上 下
21 / 59
第四話 boy's side 『被虐と加虐』

1-2 魂胆

しおりを挟む
「なかさとくん、なかさとくん」
 午前の授業が終わるなり忍ばせるような声で呼ばれたので、ノートを閉じる間もなく振り向くと、困ったような笑顔の矢野がこちらへ身を乗り出していた。
 矢野早苗。斜め後ろの席に座るクラスメートで、いつも友達に囲まれているような印象がある。昼休みになるたびに別のクラスからも人が集まってくるので、近い席の身としては毎日迷惑していた。
 とはいえ、彼女に対して悪印象があるのかといえばそんなこともなくて、友達の多いことも納得できるほど、話しやすくて性格の良いやつだと思っている。付け加えるならば頭も良さそうだし、顔もまあ良い方だ。
 なに、と返事をすると、矢野は一瞬だけ目をそらした。
「嫌なら、ぜんぜん、無理に、とは言わないけどさ」
 いつもの溌溂とした喋りかたとは打って変わって、探りを入れるような、いまいちはっきりしない物言い。
「今度、集合の小テストあるって言ってたじゃん。それさ、はらっぺ……ええと、大原さん、よく分からないんだって。だからね」
 矢野がお願いを言い終わる前から、おれは心の中でああ面倒くせえなとつぶやいた。
「仲里くん、勉強できるしさ、教えてあげてくれたらなあって」
「それぐらい、矢野でも教えられるんじゃねえの?」
「いやあ、あたしはさあ、教えるのはかなり苦手で」
 しょうもない嘘。矢野が他の友達に英語を教えているのを、おれは見たことがある。随分と、相手は納得していたじゃないか。
「まあ、良いけど」
 教えるだけで済むのなら、ここで断るよりはいろいろと楽な気がする。途端に安堵の表情になる矢野を見て、なんだかそれだけで良いことをしたような気分になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。  一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。  かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。  芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。  乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。  その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。

もしも、夏休みの課題が「ドラクエのゲーム感想文」だったら…

hotelmo
青春
中学生の龍崎勇斗は、夏休みの課題が「ドラクエのゲーム感想文」と知らされ、大いに喜んだ。 最初の内は「課題ゲーム」を寝る間も惜しんでこなすものの、次第にゲームを楽しむことと感想文を書くことが全く異なる事実に気付かされる。 ゲームを進めても一向に感想文が書ける気がしない、にもかかわらず、次第に夏休みも終わりに近づく。 そして刻々と迫りくる新学期。そんな中、親に言われるがままに通い始めていた塾で課題の相談をする中、勇斗はある「ドラクエの真実」に気付くことになる…… 勇斗と塾講師。そして友人達が、「こんなはずじゃなかった」夏休みの課題に奮闘する青春物語。現代文、小論文、そして数学……「考える力」を身に付けたい全ての人に役立つ学習本としても使えます。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

私は最後まで君に嘘をつく

井藤 美樹
青春
【本編完結済みです】 ――好きです、愛してます。 告げたくても、告げることができなかった言葉。 その代わりに、私は君にこの言葉を告げるわ。最高の笑顔でね。 「ありがとう」って。 心の中では、飲み込んだ言葉を告げながら。 ありきたりなことしか言えないけど、君に会えて、本当に私は幸せだった。 これは、最後まで君に嘘を突き通すことを選んだ、私の物語。 そして、私の嘘を知らずに、世間知らずの女の子に付き合ってくれた、心優しい君の物語。

処理中です...