誰が為のアルティスト

あなくま

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第2章

第2章 08 「普段絵を描いてない人が描きましたって感じ?」

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「解禁だよー! 浅里さん!」
「……は?」
 翌日の放課後。それまで灯夜はあるてに一切関わらなかったが、ホームルームが終わると真っ先にあるての所へと向かった。
「だから、昨日言ったじゃない。今日の放課後までほっとくって! それの解禁」
「はあ……」
「それでね? 浅里さんに見てもらいたい物があるんだー」
「ごめん。この後ちょっと――」
 何かを言いたげな様子のあるてだが、灯夜はそんな彼女を見て無言で笑みを見せている。
「……っはぁ、わかったよ。用事があるけどすぐだから、それだけは行かせて?」
「はーい。待ってるね!」

 ――約3分後。あるてが教室に戻って来るとクラスメイトの数は減っていたが灯夜は残っていた。
「お待たせ。で? 見せたい物って?」
「お帰りぃ! えーとね、これこれ」
 そう言うと灯夜は1枚の紙を取り出す。四つ折りにされていたそれをあるてが手に取り開くと、一人の少女の絵が描かれていた。
「これ……」
「昨日あのノート見てさ、浅里さんも『ひょうプテ』好きなのかなーって思ってスティーリアちゃん描いてみたんだ!」
「へえ……。ちょっとマイナーな漫画なのに、知ってるんだ」
「言ったでしょ? 私、漫画好きだって。戦争のために改造された女の子なのに、敵対国の手によって愛と人情を知ってしまい今後の生き方とか立場を自問自答。葛藤の中抗う姿は胸が熱くなっちゃうよ!」
「……ちゃんと読んでるんだね、私に話合わせるためとかでなく。まあそれはそれとして」
 灯夜の言葉に少しだけ感心しつつ、あるては絵を改めて見つめる。
「普段絵を描いてない人が描きましたって感じ?」
「えーっ! そんなあ!」
 そしてその絵をバッサリと切られ、灯夜は軽くショックを受ける。
「でも特徴はちゃんと捉えてると思う。それに上手い下手は二の次で、兎に角上手くなるには描くことが大事だから。はい」
 あるてが灯夜に絵を返す。
「……しかし、そっか」
 そして独り言を言うと、あるては鞄から白紙を一枚取り出して何かを描き始めた。


 氷プテ――『氷柱ひょうちゅうのプテロプス』は未来の高等技術を駆使した少数精鋭の改造人間兵器部隊『アーウィス』と、古来の文明と叡智を武器とした部隊『ベスティア』との戦争を描いた漫画である。
 スティーリアは作中の主人公で、アーウィスに属する改造人間の少女。戦線で活動中、何者かに襲われ気絶。目が覚めるとそこにいたのはベスティアの闇医者を自称する者で、彼がスティーリアを助けたそうだが――


「――ふう。こんなもんかな」
 あるてが一息つきシャーペンを置く。紙には即興だがあるての絵柄でスティーリアが描かれていた。
「おおおおお……!」
「そっ、そんなに目ぇ輝かせなくても……」
「いやいや浅里さん。もう昔の私みたいとか関係無いよ! 心っから純粋に友達になりたい!」
「それ……私の絵が目的に聞こえるんだけど。流れ的に」
「せいかーい! もっと浅里さんの絵も見たいもん。でもそれよりも、一緒にいるとほんと楽しくて。浅里さんは……やっぱり迷惑かな?」
「ん、いや、まあ……悪くは、ないかもだけど」
「そっか、それなら良かった! 今から浅里さんとは友達だねっ!」
「だから勝手に――っ」
 勝手に、と言うともう1つ。あるてがスティーリアを描いた紙に、灯夜が何か加筆している。書き終えたそれにはいかにもスティーリアが言っているかのように、
『これからよろしくお願いします。浅里さん』
 と吹き出しが書かれていた。
「……自分の言葉で言いなさいよ」
「えへへ」


 それからと言うもの、灯夜とあるては……大体が灯夜からだが会話の頻度が増え、あるても次第に灯夜に心を開き始めた。また、灯夜の人を引き付ける力も相俟ってあるてがクラスで孤立することも無くなって行った。
(また漫画に助けられちゃったな)
 ある時灯夜はこう思い、
(スティーリアには感謝しないとな)
 またある時、あるてはこう思ったのだった。
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