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第七話 friend's side『非日常への抜け穴』
1-4 紛失
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結ばれた紐を解けば開くと予想していた口は、縫い付けられていた。手縫いで緩く留められているだけのようには見えるけれど、その糸を切りでもしなければ中身を取り出すどころか、中を覗き見ることも一部を覗かせることもできそうにない。
こんなことを、するのだろうか。
この鍵が絶対に無くしてはいけない、大切なものなのだとして、果たしてこんなことをするのだろうか。
いや、袋から出すことすら憚られるような大切なものなら、そもそもこんな袋に入れて持ち歩いたりはしないんじゃないのか。
だとすれば。
俄然、本当に、おまもりとして作られているような、そんな気がする。どんな理由なのかは分からないけれど、このおまもりを作った人物は、中の鍵自体に何かしらの意味か、願いを込めていたのではないか。
何かしら、って。
そんなの。
分かり切ってる。
慧真が言ってたじゃん。
世界を変えるおまもりだ、って。
おまもりを掴む指先に、力が籠る。鍵の形が、金属の硬さが指先を刺激する。
罪悪感は、あった。背徳感もあった。慧真の顔が思い浮かんだ。
慧真は、世界を変えたのは私だって言ってくれた。
だから、
――今は、きっと、私の方がろくでもない世界にいるんだ。
だったら、
――私の世界を変えてよ。
これは、
「世界よ」
裏切りじゃあ、ないよね。
「変われ」
耐えきれずに口に出た囁くほどの声が、夜の公園の静けさに飲み込まれていく。
「――え?」
思わず、声が漏れた。
指先にあったはずの感触が、消えている。
ぺらぺらになった巾着袋を確認すると、やっぱりその口は縫い付けられていて、さっきまで指先に感じていた鍵が零れ落ちるような隙間は無い。
それなのに、私は足元を探した。砂と小石と草しかないと分かり切った地面に、一縷の望みをかけて手のひらを這わせた。
不思議だとか、信じられないだとか、どうして、だとか――そんなことがどうでも良くなるほど、頭の中は真っ白だった。
「どうしよう」
慧真の大事な鍵なのに。
「どうしよう」
私が、それを、無くしてしまっただなんて。
「ああ、どうしよう」
一心不乱に砂を掻き飛ばして、空のペットボトルをはねのけて、ベンチの下を漁って、漁って、漁って、
私の顔は、きっと真っ青だった。
中身を無くした巾着袋を指に引っ掛けたまま、呆然と立ちすくみ、よく晴れた夜空を見上げた。
公園の外を、人の波が歩く音。
酷く現実感のある、人間の営み。
なんだか、さっきまでのことが夢のようで。
冷静で、卑怯な私は、
全部、勘違いだと思うことにした。
だって、こんな閉じられた布の袋の中から、鍵がなくなるなんて有り得ないじゃん。
初めから何も入っていなかったのに違いない青の巾着袋を、ブレザーの内ポケットにしまい込む。
――ねえ、慧真。
私、裏切ってなんか、いないよね。
こんなことを、するのだろうか。
この鍵が絶対に無くしてはいけない、大切なものなのだとして、果たしてこんなことをするのだろうか。
いや、袋から出すことすら憚られるような大切なものなら、そもそもこんな袋に入れて持ち歩いたりはしないんじゃないのか。
だとすれば。
俄然、本当に、おまもりとして作られているような、そんな気がする。どんな理由なのかは分からないけれど、このおまもりを作った人物は、中の鍵自体に何かしらの意味か、願いを込めていたのではないか。
何かしら、って。
そんなの。
分かり切ってる。
慧真が言ってたじゃん。
世界を変えるおまもりだ、って。
おまもりを掴む指先に、力が籠る。鍵の形が、金属の硬さが指先を刺激する。
罪悪感は、あった。背徳感もあった。慧真の顔が思い浮かんだ。
慧真は、世界を変えたのは私だって言ってくれた。
だから、
――今は、きっと、私の方がろくでもない世界にいるんだ。
だったら、
――私の世界を変えてよ。
これは、
「世界よ」
裏切りじゃあ、ないよね。
「変われ」
耐えきれずに口に出た囁くほどの声が、夜の公園の静けさに飲み込まれていく。
「――え?」
思わず、声が漏れた。
指先にあったはずの感触が、消えている。
ぺらぺらになった巾着袋を確認すると、やっぱりその口は縫い付けられていて、さっきまで指先に感じていた鍵が零れ落ちるような隙間は無い。
それなのに、私は足元を探した。砂と小石と草しかないと分かり切った地面に、一縷の望みをかけて手のひらを這わせた。
不思議だとか、信じられないだとか、どうして、だとか――そんなことがどうでも良くなるほど、頭の中は真っ白だった。
「どうしよう」
慧真の大事な鍵なのに。
「どうしよう」
私が、それを、無くしてしまっただなんて。
「ああ、どうしよう」
一心不乱に砂を掻き飛ばして、空のペットボトルをはねのけて、ベンチの下を漁って、漁って、漁って、
私の顔は、きっと真っ青だった。
中身を無くした巾着袋を指に引っ掛けたまま、呆然と立ちすくみ、よく晴れた夜空を見上げた。
公園の外を、人の波が歩く音。
酷く現実感のある、人間の営み。
なんだか、さっきまでのことが夢のようで。
冷静で、卑怯な私は、
全部、勘違いだと思うことにした。
だって、こんな閉じられた布の袋の中から、鍵がなくなるなんて有り得ないじゃん。
初めから何も入っていなかったのに違いない青の巾着袋を、ブレザーの内ポケットにしまい込む。
――ねえ、慧真。
私、裏切ってなんか、いないよね。
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