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第五話

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間に合うだろうと思っていたけど。

(本当にギリギリだった)

マイルの錬金窯で二回分低級ポーションを造り終え、納入先である道具屋に行く。
瓶と荷車は道具屋から借りてきており、錬金窯より移し替えを行った。
時間はなかったが、性能は文句なしの出来栄えだった。

「よかった、何とか間に合いそう」

荷車を引きながらマイルはそうこぼす。
レオンから見てもその頑張りは目に見えてわかった。納期がギリギリになったのは自分にも原因がある。自分を助けたせいで素材採取ができなかったのだから。

道具やまでの道のりを覚えるべくついて行く。
ボロ小屋の様な家が立ち並ぶ街並みよりきれいな大通りへと、人も多くなっていく。
辿り着いたのは『冒険者多数ご愛顧の親切ボブおじさんのなんでも揃う道具屋』と長々と看板に書かれた道具屋だった。

「こんにちはー」
「おおーいらっしゃいマイル! 」

出迎えてくれたのは人当たりの良さそうな髭面のおじさん。どうやらこの人が今晩に書かれているボブおじさんらしい。レオンは邪魔にならないように隅に腰を下ろし店内を眺める。

「ギリギリになってすいません、納品に来ました! 二瓶分です」
「いいさ、期日に間に合ってくれるなら。マイルの造るポーションは間違いないからね」

そういいつつ瓶を覗き、持っていたスプーンで確認する。

「おう、品質も問題なしだ。二瓶で金貨一枚だ……っと、そいつはマイルのか? 」

ボブは小さい子犬が今視界に入ったのか、指をさしながらマイルに尋ねる。

「昨日森で拾ってきました! うちの新しい家族レオンです」

レオンが行儀よく待っていたのが自慢なのか誇らしそうに紹介する。

「そいつはめでたいな、随分と賢そうじゃないか。うちのお得意さんだし、新しい家族さんにサービスしとくよ」
「ありがとうございます」
「んじゃ、依頼達成書だ。またよろしくな」
「こちらこそ、またおがいします」

収益は金貨一枚、銀貨二枚。良心的な値段だ。と言っても小分けにして売るので道具屋はもっと儲かることが出来る。錬金術師も自分で店を出せば収益を見込めるのだろうけど、製造と販売を両立させることは一人では難しい。

店舗を準備するだけでも莫大なお金がかかるうえに販売員まで確保しなければ難しいだろう。なので自分の店舗を持てて一人前と判断される場合が多い。これ以外に錬金術の腕前を上げる方法はある。

ただ、利益を求めるか、名誉を求めるかで進む道が異なるので一概には言えない。
だけど歴史に名を刻めるような錬金術師になるのはだれしも一度は考えたことがあるだろう。偉大な発明品を世に出せば名が残る。そのために日夜研究している者は多い。

「さて、バンダナ買に行こうか」

荷車も返却しているので身軽になったマイルはレオンを抱えて街を歩く。
首輪はどうしてもレオンが嫌がったためバンダナを巻くことになった。野良とはこれで区別がつくだろう。

やってきたのはマリー裁縫店。服やちょっとした好みの物を作ってくれる店だ。

「何色がいいかな? 」

(体が真っ白だから何が似合うだろ? そもそも自分の全体を見れないから何が合うかもわからない)

「ピンク! どう? 」

(却下で)

レオンは首を横に振る。

「可愛いのに……紫は? 」

(無難は青か赤かな)

広げてくれたバンダナの色はともかくちょっとした模様が施してありおしゃれに見える物だった。
結局赤をマイルが選ぶまで何度か同じことを繰り返し赤色のバンダナを首に結ぶことにななった。

「うん、可愛い」

店内には丁度鏡があり、初めてレオンは自分の全身を見ることになった。

(ほうほう、見事なまで全身真っ白。瞳は少し赤身がかって見える感じ)

「なんかすごく人間みたいな動きするんだね。左右に体よじって全身見ようとするなんて」

その言葉にどきりとするも何も反応しない方が無難だろうとレオンは判断した。
バンダナを買い終えると今度はギルドに足を運ぶ。依頼達成の報告のためだ。看板には『なんでも屋ギルドザードラス支店』と書かれている。どうやらここはザードラスと言う地名らしい。

中に入ると多くの人で賑わっていた。
住人の多くはギルドに登録するようにしている。それは安易に身分証明できるギルド証がもらえるからだ。

通常身分証明となると王制であるこの国では王の印をもらわなければならない。王が直接押すわけではないのだろうけど、それだと時間とコストがかかりすぎる。なので手ごろで身分を保証できるギルドを活用している。レオンも知っている知識だ。

