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1-2 茹でエビ!
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なにを言っていやがるんだ、と思う。呆れるほどメルヘンチックな話である。あいにくとおれは幼稚園児ではないし、保育園児でもない。飛んで、飛んで、もう少し飛んで、なんと高校二年生だ。そんなおれに対しておかしなことを言っているのが、事もあろうにおれの父親なのだから具合が悪い。
本当ならば笑いとばしたいところなのだけれど、どうやら顔がひきつって笑えないらしい。親父の目が真剣なのだ。
「もう一度言ってくれないかな。おれは今、何を言われたんだっけ」
「ああ、いや、突然で受け入れられないのは判る。だけどな、落ち着いて聞いてくれ。父さんは、魔法使いにならないか、と言ったんだ」
おれだって親父の全てを知っているわけではないとはいえ、十六年以上も家族として一つ屋根の下に暮らしてきたのだ。親父がこんなことを言うはずがないということぐらいは分かっているつもりだった。
親父は、すぐに見破られる嘘はつかない。ましてや、誰が聞いても非現実だと思うようなことを言った試しは、一度だってない。本来、真面目でつまらない人間なのだ。
「バカなことを言うなよ、親父」
「だけど、将来のことはまだ決まっていないんだろう?」
「そういう意味じゃなくてさ、魔法使いだなんて、そんなもんになれるわけがないだろう。あなたの仕事は何ですかって聞かれたら、わたしは魔法使いですよって言うのかよ。そんなばかげた話があるかよ」
言い聞かせるようにおれが言うと、親父は何を思ったかきょとん、となる。風呂上がりであるせいなのだろう、年不相応なかわいらしいパジャマを着た親父の顔は、茹でダコのごとく赤い。
いや、タコにしてはげっそりとしている。それじゃあ、茹でエビか。
「バカじゃあないぞ。夢のある話じゃないか」
ぼそぼそと言う親父。これはもしかすると、酔っているのかも知れない。それならば、親父の言動に説明がつく。
「それで、どうだ。魔法使いになる気、ないか」
「なれるもんならなってみたいよ。だけどさ、なる気もなにも、魔法なんて無理だろう。からかうのもいいかげんにしてくれよ」
「からかってなんかいないぞ」
茹でエビは大声で言うと、目を細めて、うぃっく、としゃっくりをした。
なんだ、親父の息ときたら、とんでもなく酒臭いじゃないか。危ない危ない、あやうく真に受けるところだったぜ。
本当ならば笑いとばしたいところなのだけれど、どうやら顔がひきつって笑えないらしい。親父の目が真剣なのだ。
「もう一度言ってくれないかな。おれは今、何を言われたんだっけ」
「ああ、いや、突然で受け入れられないのは判る。だけどな、落ち着いて聞いてくれ。父さんは、魔法使いにならないか、と言ったんだ」
おれだって親父の全てを知っているわけではないとはいえ、十六年以上も家族として一つ屋根の下に暮らしてきたのだ。親父がこんなことを言うはずがないということぐらいは分かっているつもりだった。
親父は、すぐに見破られる嘘はつかない。ましてや、誰が聞いても非現実だと思うようなことを言った試しは、一度だってない。本来、真面目でつまらない人間なのだ。
「バカなことを言うなよ、親父」
「だけど、将来のことはまだ決まっていないんだろう?」
「そういう意味じゃなくてさ、魔法使いだなんて、そんなもんになれるわけがないだろう。あなたの仕事は何ですかって聞かれたら、わたしは魔法使いですよって言うのかよ。そんなばかげた話があるかよ」
言い聞かせるようにおれが言うと、親父は何を思ったかきょとん、となる。風呂上がりであるせいなのだろう、年不相応なかわいらしいパジャマを着た親父の顔は、茹でダコのごとく赤い。
いや、タコにしてはげっそりとしている。それじゃあ、茹でエビか。
「バカじゃあないぞ。夢のある話じゃないか」
ぼそぼそと言う親父。これはもしかすると、酔っているのかも知れない。それならば、親父の言動に説明がつく。
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「なれるもんならなってみたいよ。だけどさ、なる気もなにも、魔法なんて無理だろう。からかうのもいいかげんにしてくれよ」
「からかってなんかいないぞ」
茹でエビは大声で言うと、目を細めて、うぃっく、としゃっくりをした。
なんだ、親父の息ときたら、とんでもなく酒臭いじゃないか。危ない危ない、あやうく真に受けるところだったぜ。
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