーを純文学に対立するものという認識が一般的で、お師匠様自らも関わることを避けていたのだが、この頃では、対立するものと考える方が不健全なのではという思いに駆られていた。もともと自分が見つけた世界であり、戻ってみるという決心もたやすくついた。
お師匠様は庭の前でスズメにご飯をやりながらチュビーノが手のひらにやってくるとさっそくチュビーノの背を撫でた。弟子も手のひらの上のハクちゃんの背を撫でた。するとお師匠様と弟子の背丈はみるみる縮み。お師匠様は久しぶりだったので声を上げてしまった。
「ああーーっ」
一時お師匠様と弟子は気を失った。しかしやがて気がつくとふたりとも小人になっていた。
チュビーノが言った。
「今日は二人のお客さんだ。どこをまわろうか」
「今日は天気がいいしシロツメクサの原っぱがいいよ」
とハクちゃんが答えた。
「よしとりあえず行ってみるか」
二人はそれぞれ鳥の背に乗って首筋にしがみついた。これだこれ、お師匠様はテンションが上がった。久しぶりにこのファンタジー世界に身をまかせたのだ。シロツメクサの原っぱは静かに風がそよぎ、花の芳香もあって気分が落ち着いた。
「ああ、なんてすばらしい世界だ」
お師匠様はおしっこをちびりそうになった。それほどの光景だ。こんな世界を知っているならなおの事、自分の文学にも取り入れなければと思うのだった。今までの自分の考えが馬鹿らしくなった。ファンタジー作家になろうとしていた時はストーリーをそのまま取り入れようとしていたのがいけなかったのだ、この空気感だけを自分の純文学にも取り入れようと決意した。若者には受けるんじゃないかとさえ思った。お師匠様のスランプは峠を越えそうだ。弟子はそう確信した。お師匠様を連れてきてよかった、少しは恩が返せただろうか。
そのあと、チュビーノとハクちゃんはアイデアを出し合って、いろいろな趣向を凝らした遊びをした。乗り換えっこでは、お師匠様はハクちゃんの背に乗って波状飛行を楽しんだ。まるでジェットコースターに乗っているかのようだ。チュビーノに乗っている時とは一味違う飛行体験をしたのだ。
それからハクちゃんはお師匠様をのせたまま、別のハクセキレイのメスに近づき、体を膨らませ相手に姿を大きく見せると、ダンスを始めた。メスのハクセキレイはそっぽを向いて逃げて行った。いまのはなにかねとお師匠様がハクちゃんに聞くと、ハクちゃんは愛の告白です。と言った。今のは失敗です。まだ早いのだけれど練習しているんです。と頭をかいた。鳥が頭をかくのは、前にも見たことがあるが、あれは純粋に頭がかゆい時のしぐさではなかったのだ、ハクちゃんは豪快に小刻みに素早く足を往復もさせて頭をかいていた。こんなこともお師匠様には新鮮な出来事だった。
そのほかにも、チュビーノの家を見せてもらったり何も話しはしなかったけれどチュビーノの同宿の若いオス鳥を紹介された。でもどうやら、人間と話せるのはチュビーノとハクちゃんのみのようだ。それでもすごいことだ。
夏は過ぎてゆく。チュビーノとハクちゃんは子供らしさをまだまだ残していた。子ども時代をどう過ごしたか。それでおおかたの生き様は決まってしまうといっていい。生まれて一年が鍵だった。人間の近くで過ごす種族として人間との関係があるものはそれだけ大きな役割を担った。チュビーノもハクちゃんも同属を束ねてゆく身分になるだろう。
弟子はお師匠様を誘った。あのファンタジー世界へ。弟子には分かっていた。お師匠様がここのところスランプなのを。お師匠様が今書いている小説の構想に煮詰まっていたのを。こんな時は気晴らしが一番だ。弟子はお師匠様に気を使った。
