アンリアルロジック〜偽りの法則〜

いちどめし

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第五話 『動き始めて歪む世界』

2-2 歪み

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「変わったんだよね、世界」
 ホームまで一緒に歩く中、ひそひそ声で尋ねられた。
 こちらも声を潜ませてうんと頷く。
 そういえば、篠山さんに深澤先生を紹介されたのが全ての始まりなのである。
 なんとなくーーすごく、昔のことみたい。
「友達できたみたいで、本当、よかった」
「篠山さんも、できたんだよね」
 私みたいに世界が変わったのならば、当然そうなっているはずだ。
 今、俯き加減で歩く横顔はいかにも孤独な少女のものだけど、きっと私の知らないところでは、誰かと仲良くしているのだろう。
 そうであって欲しいと思う。
 篠山さんは何も答えずに、ただ、笑顔を作った。
 喉の奥が、きゅっと締まるような気がした。
 もしかしたら篠山さんの願いは、あの日、私と昼休みを一緒にしたことで終わってしまっているのではないか。下りの電車が近いことを告げるアナウンスの中で、そんな残酷な想像がぞわぞわと蠢きだす。
 なんて悲しいんだろう、この子は。
 私はもう、あの空き教室から飛び出したというのに。
「私、こっちだから」
 すうっと、影が溶けるみたいに、ショートボブの少女は下りの電車を待つ列に混ざっていく。
 まだ少ししか話していないのにーー篠山さんは、それで良いのだろうか。
 私なら、良くない。
「あのさ、篠山さん」
 眼鏡の奥で、黒目がちの奥二重がはっきりと私を見る。
 名前を呼ばれた仔犬みたいな、期待に満ちた警戒心のない……そんな目。
「友達に、ならない?」
 勇気はいらなかった。
 それはきっと、相手が篠山さんだから。
 小柄な少女は空き教室の逆光の中でしたみたいに微笑んで、「ありがとう」と短い髪を揺らした。
 胸の奥が、くすぐったい。
 存在していることすら忘れていた心の隙間に、程よく暖かい何かが満たされていくように感じる。
「北沢さん、あのね」
 篠山さんが楽しそうに声を張ったのは、到着した電車に彼女が乗り込んだときだった。
 疎らな立ち席の乗客に紛れながら、私の抱いていた印象よりもいくらか明るい笑顔で、彼女は篠山さんらしくない、大きな声で私を呼んだのだった。

「世界は、これから、もっと変わるよ」

 楽しそうで、嬉しそうで、意地悪で、馬鹿にするようで、優しい。
 そんな、まるで別人みたいな笑顔がドアの向こうに隠れてしまって、取り残された私は足元に穴が開いたような気分になる。

 なんだったんだろう。

 今の言葉は。
 今起きたことは。
 今までの篠山さんは。

 確かめる術はない。

 だって、また、連絡先を聞いてないんだから。
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