いちどめし

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 エレベーターの前を通りがかると、丁度その時扉が開いた。
 黒く汚れた革の靴。
 裾の擦り切れたズボンは、膝の辺りがぼろぼろになっている。
 中年のそれと分かる、膨れた腹。伸びた革のベルトに引き締められ、苦しそうだ。
 下半身の出で立ちに比べれば随分と立派な渋い色の背広を羽織り、しかしその中のシャツには、食べ物のものらしい滲みが目立った。
 背広の前を閉めずにいるのは、サイズが小さく苦しいからだろうか。
 汚れたシャツは腹に突き出され、まるで磔にされているようだ。
 腹と同じようにたるんでいることを予想させる胸はやはり太いが、広い肩幅はがたいの良さを表していた。
 それだけ。
 私はそっとほくそ笑む。そして、風のように消えた。
 
 どこで尻尾を掴んだかは知らない。しかしこれだけは言える。
 
 私に鎌をかけるからだ。
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