マサキは魔法使いになる

3-1 まっすぐ帰った結果がこれだよ

　昨夜の出来事なんて、きっと夢だ。
　少なくとも、学校から帰るときには既にそう考えられるようになっていた。少なくとも、というのは、昨日のことを思い出したのが、帰る時間になり自転車置き場まで行って自転車の鍵をはずした瞬間だったからであって、よくよくふりかえってみれば、おれは授業が始まり普段どおりの学校生活を満喫しているうちに、魔法のことなんかきれいに忘れ去っていたのだった。
　そのままでいれば、よかったのだ。
　気まぐれに寄り道をするか、それとも放課後に誰か――そう、高観やら黒佐沢やらと話し込んでいたならば、もしかすると状況は変わっていたのかも知れない。なんにせよ、真っ直ぐ家に帰る、だなんていう愚行に走りさえしなければ、もう少し状況は変わっていただろうに。
　おれは、真っ直ぐ家に帰ってしまった。むっとした空気の中、生暖かい風を感じて突っ走ってきてしまった。
　その結果、おれは魔法使いっぽいやつと出くわしてしまったのだ。
　黒いコートにとんがり帽子の怪しい影が、事もあろうにおれの自宅の前に突っ立っていたのである。