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第七話 friend's side『非日常への抜け穴』
1-3 おまもり
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いや、捨て台詞だなんて、そんな都合の良いものじゃない。あれは、あの表情は、あの視線は、捨て台詞と呼ぶのにはあまりに害意に満ちていたように思う。
お前がむかつくって、皆に言ってやるよ。そうしたらどうなるか、分かってるよな。
そういう、宣戦布告だったんじゃないのか。
先送りにしていた憂鬱が一気に押し寄せてきたせいで、倒れ込みそうになる。それでも冷静な私は手のひらや制服が汚れるのが嫌だから、倒れる代わりに両手で顔を覆った。それがなんだか、笑顔を抑えるときの自分と重なって、自虐的な笑い声が短く漏れた。
どうしよう。どうなるんだろう、明日から。
離れたところで電車の走る音が聞こえて、はっとする。あの電車が駅に着けば、公園前の道にはまた、人の波が来るのだろう。
立ち上がって、大きく息を吸った。いつまでも、慧真も副部長もいないこの場所に留まっていたって何も変わらない。夜の公園でうずくまる不審者になるだけだ。
もうすぐ中間テストだしな、なんて考える。テスト期間が近づくと部活もしばらく無くなるし、副部長と顔を合わせる機会も減るよね、なんて。
丸太のベンチに背を向けて、人の気配がないことを確認して、
そっと振り向いたのは、立ち上がりざまに、見覚えのある水色が視界に引っかかっていたからだった。
ベンチの脇に、巾着袋が落ちている。
慧真の持っていたものの造形を、はっきりと覚えているわけじゃなかった。しっかりと細部までを見ていたわけでも、見ようとしていたわけでもなかった。視界の端に、意識の淵に、大して重要でもないものとしてあっただけの、長細い巾着袋。だからそれは、もしかするとよく似た別物なのかも知れない。
でも、こんなやつだったような気もする。いや、この場所にこんな、同じような感じのものが落ちているということも、そうはないような気がする。
世界を変えるおまもり。私に先を越された気の毒なおまもり。
笑っちゃうな。
心の中でそう思う。笑っているわけでも、笑いそうになっているわけでもないのにそう思う。世界を変えるだなんてさ、こんな小さなおまもりが、そんな馬鹿な。
なんなら、私が変えてほしいよ。
拾い上げると、それはあまりにも簡素な巾着袋で、神社に売っているおまもりとは比べ物にならないほど薄い布越しに、長くて平べったい何かが入っているのが分かる。
鍵かな。
予想する気もなかったけれど、指先の感触は頭の中に馴染みのある像を結ばせる。それと思ってみると、触れるほどに鍵であるという確信が強くなった。答え合わせに中を検めようとして、紐を解く。
「え」
思わず声が漏れた。
思ってたのと、違う。
お前がむかつくって、皆に言ってやるよ。そうしたらどうなるか、分かってるよな。
そういう、宣戦布告だったんじゃないのか。
先送りにしていた憂鬱が一気に押し寄せてきたせいで、倒れ込みそうになる。それでも冷静な私は手のひらや制服が汚れるのが嫌だから、倒れる代わりに両手で顔を覆った。それがなんだか、笑顔を抑えるときの自分と重なって、自虐的な笑い声が短く漏れた。
どうしよう。どうなるんだろう、明日から。
離れたところで電車の走る音が聞こえて、はっとする。あの電車が駅に着けば、公園前の道にはまた、人の波が来るのだろう。
立ち上がって、大きく息を吸った。いつまでも、慧真も副部長もいないこの場所に留まっていたって何も変わらない。夜の公園でうずくまる不審者になるだけだ。
もうすぐ中間テストだしな、なんて考える。テスト期間が近づくと部活もしばらく無くなるし、副部長と顔を合わせる機会も減るよね、なんて。
丸太のベンチに背を向けて、人の気配がないことを確認して、
そっと振り向いたのは、立ち上がりざまに、見覚えのある水色が視界に引っかかっていたからだった。
ベンチの脇に、巾着袋が落ちている。
慧真の持っていたものの造形を、はっきりと覚えているわけじゃなかった。しっかりと細部までを見ていたわけでも、見ようとしていたわけでもなかった。視界の端に、意識の淵に、大して重要でもないものとしてあっただけの、長細い巾着袋。だからそれは、もしかするとよく似た別物なのかも知れない。
でも、こんなやつだったような気もする。いや、この場所にこんな、同じような感じのものが落ちているということも、そうはないような気がする。
世界を変えるおまもり。私に先を越された気の毒なおまもり。
笑っちゃうな。
心の中でそう思う。笑っているわけでも、笑いそうになっているわけでもないのにそう思う。世界を変えるだなんてさ、こんな小さなおまもりが、そんな馬鹿な。
なんなら、私が変えてほしいよ。
拾い上げると、それはあまりにも簡素な巾着袋で、神社に売っているおまもりとは比べ物にならないほど薄い布越しに、長くて平べったい何かが入っているのが分かる。
鍵かな。
予想する気もなかったけれど、指先の感触は頭の中に馴染みのある像を結ばせる。それと思ってみると、触れるほどに鍵であるという確信が強くなった。答え合わせに中を検めようとして、紐を解く。
「え」
思わず声が漏れた。
思ってたのと、違う。
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