上 下
17 / 30

友人①

しおりを挟む
 幽霊さん。

 彼女のことをそう呼ぶようになって、僕の気持ちは更に深くなったらしかった。
 僕は、彼女に呼びかけることができるのだ。

 僕はそれから、しばしば幽霊さんのもとへ通うようになっていった。
 もともとよく通る場所の一つであったということもあり、我ながらしつこいのではないかというほど、毎日とは言わないまでも足しげく。
 それでも彼女は僕がやって来るたびにやわらかい笑顔で迎えてくれる。

 幽霊さんは話し好きであるらしかった。
 喋っているときの顔、聞き役に回っているときの表情を見ていれば分かる。
 そんな彼女が他人と話すのは久しぶりだと言えば、僕は舞い上がった。

 幽霊さんは僕とチヒロとの仲をいつも気にかけていた。
 それに対して僕は、がんばって関係を修復しようとしている、ということにして通していた。
 実際には幽霊さんへの気持ちが後ろめたくて、チヒロとはろくに口をきけないでいた。

 幽霊さんは僕に名前を聞こうとはしなかった。
 何度か彼女と触れ合ううちに、僕はついに名乗るタイミングを逃したらしいということに気がついた。
 だから、僕は彼女に名前で呼ばれることはなかった。

 僕は焦りはじめていた。
 話していて楽しい友人以上には、恋人との仲を心配してくれている友人以上にはなりそうもない平行線のような幽霊さんとの関係に。

 だから僕は幽霊さんの気を引くにはどうすればいいか、気がつくといつも考えるようになっていた。
 そんなときに、何の妙案も浮かんでこないそんなときに、障害はやってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...