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第六話 friend's side『私の主人公』
1-2 私たちの関係
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なんだか照れ臭いので、校内ではあまり慧真と話すことはない。
クラスの違う彼女にあまりべたべたとくっついて行くのも私のキャラじゃない気がするし、お互いに、クラス内での話し相手が少ないというわけでもないらしい。
だいたい、そんなことをしなくても放課後になれば慧真のほうから一緒に部活へ行こうと毎日誘いに来るわけで、私はそれをいかにもクールという感じで待っているだけで良いのである。
だから、放課後になるこの瞬間は自然と気持ちが浮ついてしまう。若はげの担任がそそくさとホームルームを終えると、私は頬杖をつくみたいにして頬骨の辺りを押さえつけた。表情筋を押さえつけてやれば、にやけ顔になるのを防ぐことができるような気がするからだ。
「神崎さん、カノジョ来てるよ」
後ろの席から、茶化すような声。振り返ると、健康的な小麦色の顔が眠たそうな上目遣いをこちらに向けている。力の抜けたような笑顔の印象的な彼女は、入学式のときから仲良くしている鈴森さん。ふわふわとした物腰の大人しい子だと思っていたこのクラスメートは、最近ではお互いに距離が縮まってきたせいか、私に対してとぼけたような、からかうような言動を見せることが多くなってきていた。
この「カノジョ」というのも鈴森さんなりの冗談で、よく教室まで私のことを迎えに来る慧真のことを指してそう呼んでいるのだ。廊下のほうへ目をやると、気づかれるのを待っていたらしい慧真が太陽みたいな笑顔を咲かせた。
「ああ、本当だ。教えてくれてありがとう」
「あれえ、ツッコミ無いんだ」
「昨日ツッコんだし」
「いつでもツッコミ待ちなんだよアタシは」
軽く失笑しながら、また明日ねと言って席を立つ。気の抜けたような声でまたねえと返す鈴森さんに軽く手を振りながら、内心ではにやけ顔を今の失笑で消化できたことを感謝した。
「じゃあ、行こうか」
廊下に出た私は軽い笑顔を浮かべながら、右側に一人分の余裕ができるように歩き出す。すると慧真がぴょこぴょことそのスペースに収まって、いつもの二人組が完成した。
部活の新入生挨拶の日から慧真とこういう――鈴森さんにカノジョと揶揄されるほどの――関係になるまでには、あまり時間はかからなかった。なにしろ、その次に部室へ向かうときには既に、慧真と私はこうやって並んで歩いていたのだから。
先に近づいてきたのは、なんと慧真のほうだった。今日とほとんど同じような感じで、彼女は教室の前にまでやってきたのである。
今後どうやって仲良くなっていこうかと思案していた私にとっては渡りに船どころの騒ぎではなく、あまりの都合の良さに、自分の頬をつねらずにはいられなかった。あの時は確か、頬に掛かった髪を除けるふりをしたんだっけ。
私が席を立ったのと、慧真が大げさに手を振ったのと、果たしてどっちが先だったのかは覚えていないし、その時にだってよく分かっていなかったような気がする。慧真は私と目が合ったから手を振ったのだろうし、私は彼女の姿を見とめた途端、突然のことに舞い上がって思わず立ち上がってしまったのだ。
何でもない風な表情を決壊させまいと水面すら揺らさないような静かさで近づいていくと、慧真は完熟の林檎みたいな笑顔で私を見上げながら、よかったあと無邪気に言うのだった。
どうやらあの日、方向音痴な慧真は部室まで同行してくれる相手を探していたようで、その相手として私を選んでくれたらしいのだった。どうしてわざわざ私の所まで来たのかといえば、彼女と同じクラスに演劇部員がおらず、何よりも新入生挨拶のときに、しっかりしていそうな人物として私のことをよく覚えていてくれたというのだ。
それを聞いたとき、私は表情が決壊したので顔を背けた。
