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第二話 『世界よ変われ』
1-1 失望
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翌朝の世界は、それまでと何も変わらなかった。同じ制服の誰かが私の知らない誰かと挨拶を交わし、私は誰とも話す余裕がない、という設定で通学路をやり過ごす。教室に到着すると、親しくもないクラスメートが私の存在に気づいて、何も言わずに私の椅子から立ち去った。
大丈夫だ。世界は何も、変わっていない。倒錯した気持ちが私のことを安心させる。
「あ、カンナおはよう」
席につくなり、矢野さんの声。見ると、彼女は数人のクラスメートに囲まれながらこちらに手を振っている。
「お、おはよう」
いぶかしげにこちらを見る取り巻きたちの視線をまともに受け止められなくて、私は少し声を張ってそう言うと、ろくに矢野さんと目も合わせないまま始業のチャイムを待った。
昼休みになっても、やっぱり世界はそのままだった。いつもと変わらず友達に囲まれている矢野さんは、一人ぼっちの私に目をくれることもなく談笑を続けている。
また、つまらない期待をさせられてしまった。軽い、今までに何度目とも知れない失望と、爽やかな諦観の念が私の足を空き教室へと向かわせる。
特等席には、まだ誰も座っていなかった。賑やかさとは断絶された空間で、特等席の前の机にお弁当箱を広げる。相変わらず昨日の残り物の詰め込まれた箱の中は、しかし昨日までとは違って盛り付けに幾らか手間がかけられていた。
世界は、とりあえずこのままでも良いか。
窓から差し込む鋭い日差しを膝に浴びながら、ふと、そんなふうに思った。
矢野さんとの距離をほんの少しとはいえ縮められている今なら、篠山さんと仲良くするのも悪くない気がする。昨日は篠山さんと仲良くすることに対して少しネガティブな感情を持ってしまっていたけれど、それは私と篠山さんとの二人だけで交友関係が止まってしまうことが嫌だったからだ。
まずは篠山さんと仲良くなって、その一方では矢野さんとももっと距離を縮めて。そのうち、篠山さんと一緒に、矢野さんたちのいる場所へこの空き教室から羽ばたけば良い。
多分に理想を含んでいることは自覚しているけれど、その上で、実現できる未来がないようにも思えない。
――早く、来ないかな。
盛り付けた形があまり崩れないように、隅の方から弁当をつつき始める。時計の針は、昨日私がここへ来た時間を少し過ぎたところだった。
お弁当箱の底が、半分ほどあらわになる。まだ来ない。
食事が終わって、昼休みの時間が半分を切る。それでも来ない。
机の上を片づけ終わって、静かに静かに、待って待って待って。昼休みが残り五分を切ったとき、私は息の仕方もよく分からなくなって、自分にしか聞こえないようなかすれきったうめき声をあげた。
だめだった。
他にもいろいろな言葉が頭の中に生まれていたはずで、だけどそれらはたった一つの悲観の言葉によって押しつぶされ、追い出され、跡形もなく霧散していった。
瞬きの仕方すら忘れて教室に戻り、誰に迎えられることもなく自分の席に着いた。
大丈夫だ。世界は何も、変わっていない。倒錯した気持ちが私のことを安心させる。
「あ、カンナおはよう」
席につくなり、矢野さんの声。見ると、彼女は数人のクラスメートに囲まれながらこちらに手を振っている。
「お、おはよう」
いぶかしげにこちらを見る取り巻きたちの視線をまともに受け止められなくて、私は少し声を張ってそう言うと、ろくに矢野さんと目も合わせないまま始業のチャイムを待った。
昼休みになっても、やっぱり世界はそのままだった。いつもと変わらず友達に囲まれている矢野さんは、一人ぼっちの私に目をくれることもなく談笑を続けている。
また、つまらない期待をさせられてしまった。軽い、今までに何度目とも知れない失望と、爽やかな諦観の念が私の足を空き教室へと向かわせる。
特等席には、まだ誰も座っていなかった。賑やかさとは断絶された空間で、特等席の前の机にお弁当箱を広げる。相変わらず昨日の残り物の詰め込まれた箱の中は、しかし昨日までとは違って盛り付けに幾らか手間がかけられていた。
世界は、とりあえずこのままでも良いか。
窓から差し込む鋭い日差しを膝に浴びながら、ふと、そんなふうに思った。
矢野さんとの距離をほんの少しとはいえ縮められている今なら、篠山さんと仲良くするのも悪くない気がする。昨日は篠山さんと仲良くすることに対して少しネガティブな感情を持ってしまっていたけれど、それは私と篠山さんとの二人だけで交友関係が止まってしまうことが嫌だったからだ。
まずは篠山さんと仲良くなって、その一方では矢野さんとももっと距離を縮めて。そのうち、篠山さんと一緒に、矢野さんたちのいる場所へこの空き教室から羽ばたけば良い。
多分に理想を含んでいることは自覚しているけれど、その上で、実現できる未来がないようにも思えない。
――早く、来ないかな。
盛り付けた形があまり崩れないように、隅の方から弁当をつつき始める。時計の針は、昨日私がここへ来た時間を少し過ぎたところだった。
お弁当箱の底が、半分ほどあらわになる。まだ来ない。
食事が終わって、昼休みの時間が半分を切る。それでも来ない。
机の上を片づけ終わって、静かに静かに、待って待って待って。昼休みが残り五分を切ったとき、私は息の仕方もよく分からなくなって、自分にしか聞こえないようなかすれきったうめき声をあげた。
だめだった。
他にもいろいろな言葉が頭の中に生まれていたはずで、だけどそれらはたった一つの悲観の言葉によって押しつぶされ、追い出され、跡形もなく霧散していった。
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