マイルは中に入ると受付ではなくクエストボードの方へと進む。クエストボードは名前の通り依頼書の張り出しが行われている場所だ。様々な分野の依頼書が分野ごとに張り出されている。マイルがみるのは錬金術に関係がある採取・製作・納品の部分だ。

「何か良いのないかな」

製作となると基本的に素材を自分で集めないといけない。となるとどうしても報酬と釣り合わない場合も出てくる。ボブのように気前のいい人もいれば、だますような悪い人もいる。依頼は慎重に見なければいけない。

(低級ポーション・解毒薬一瓶ずつ納品、金貨一枚。割に合わない……あの上にあるのはエリクサー納品、金貨一千枚……おとぎ話でしかエリクサーなんて聞いたことがない。ブレダン・セザリウスってやつが依頼主か)

他にも到底無理そうな依頼も多く、レオンは呆れ半分でそれを眺めていた。

「よし」

といつの間にか決めたらしいマイルは一枚剥がして、受付へと向かう。茶髪の若そうな女性が窓口だった。

「すいません、依頼達成書持ってきました」
「ああ、いらっしゃいマイル君。ポーション納品の件ね……はい、確認できました。ギルド証をいいですか? 」

ギルド証には記録が累積する。達成しても達成できなくてもその事実は記録されるのだ。達成数が多ければそれだけ実績もでき信用につながる。そのため偽造防止は必須であり、登録時には魔力反応か血液反応で登録をするようになっている。

「はい、お疲れ様でした」
「ついでに依頼受領お願いします」
「解毒薬納品、依頼主は……ハンスさんね。最近解毒薬の依頼が多いのよね」
「そうなんですか? 」
「冒険者がこぞって買うみたいなの。それで品薄ってこと」
「何も起きなければいいですけど」
「ホントよね、はいこれ。わかってると思うけど、最初に依頼主のところに顔出すように」
「はい、わかりましたー」

(解毒薬。作り方はそう難しくないけど、材料の入手が難しいはずだ? 毒を持つ魔物から毒袋を手に入れないと作れない。駆け出しなら魔物を倒すのは難しんじゃないかな)

レオンが不安に思ってるのを横目に、やってきたのは『ハンスの親切よろず屋』と書かれた看板。ここも道具屋の様だ。こちらは髭は無いものの、なかなかの強面のおじさんだった。地域がらなのだろうかやたらと名前をアピールするお店が多い。


「こんにちは、依頼を受けにきたマイルです」
「おや、初めて見る顔だな。錬金術師? 」
「はい。と言ってもまだまだ駆け出しですが」
「駆け出しでもなんでも依頼を受けてくれるならいいさ。さて、仕事なんだが……」


何でも最近ポイズンビートルが大量繁殖しているらしい。名前の通り毒を持つ魔物だ。強さ的にはそうでもないのだけど数が多く、駆除に時間を要しているのだった。それで少しでも攻撃を食らえば毒をもらうことになるので大量に解毒薬が欲しいとのことだった。

「幸いに毒袋は沢山ある。気の利いた冒険者が解毒薬つくってくれっておいてってくれたんだ。これは渡すから後は頼んだ」
「わかりました」
「幾つくらい毒袋がひつようだ? 」
「……十ほどもらえますか? 」
「よし、ちょいと待ってな」

(なるほど、材料込の依頼だったのか。それなら駆け出しのマイルでも大丈夫か。毒袋の取り扱いさえ気をつければ難しくはない。後必要なのは反転草。僕がいた頃と変わりがなければ栽培されているはず、市場に行けば買えるだろうけど)

「これで十だ。毒物だから持ち運びに注意しなよ」
「はい、ありがとうございます」
「おっと、あとは裏に荷車と瓶二つ積んであるからそれに乗っけて行ってくれ」
「はい。期日は明日までで間違いないですか? 」
「おう、明日中に持ってきてくれれば問題ない、頼んだぜ」




―――――


マイル「やっぱり飼い犬って事がわかるように首輪つけないとかな」
レオン(無言で首を振る)

マイル「こんなに可愛いんだもん。盗られそうで心配だよ」
レオン(それとこれとは話が別。断固拒否するよ)

マイル「でも大丈夫、買うお金ないから安心して」
レオン(憐れむような目でマイルを見る)

マイル「あ、ちゃんと稼ぐから! 見捨てないでぇ」


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