純文学を書いていたお師匠様は一時、あのファンタジー世界に迷い込んだのを機にファンタジー作家を目指したのだが、自らには向いてないことを悟り、ストイックにあの世界を遠ざけていたのだ。しかし、弟子に誘われて、久しぶりにあの世界で羽を伸ばすことを自らに許した。
世間ではファンタジーを純文学に対立するものという認識が一般的で、お師匠様自らも関わることを避けていたのだが、この頃では、対立するものと考える方が不健全なのではという思いに駆られていた。もともと自分が見つけた世界であり、戻ってみるという決心もたやすくついた。
お師匠様は庭の前でスズメにご飯をやりながらチュビーノが手のひらにやってくるとさっそくチュビーノの背を撫でた。弟子も手のひらの上のハクちゃんの背を撫でた。するとお師匠様と弟子の背丈はみるみる縮み。お師匠様は久しぶりだったので声を上げてしまった。
「ああーーっ」
一時お師匠様と弟子は気を失った。しかしやがて気がつくとふたりとも小人になっていた。
チュビーノが言った。
「今日は二人のお客さんだ。どこをまわろうか」
「今日は天気がいいしシロツメクサの原っぱがいいよ」
とハクちゃんが答えた。
「よしとりあえず行ってみるか」
二人はそれぞれ鳥の背に乗って首筋にしがみついた。これだこれ、お師匠様はテンションが上がった。久しぶりにこのファンタジー世界に身をまかせたのだ。シロツメクサの原っぱは静かに風がそよぎ、花の芳香もあって気分が落ち着いた。
「ああ、なんてすばらしい世界だ」
お師匠様はおしっこをちびりそうになった。それほどの光景だ。こんな世界を知っているならなおの事、自分の文学にも取り入れなければと思うのだった。今までの自分の考えが馬鹿らしくなった。ファンタジー作家になろうとしていた時はストーリーをそのまま取り入れようとしていたのがいけなかったのだ、この空気感だけを自分の純文学にも取り入れようと決意した。若者には受けるんじゃないかとさえ思った。お師匠様のスランプは峠を越えそうだ。弟子はそう確信した。お師匠様を連れてきてよかった、少しは恩が返せただろうか。
そのあと、チュビーノとハクちゃんはアイデアを出し合って、いろいろな趣向を凝らした遊びをした。乗り換えっこでは、お師匠様はハクちゃんの背に乗って波状飛行を楽しんだ。まるでジェットコースターに乗っているかのようだ。チュビーノに乗っている時とは一味違う飛行体験をしたのだ。
それからハクちゃんはお師匠様をのせたまま、別のハクセキレイのメスに近づき、体を膨らませ相手に姿を大きく見せると、ダンスを始めた。メスのハクセキレイはそっぽを向いて逃げて行った。いまのはなにかねとお師匠様がハクちゃんに聞くと、ハクちゃんは愛の告白です。と言った。今のは失敗です。まだ早いのだけれど練習しているんです。と頭をかいた。鳥が頭をかくのは、前にも見たことがあるが、あれは純粋に頭がかゆい時のしぐさではなかったのだ、ハクちゃんは豪快に小刻みに素早く足を往復もさせて頭をかいていた。こんなこともお師匠様には新鮮な出来事だった。
そのほかにも、チュビーノの家を見せてもらったり何も話しはしなかったけれどチュビーノの同宿の若いオス鳥を紹介された。でもどうやら、人間と話せるのはチュビーノとハクちゃんのみのようだ。それでもすごいことだ。
夏は過ぎてゆく。チュビーノとハクちゃんは子供らしさをまだまだ残していた。子ども時代をどう過ごしたか。それでおおかたの生き様は決まってしまうといっていい。生まれて一年が鍵だった。人間の近くで過ごす種族として人間との関係があるものはそれだけ大きな役割を担った。チュビーノもハクちゃんも同属を束ねてゆく身分になるだろう。
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