赤信号が変わるまで

いちどめし

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第五話 C side

喫茶店にてpart2

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「結果から報告させてもらいますけどね」

 モモイは人差し指を立てながら身を乗り出すと、小声で言った。
 以前の密会と同じ喫茶店の、同じ席である。
 チヒロは以前と同じくホットコーヒーを前にしながら、何やら興奮気味の知り合いを鬱陶しい気持ちで見つめていた。

「六十パーセントぐらいの確率で、とり憑かれていますね、あいつは」

「なんですか、その……パーセントって」

「いや、おれはね、これはもうほぼ確実に、コレが何かしら関わっているんだと思うんですよ」

 軽い調子で言いながら、コレ、の部分で幽霊を示すポーズをとる。
 二度目の密会にして、既にモモイの他人行儀は消え去っているようだった。

「あいつは、憑かれてはいないって否定するんですけどね。まあ、なかなか肯定もしないものなんだとは思いますが……何より、あいつはあいつのままなんですよね」

「どういうことです?」

「つまり、人格って言うのかな、あいつと話してみた限り、あいつはおれの知っているあいつで、間違いないっていうことです。ほら、とり憑かれると人格が変わるって言うじゃないですか。だから、六割」

 何をどう計算して六割という結果が弾き出されたのかは分からないものの、モモイの言わんとしていることはなんとなく理解できる。
 チヒロは、そうですかと深刻そうに言いながら、無意識に前髪を触った。

「それで、チヒロさん。そっちはどうなんだい。仲直り」

 突然お鉢を回されて、チヒロは口ごもった。
 状況が好転しているのかと聞かれれば、ノーと言うほかにはなかったからだ。

「まさかあんた、あいつとはこれっきりだ、なんて言うんじゃないだろうな」

 軽かった口調が一転、機嫌の悪いものになる。
 余程のことがない限りチヒロさんよりもあいつの側につくことになりますからね。
 モモイの言葉を思い出し、チヒロはテーブルの下で握る拳に力が入るのを感じた。

「そんな。わたし、責められるようなことなんてーー」

 モモイの理不尽な物言いに対して、つい大声になってしまう。
 周囲の人間に好奇の目で見られているような気がして、すぐに縮こまった。

「ああ、そうだな。ごめんよ、反射的に言っちまっただけです」

 吐き捨てるように言って、モモイはばつが悪そうにしてキャラメルマキアートに口をつける。

「そりゃ、そうですよね。チヒロさんは何も悪くない。幻滅されるようなことをしたのも、心配されるようなことをしているのも、全部あいつだ。あいつから歩み寄っていくのが筋なんだろうし、そうでないと意味がない」

 顔の前にカップを持ったまま話すモモイの姿には、口ぶりや容貌を無視して、なんだか可愛げがあった。状況にそぐわない場違いな思考は、大声を出したばかりのチヒロのことをクールダウンさせてくれる。

「だけど、勝手だけど、おれ、あいつとチヒロさんってお似合いだと思ってるんですよね。それが、オカルトなんかに駄目にされるのは、なんだか腹が立つっていうか」
「わたしだって……こんなことで別れるなんて……馬鹿らしいですよ」
 握っていた拳を解き、チヒロがコーヒーカップの取っ手に触れると、モモイは安心したように自分のカップを置いた。

「他人の恋愛に口出しするようなことを言って、悪かった。できたら、でいいんだ。あと少し、辛抱していてくれよ。幽霊は、おれの方でなんとかしてみるからよ」

「手が、あるんですか」

 言ってから、コーヒーを口につける。
 予想していたほど熱くはない。
 少しだけ口に含み、はっとした。
 丁度良い温度だ。

「知り合いに、霊媒師がいるんだ。その人に頼めばーーって、結局他力本願なんですけどね」

 茶化すようにしてはにかむモモイの姿が、頼もしく映る。
 チヒロは自分も笑顔になっていることに気づき、照れ隠しに前髪を指の間でもてあそんだ。

「ま、どうにか頼み込んでみるから、大船に乗ったつもりで待っていてくださいよ。おれは頼られるのも嫌いじゃあないですけどね、実は頼る方が得意なんですよ」

「なんか、得意げですね」

「そりゃあ、得意なことの話をしていますからね」

 へへへ、と笑い、モモイはキャラメルマキアートを一気にあおると、

「だからさ、チヒロさん」

 カップを置いて、テーブルに両肘をついた。
 顔の前で手を合わせ、やはりにやける。

「さっきの、少しの間辛抱してくれってやつ、頼みますよ」
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