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第七話 friend's side『非日常への抜け穴』
2-1 目覚め
しおりを挟む鳥の声。
高くて、うるさくて、爽やかで、規則的な鳥の声。それが最近設定したアラーム音なのだということを思い出して、音のする方へ手を伸ばした。
最初に見つかったのは、目を閉じたままでも分かる、使い慣れたシャープペンシルの感触。そのすぐ隣に手帳型のスマホケースを探り当て、掴み取りざまにサイドボタンを押してとりあえずアラームを止める。
再び訪れる、静かな朝。二度寝の誘惑に折り合いを付けようと、枕をぎゅっと抱きしめて、意識が持って行かれそうになったところで伸びをして――そこで、初めて目を開けた。潜り込んだ掛け布団の中で、カーテン越しの柔らかな朝を感じる。
重たい身体を奮い立たせて起き上がる。見慣れた部屋。いつも通りの少し散らかった自室。時間を確認したくてスマートフォンを探す。いつも置いてあるはずの枕元には見当たらなくて、昨夜の行動を思い出した。
ああ、そういえば。
昨日の夜は慧真と、それから北沢さんも交えてグループチャットをしてから――結局おまもりのことに一言も触れなかったことへの自己嫌悪で、スマートフォンを机に置き去りにして、そのままベッドに転がったんだっけ。
寝床から立ち上がり、机の方へ向かう。寝起きの身体には、たった二、三歩の移動すら億劫だ。
手帳型のそれを開いて見ると、時刻よりも先にバッテリーの赤い表示が目に入った。
「うわ」
いつもは寝るときに枕元で充電しているのに、昨日は机の上に置きっぱなしだったから――
大股でベッドに戻り、充電用のケーブルに繋げる。家を出る時間までに、どれくらい充電できるだろうか――朝からなんだか憂鬱だ。
戻ってしまうと、なんだか布団が恋しくて、再びそっと横になる。自身の残した温もりが心地良い。あと二分くらいなら――
唐突に、
違和感。
沈みかけていた意識が、一気に覚醒する。
起き上がって、机の方へ手を伸ばす。
二、三歩の距離。
届くわけがない。
机の上には水色のシャープペンシル。寝ぼけながら手を伸ばして、最初に触れたはず。
あんなに遠くにあるのに、あれに触れたはずなのだ、私は。
いや――
勘違いだ。さすがに。寝ぼけてたし、きっとそう。
心臓の音がうるさい。静かなはずの朝。勘違いということで説明をつけられるほど、私の頭は冴えてはいない。
寝起きでまだ頭があまり働いていないから、さっき起こった不思議なことに対する説明が思いつかないのだ。
カーテンを開ければ、きっと――
きっと、完全に目が覚めて。
不思議を認めざるを得ないことに、気づいてしまうのだろう。
確信があった。
だから、心臓の音が、うるさい。
どく、どく、どく、どく。
どん、どん、どん、どん。
ああ、もう、本当は。
分かっているんだ。間違いなく、不思議なことが起きたって。不思議なことが起こったのか、全部夢なのか、もう、どっちかでしかないんだ。
カーテンに手を伸ばす。今の立ち位置からでは、まだちょっと届かない。
もしかしたら、もう少し頑張れば届いてしまうかも知れない。だから、私は二歩だけ、
後ろに下がった。
さあ、これで。
届け、届け、届け、
「とどけ」
寝起きじゃなければできなかったであろう、馬鹿げた儀式。
静かな、朝。
カーテン越しの朝日。
届かない指先。
届くわけのないカーテン。
部屋着のまま虚空に手を伸ばす神崎和花の姿を自覚して、私は完全に目覚めたようだった。
さすがに、これは恥ずかしいし、スマホの件も何かの勘違いに決まっているのだ。
欠伸を一つ。大股で二歩進み、カーテンを開けた。
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