アンリアルロジック〜偽りの法則〜

いちどめし

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第六話 friend's side『私の主人公』

6-3 怒るよ

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「なんでだよ」
 立ち上がらずにはいられなかった。怒らないはずがなかった。地団太を踏むうちに、身体からカバンがずり落ちた。息を吐き出すと、フゥフゥという獣じみた声が漏れる。血が沸騰するとは、もしかしたらこのことだった。
「怒らないでよぉ」
 後ろの方で、涙交じりの声がする。私は慧真に背を向けていた。私は間違いなく凶悪な顔をしていて、だから慧真の方を見るわけにはいかなかった。
「なんで?」
 人語を発して、一瞬だけ冷めた血が全身を巡った。だけどそのすぐ後には、呻き声を噛み殺していた。
「だって! だって、わかちょんには知られたくなかったんだもん。わかちょんと一緒にいる、いつもの空気が好きだったし、楽しかったし、だけどそんなこと知られたら、楽しくなくなっちゃうと思ったし!」
 吠えるような声だった。怯えて吠え猛る小さな犬のようだった。
 それで、やっと気づくことができた。今、慧真を怯えさせているのは自分なのだということに。それは不本意で、そして絶対に、私のやって良いことではない。
「慧真、私が怒ってるのはさ、自分になんだよ。慧真に気を遣わせてた自分。慧真に悩みを打ち明けてもらえなかった自分。慧真と、なんか特別な関係になってるような気がしてた自分。キモいよ私」
 慧真の表情の変化が、背中で分かってしまう。気分が高揚していた。怒りの余熱が、人間に戻った私の中で静かに渦巻いている。今の言葉で、慧真は私に嫌われたと思っているんだろうな。自惚れた自分はそう確信する。ならば、私にはすぐにでもその愚かな勘違いを訂正させてあげる必要がある。
 星のない空。昏い空。吸い込んだ空気は五月にしては生温くて、私の火照った精神をじわじわと尖らせる。
「私もさあ、慧真と一緒にいるいつもの空気、すごく居心地が良くて。慧真の隣にいるのに相応しい自分でいたいなって、私もちょっと演じてるところ、あったよ。だから一緒だよ、慧真」
 オブラートに包みまくった状態で打ち明ける、本当のこと。
「でもさ、私の演じてる私は、困ってる慧真を助けられる私のはずだったんだよ」
「なにそれ。わかちょん、かっこよすぎ」
 私の知らない慧真の、聞き慣れた笑い声。
「違うよ。まだ助けられてないんだから」
 私、かっこよすぎ。
 自惚れた。さすがに。
 ナイトという文字が頭の中に浮かんだ。慧真というお姫様を守る騎士。それが私の望む慧真との関係性だったのかと言えばそうではないというか、思いもしていなかったものではあるのだけれど。だけど、かっこいいことに間違いはない。
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