それ以来、私たちはいつも一緒に部室へ向かっている。彼女がどれほど方向音痴だとしてもさすがに部室までの行きかたぐらいは覚わっているのだろうに、それでも慧真はいつも私のことを迎えに来る。
クラスの違う彼女にあまりべたべたとくっついて行くのも私のキャラじゃない気がするし、お互いに、クラス内での話し相手が少ないというわけでもないらしい。
だいたい、そんなことをしなくても放課後になれば慧真のほうから一緒に部活へ行こうと毎日誘いに来るわけで、私はそれをいかにもクールという感じで待っているだけで良いのである。
だから、放課後になるこの瞬間は自然と気持ちが浮ついてしまう。若はげの担任がそそくさとホームルームを終えると、私は頬杖をつくみたいにして頬骨の辺りを押さえつけた。表情筋を押さえつけてやれば、にやけ顔になるのを防ぐことができるような気がするからだ。
「神崎さん、カノジョ来てるよ」
後ろの席から、茶化すような声。振り返ると、健康的な小麦色の顔が眠たそうな上目遣いをこちらに向けている。力の抜けたような笑顔の印象的な彼女は、入学式のときから仲良くしている鈴森さん。ふわふわとした物腰の大人しい子だと思っていたこのクラスメートは、最近ではお互いに距離が縮まってきたせいか、私に対してとぼけたような、からかうような言動を見せることが多くなってきていた。
この「カノジョ」というのも鈴森さんなりの冗談で、よく教室まで私のことを迎えに来る慧真のことを指してそう呼んでいるのだ。廊下のほうへ目をやると、気づかれるのを待っていたらしい慧真が太陽みたいな笑顔を咲かせた。
「ああ、本当だ。教えてくれてありがとう」
「あれえ、ツッコミ無いんだ」
「昨日ツッコんだし」
「いつでもツッコミ待ちなんだよアタシは」
軽く失笑しながら、また明日ねと言って席を立つ。気の抜けたような声でまたねえと返す鈴森さんに軽く手を振りながら、内心ではにやけ顔を今の失笑で消化できたことを感謝した。
「じゃあ、行こうか」
廊下に出た私は軽い笑顔を浮かべながら、右側に一人分の余裕ができるように歩き出す。すると慧真がぴょこぴょことそのスペースに収まって、いつもの二人組が完成した。
部活の新入生挨拶の日から慧真とこういう――鈴森さんにカノジョと揶揄されるほどの――関係になるまでには、あまり時間はかからなかった。なにしろ、その次に部室へ向かうときには既に、慧真と私はこうやって並んで歩いていたのだから。
先に近づいてきたのは、なんと慧真のほうだった。今日とほとんど同じような感じで、彼女は教室の前にまでやってきたのである。
今後どうやって仲良くなっていこうかと思案していた私にとっては渡りに船どころの騒ぎではなく、あまりの都合の良さに、自分の頬をつねらずにはいられなかった。あの時は確か、頬に掛かった髪を除けるふりをしたんだっけ。
私が席を立ったのと、慧真が大げさに手を振ったのと、果たしてどっちが先だったのかは覚えていないし、その時にだってよく分かっていなかったような気がする。慧真は私と目が合ったから手を振ったのだろうし、私は彼女の姿を見とめた途端、突然のことに舞い上がって思わず立ち上がってしまったのだ。
何でもない風な表情を決壊させまいと水面すら揺らさないような静かさで近づいていくと、慧真は完熟の林檎みたいな笑顔で私を見上げながら、よかったあと無邪気に言うのだった。
どうやらあの日、方向音痴な慧真は部室まで同行してくれる相手を探していたようで、その相手として私を選んでくれたらしいのだった。どうしてわざわざ私の所まで来たのかといえば、彼女と同じクラスに演劇部員がおらず、何よりも新入生挨拶のときに、しっかりしていそうな人物として私のことをよく覚えていてくれたというのだ。
それを聞いたとき、私は表情が決壊したので顔を背けた。
それ以来、私たちはいつも一緒に部室へ向かっている。彼女がどれほど方向音痴だとしてもさすがに部室までの行きかたぐらいは覚わっているのだろうに、それでも慧真はいつも私のことを迎えに来る。
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