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第六話 friend's side『私の主人公』
3-2 初耳あられシェイク
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慧真と井上さんを中心にドラマやバラエティー番組の話題で盛り上がってはすぐに放り投げながら、そのまま話の種が尽きることもなくベイバンに辿り着くとテーブル席で向かい合った。
井上さんと野田さんが慧真を挟んで座り、その向かい側に、私と跳ねっ毛の北沢さん。彼女はここまでの道中で様子を見てきた印象だと、もしかしたら私に一番近いタイプなのかも知れない。
つまり、物静かだということだ。
話しかければ笑顔で応えるし、特に暗いというわけでも空気が読めないというわけでもない気はする。ただ、口数は少なくて、自分から話を振るようなことはない、見たままの澄ました子。
同じクラスであるとはいえ、慧真と話すこと自体今日が初めてだという彼女にはまだ多少の遠慮があるのだろうとは思う。だけど少なくとも今の段階では、良くも悪くも第一印象を裏切った井上さんと野田さんが慧真と同じ賑やかな側で、北沢さんは私と同じ大人しい側だ。
だから、私たちの座り位置は自然とこうなったのだった。
「北沢さんもあられシェイク頼んだんだね」
隣のトレイを見ながら、たった今気づいたみたいに笑いかけてみた。本当は店に入ってからすぐに、カウンターで注文しているのを聞いたときから分かっていたのだけれど、北沢さんとの間に会話が欲しくてそう言った。声をかけられて、表情が露骨に綻ぶのが分かる。
ちょうど、野田さんの好きなアイドルについての話題がひと段落したところだった。
「うん。各務原さんが、食べようって誘ってくれたから」
「ああ、そうやって皆を誘ってたのか」
だから私以外は全員、慧真の言っていた新商品であるあられシェイクをトレイに載せているわけだ。
北沢さんの控えめな笑顔から視線を滑らせ、今まさにシェイクを吸っている最中の慧真をじとりと見つめる。少し機嫌を損ねた顔をしてみせるのは、半分演技で半分は本心からだ。
私もあられシェイク仲間に誘って欲しかったよ、慧真。
慧真が新商品であるあられシェイクを欲しがっていたのは知っているけれど、私の把握している範囲では同じ物を頼もうだなんていう話ではなかったはずだ。もちろん、学校で話を聞いた段階でそういう発想に至ることができなかったという私の落ち度ではあるのだけれど、あのときはもっと大切な話をしていてそれどころではなかったのだ。
慧真に続いて二番目に注文を済ませてしまったことが悔やまれる。
「あっ、わかちょんもこれ欲しかった? あたしの飲む?」
え、なにそれすごい仲良しみたい。最高じゃん。
私の視線の意図に気づかない鈍感な慧真の申し出を、はやり過ぎる心――頬を猛烈に押さえつけながら、自分でも惚れ惚れするほどの素っ気なさで受け入れる。
醤油の風味が口の中に冷たく広がった。
予想通りの味。
おいしい。気がする。
いや、不味くはない、ぐらいか。
このMサイズは間違いなくくどいな。
「やっぱり頼まなくて良かった」
慧真のシェイクがもらえたからね。
「ええっ、おいしくなかった?」
「嫌いじゃないけど一本全部はさすがに飽きそう」
正直な感想を告げると、弾かれるような勢いで野田さんが、続いて井上さん、最後に北沢さんが同意する。流されず、一人だけ美味しそうにシェイクを吸い始める慧真の姿は本当にいじらしくて、清々しくもあった。
井上さんと野田さんが慧真を挟んで座り、その向かい側に、私と跳ねっ毛の北沢さん。彼女はここまでの道中で様子を見てきた印象だと、もしかしたら私に一番近いタイプなのかも知れない。
つまり、物静かだということだ。
話しかければ笑顔で応えるし、特に暗いというわけでも空気が読めないというわけでもない気はする。ただ、口数は少なくて、自分から話を振るようなことはない、見たままの澄ました子。
同じクラスであるとはいえ、慧真と話すこと自体今日が初めてだという彼女にはまだ多少の遠慮があるのだろうとは思う。だけど少なくとも今の段階では、良くも悪くも第一印象を裏切った井上さんと野田さんが慧真と同じ賑やかな側で、北沢さんは私と同じ大人しい側だ。
だから、私たちの座り位置は自然とこうなったのだった。
「北沢さんもあられシェイク頼んだんだね」
隣のトレイを見ながら、たった今気づいたみたいに笑いかけてみた。本当は店に入ってからすぐに、カウンターで注文しているのを聞いたときから分かっていたのだけれど、北沢さんとの間に会話が欲しくてそう言った。声をかけられて、表情が露骨に綻ぶのが分かる。
ちょうど、野田さんの好きなアイドルについての話題がひと段落したところだった。
「うん。各務原さんが、食べようって誘ってくれたから」
「ああ、そうやって皆を誘ってたのか」
だから私以外は全員、慧真の言っていた新商品であるあられシェイクをトレイに載せているわけだ。
北沢さんの控えめな笑顔から視線を滑らせ、今まさにシェイクを吸っている最中の慧真をじとりと見つめる。少し機嫌を損ねた顔をしてみせるのは、半分演技で半分は本心からだ。
私もあられシェイク仲間に誘って欲しかったよ、慧真。
慧真が新商品であるあられシェイクを欲しがっていたのは知っているけれど、私の把握している範囲では同じ物を頼もうだなんていう話ではなかったはずだ。もちろん、学校で話を聞いた段階でそういう発想に至ることができなかったという私の落ち度ではあるのだけれど、あのときはもっと大切な話をしていてそれどころではなかったのだ。
慧真に続いて二番目に注文を済ませてしまったことが悔やまれる。
「あっ、わかちょんもこれ欲しかった? あたしの飲む?」
え、なにそれすごい仲良しみたい。最高じゃん。
私の視線の意図に気づかない鈍感な慧真の申し出を、はやり過ぎる心――頬を猛烈に押さえつけながら、自分でも惚れ惚れするほどの素っ気なさで受け入れる。
醤油の風味が口の中に冷たく広がった。
予想通りの味。
おいしい。気がする。
いや、不味くはない、ぐらいか。
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「やっぱり頼まなくて良かった」
慧真のシェイクがもらえたからね。
「ええっ、おいしくなかった?」
「嫌いじゃないけど一本全部はさすがに飽きそう」
正直な感想を告げると、弾かれるような勢いで野田さんが、続いて井上さん、最後に北沢さんが同意する。流されず、一人だけ美味しそうにシェイクを吸い始める慧真の姿は本当にいじらしくて、清々しくもあった。
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