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第二話 村の救世主

3-1 不死との交戦

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 ゾンビというものが動く死体であるらしいということは知っていても、実物を目にしたことは無かった。それはあくまでも勇者伝説の中に出てくる化け物で、実在したらしいと理解はしていても、生涯そんなものと出会うことになるとは夢にも思っていなかった。
 なにしろ、毎回のように端役を務めるゴブリンなどとは違い、直近三回の魔王襲来では出没したという話すら無いのである。つまり、百年以上昔にしか存在しないモノだったのだ。
 だからーーと言ってしまうのも少し乱暴かも知れないけれど、広場に集められている村人たちを遠目に見たとき、もしやあれがゾンビなのかと思ってしまった。
 広場にみっしりと座り込んで大勢で項垂れている様子は、六件離れた場所から顔を覗かせただけでも分かるほど、生気の抜けたような陰鬱さに満ちていたのである。
「敵、いたのか?」
 僕が一瞬身構えたのを察して、物陰に隠れたままのグレイプは小声で息巻いた。
「いや、村の人たちはいるけど……敵がいるかはまだ分からない」
 とはいえ、様子がおかしいことは確かだ。敵がいないわけもないだろう。
「どうする。もっと近づくか?」
「ああ、もう少しーー」
 身を低くしてゆっくりと踏み出したその時、陰にしていた民家の扉が乱暴に開き、ボロ切れを纏った人型のモノが僕らの目の前に飛び出した。
「うわあああ!」
 僕とグレイプは驚きの悲鳴をあげ、化け物から距離を取るように仰け反り、脚を絡めて倒れ、ごろりと転がってからなんとか立ち上がる。武器として抱えていた農具は取り落としてしまった。
 一目で生者ではないと分かる、腐敗して肉の崩れた顔。所々に骨の露出した四肢。
 これが、ゾンビだろう。
「ワキヤぁぁあ! こいつ、村人じゃねぇよなぁ!?」
「もちろん!」
 僕が言い終わるや、ゾンビの胸元に草刈り鎌が飛来し突き刺さる。グレイプが金物屋の家から持ってきたものだ。ゾンビはそれを意に介することなく素早く踏み込むと、腐乱した右腕を無遠慮に振り抜いてきた。
 反射的に防御する。文字通り肉の削げ落ちた痩身に似合わない、重い一撃。立て続けに振り下ろされる左腕を、今度は跳び退いて回避する。
「そこ!」
 隙を見つけ、思わず声が出る。攻撃をかわされて大きく姿勢を崩したゾンビの肩に向かって反撃の拳を叩き込み、そのまま胸元の鎌を引き抜いた。
 鎌の切先と僕の拳は赤黒く濁った血に汚れ、ゾンビは打たれた肩をだらりと引きずりながら、身を捩って立ち上がった。
 勇者伝説の通りだ。死体を動かしているだけのゾンビは痛みも感じないし、何度攻撃しても立ち上がってくる。打ち込んだ一撃には、鈍いながらも骨を折る感触があったはずだ。
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