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第六話 friend's side『私の主人公』
5-1 格好悪くなる勇気
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駅を出てすぐのコンビニを左に曲がる。まだ慧真の家には行ったことがないし、住所だって知らないけれど、一緒に帰り始めた頃、慧真は自分の家なのだと言って駅から小さく見えるベージュのマンションを指差していた。
年季の入った焼鳥屋の前を走る。だだっ広い公園の前を走る。知らない町を走る。慧真の歩いたであろう道を走る。
電話をかけたら良いんじゃないかという考えもちらりと浮かんだ。そしてすぐに、それはマンションに着いても慧真に会えなかったときの最終手段にしようと思った。
帰り途中で後ろから追いつく方がドラマチックだからね。
だから走る。中学の徒競走のときにだってきれいな姿勢を意識して走っていた私は、下手くそなスキップでもするみたいにちょこまかとマンションの方へ走った。私の家の周りよりも明らかに通行人が多かったけれど、恥を捨てて走った。
むしろ、格好悪い姿を晒すのが気持ち良くすらあった。
これがさあ、本当の私なんだよ。
卑屈で皮肉屋でずるくて慌てると走り方のおかしくなるのが、本当の私なんだよ。
柑菜はきっと、勇気を出して私にお礼を言ったのだろう。澄ました感じに見えていたけれど本当は人見知りで、今日の彼女の姿を思い出してみれば、澄ましているのではなくて、ただ単に人と話をするのが少しだけ苦手なのだ。
そんな彼女が澄まし顔の仮面を外してくれたのは、たまたま二人きりになったからだったのか、それとも私が彼女と同じ大人しい組だからなのか。
柑菜がどう思っていたのかを今この段階では知りようもないけれど、すぐに逃げてしまう視線の持ち主である彼女は、きっと勇気を出してお礼を言ったのだろう。
その勇気が私にも伝わって――だなんていう、綺麗な話じゃない。
お澄ましキャラを急に脱ぎ捨てて人見知りキャラになった柑菜はお世辞にも格好良くはなくて、むしろ格好悪かった。格好悪くて、安心しさえした。私のクールキャラと被っていないことに、心のどこかで喜んでしまいすらした。
だけど、なのか、だから、なのか。私はそんな柑菜のことを、なんだか急に気に入ってしまったのだ。
心根の濁った自分の思考回路なんて、慧真のことを考えるのには何の参考にもならないのかも知れないけれど。格好悪くても、仮面を脱いでも、なんだか大丈夫な気がしたのだ。
柑菜の勇気が伝わったわけではないけれど、間違いなく、私は柑菜に勇気をもらっていた。
年季の入った焼鳥屋の前を走る。だだっ広い公園の前を走る。知らない町を走る。慧真の歩いたであろう道を走る。
電話をかけたら良いんじゃないかという考えもちらりと浮かんだ。そしてすぐに、それはマンションに着いても慧真に会えなかったときの最終手段にしようと思った。
帰り途中で後ろから追いつく方がドラマチックだからね。
だから走る。中学の徒競走のときにだってきれいな姿勢を意識して走っていた私は、下手くそなスキップでもするみたいにちょこまかとマンションの方へ走った。私の家の周りよりも明らかに通行人が多かったけれど、恥を捨てて走った。
むしろ、格好悪い姿を晒すのが気持ち良くすらあった。
これがさあ、本当の私なんだよ。
卑屈で皮肉屋でずるくて慌てると走り方のおかしくなるのが、本当の私なんだよ。
柑菜はきっと、勇気を出して私にお礼を言ったのだろう。澄ました感じに見えていたけれど本当は人見知りで、今日の彼女の姿を思い出してみれば、澄ましているのではなくて、ただ単に人と話をするのが少しだけ苦手なのだ。
そんな彼女が澄まし顔の仮面を外してくれたのは、たまたま二人きりになったからだったのか、それとも私が彼女と同じ大人しい組だからなのか。
柑菜がどう思っていたのかを今この段階では知りようもないけれど、すぐに逃げてしまう視線の持ち主である彼女は、きっと勇気を出してお礼を言ったのだろう。
その勇気が私にも伝わって――だなんていう、綺麗な話じゃない。
お澄ましキャラを急に脱ぎ捨てて人見知りキャラになった柑菜はお世辞にも格好良くはなくて、むしろ格好悪かった。格好悪くて、安心しさえした。私のクールキャラと被っていないことに、心のどこかで喜んでしまいすらした。
だけど、なのか、だから、なのか。私はそんな柑菜のことを、なんだか急に気に入ってしまったのだ。
心根の濁った自分の思考回路なんて、慧真のことを考えるのには何の参考にもならないのかも知れないけれど。格好悪くても、仮面を脱いでも、なんだか大丈夫な気がしたのだ。
柑菜の勇気が伝わったわけではないけれど、間違いなく、私は柑菜に勇気をもらっていた。
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