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第六話 friend's side『私の主人公』
3-1 寄せ集めメンバー
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慧真は既に三人の同級生を連れて、待ち合わせ場所である正門の前に立っていた。
大人しそうなポニーテールの子、背の高い眼鏡の子、毛先の少し跳ねた、澄ました感じの子。いずれも私とは違うクラスの、親しくないどころか話したことすらない顔ぶれである。
「それにしても、各務原が神崎さんみたいな人と仲良いだなんて、なんだか意外だよ」
お互いの自己紹介を簡単に済ませた後、道中で最初に口を開いたのはポニーテールの井上さんだった。丸い輪郭にタヌキ顔の彼女は、見た目から受けるどこかゆるゆるとした印象に似合わず、言葉の後半になるにつれ早口気味になる節のある、少しせっかちな人物のようである。
慧真とは中学の頃からの仲であるらしいけれど、軽い自己紹介だけではどれほどの関係だったのかはよく分からなかった。なにしろ、慧真の口から彼女の名前が出てきたことも、これまでに慧真が彼女と一緒にいるところを見たことすらもない。
慧真に対してなんだか気安い感じがするのは、同じ中学だったという理由だけで十分に説明がつくものではあるものの、感情の乗りやすい大きな声をした彼女は、慧真ととても気が合いそうにも思われる。
嫉妬、というのとは少し違うような気がするけれど、なんだかむすむずするというか、対抗したくなるというか――
仲が良いなんて意外、だってさ。
まあそりゃあそうなんだろうけど、なんて思いつつ「そんなことないと思うけど」といつも通りいかにも冷静そうな返事をする。すると慧真が声を張り上げて、
「だよねー。ぜんぜん意外じゃないよ。わかちょんは優しくて頼りになるし、もはやあたしにとってはかけがえのないお方なんだよ」
少し冗談めかしながら、無防備で悪戯っぽい笑顔を私に向けた。
「頼りっぱなしなんじゃーん」
ポニーテールが気安い感じで慧真の華奢な背中を叩くと、慧真と眼鏡の子がけらけらと笑い声をあげた。眼鏡の彼女は慧真と同じクラスの野田さんで――現状、それぐらいしか情報がない。一人だけ自転車を引いて歩く彼女は、電車通学の私たちよりも家が近いのだろう、ということぐらいか。
真っ黒で真っ直ぐな髪と、細長くてわずかに猫背気味の佇まいからは、墨絵の笹の葉か何かを連想させる素朴で物静かな雰囲気を感じていたけれど、大きくはないものの遠慮のない笑い声を聞くに、少し認識を改めた方が良いのかも知れない。
それにしても、ね。
かけがえのない、だなんてね。嬉しいこと言ってくれるね、慧真。いやあ、ね。クールに振る舞ってるのにさ、漏れ出ちゃってたか、優しさ。それとも、こんな私から優しさを見出しちゃう慧真がすごいのかな。
にやけ顔を抑えきれなくて、ちらりと空を見上げるふりをしてから、我慢できない感情をささやかな笑顔として小出しにした。
こうしていると、慧真はいつも通りの彼女に見える。
いや、いつも通り、だなんていう表現はおこがましいか。私は彼女のいつもを知ることができるほど一緒にいるわけでもないのだし、彼女のいつもを語ることができるほど古い付き合いというわけでもない。だけど少なくとも、こうして私たちの真ん中に立って楽しそうに笑う、お調子者ではにかみ屋で壁のない魅力的な女の子は私の知っている――私の思う通りの各務原慧真である。
大人しそうなポニーテールの子、背の高い眼鏡の子、毛先の少し跳ねた、澄ました感じの子。いずれも私とは違うクラスの、親しくないどころか話したことすらない顔ぶれである。
「それにしても、各務原が神崎さんみたいな人と仲良いだなんて、なんだか意外だよ」
お互いの自己紹介を簡単に済ませた後、道中で最初に口を開いたのはポニーテールの井上さんだった。丸い輪郭にタヌキ顔の彼女は、見た目から受けるどこかゆるゆるとした印象に似合わず、言葉の後半になるにつれ早口気味になる節のある、少しせっかちな人物のようである。
慧真とは中学の頃からの仲であるらしいけれど、軽い自己紹介だけではどれほどの関係だったのかはよく分からなかった。なにしろ、慧真の口から彼女の名前が出てきたことも、これまでに慧真が彼女と一緒にいるところを見たことすらもない。
慧真に対してなんだか気安い感じがするのは、同じ中学だったという理由だけで十分に説明がつくものではあるものの、感情の乗りやすい大きな声をした彼女は、慧真ととても気が合いそうにも思われる。
嫉妬、というのとは少し違うような気がするけれど、なんだかむすむずするというか、対抗したくなるというか――
仲が良いなんて意外、だってさ。
まあそりゃあそうなんだろうけど、なんて思いつつ「そんなことないと思うけど」といつも通りいかにも冷静そうな返事をする。すると慧真が声を張り上げて、
「だよねー。ぜんぜん意外じゃないよ。わかちょんは優しくて頼りになるし、もはやあたしにとってはかけがえのないお方なんだよ」
少し冗談めかしながら、無防備で悪戯っぽい笑顔を私に向けた。
「頼りっぱなしなんじゃーん」
ポニーテールが気安い感じで慧真の華奢な背中を叩くと、慧真と眼鏡の子がけらけらと笑い声をあげた。眼鏡の彼女は慧真と同じクラスの野田さんで――現状、それぐらいしか情報がない。一人だけ自転車を引いて歩く彼女は、電車通学の私たちよりも家が近いのだろう、ということぐらいか。
真っ黒で真っ直ぐな髪と、細長くてわずかに猫背気味の佇まいからは、墨絵の笹の葉か何かを連想させる素朴で物静かな雰囲気を感じていたけれど、大きくはないものの遠慮のない笑い声を聞くに、少し認識を改めた方が良いのかも知れない。
それにしても、ね。
かけがえのない、だなんてね。嬉しいこと言ってくれるね、慧真。いやあ、ね。クールに振る舞ってるのにさ、漏れ出ちゃってたか、優しさ。それとも、こんな私から優しさを見出しちゃう慧真がすごいのかな。
にやけ顔を抑えきれなくて、ちらりと空を見上げるふりをしてから、我慢できない感情をささやかな笑顔として小出しにした。
こうしていると、慧真はいつも通りの彼女に見える。
いや、いつも通り、だなんていう表現はおこがましいか。私は彼女のいつもを知ることができるほど一緒にいるわけでもないのだし、彼女のいつもを語ることができるほど古い付き合いというわけでもない。だけど少なくとも、こうして私たちの真ん中に立って楽しそうに笑う、お調子者ではにかみ屋で壁のない魅力的な女の子は私の知っている――私の思う通りの各務原慧真である。
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