44 / 53
第2章
第2章 04 『あーちゃん。これ、本当なの……?』
しおりを挟む
「ただいま」
「お帰り。新しいクラス、どうだった?」
「うん。多分大丈夫だと思う」
始業式から灯夜が帰宅した。自己紹介の結果、少しだが漫画の話題が出来たことも灯夜は雛多に伝える。
「雰囲気的に近寄り難かったんだって。怖かったって言うか。漫画読むの意外がられたし、今まで勝手に怖がってごめんって謝られもしたよ」
「そっか。……お母さんとお父さん、育て方間違えてたのかな? 灯夜はとても賢い子だから必要以上に期待しちゃって勉強ばかり強いていたかも」
「それはもう良いよ、私は。ただ、これからはやることはやりながらそれ以外の時間も楽しみたいかな」
灯夜の人生の歯車が、漸く動き出した気がした。
実際、少しずつクラスでも輪の中に入ることが出来るようになり、灯夜の学校生活は良い方向へと変化して行った。
(こんな楽しみがすぐそこにあったんだ……)
願わくばこの時間を少しでも長く楽しみたいと思った。しかし、その願いは――
「えっ、今何て……?」
時は進み、6年生になった秋の終わり頃。雛多からの予想外の言葉に灯夜は思わず耳を疑った。
「だから、来年の4月からお父さんの異動の関係で引っ越さないといけなくなったのよ」
「そんな……。じゃあ、折角仲良くなった人たちとも別れなくちゃいけないってこと……?」
「灯夜には悪いけど、うん」
特に意識したことは無かったが、自ずとこのまま皆と一緒に中学校に進学すると思っていた灯夜にはまさに寝耳に水だった。
「………………」
言葉が出ない。
「辛いよね、灯夜。これでも異動がわかってすぐ伝えたんだけど……」
ほぼ無表情に近かった灯夜が変わり表に出るようになると、雛多もより灯夜の気持ちを、親として感じ取れるようになっていた。
「……せめて中学卒業まで続くと思ってたんだけどな、この時間。でもそれなら仕方無いよね。ごめん、ちょっと落ち着かせて欲しい」
そう言うと灯夜は部屋へと向かった。そんな灯夜に雛多は何も声を掛けることが出来なかった。
(皆と……お別れ……)
ベッドに端坐位になり、俯く灯夜。すんなりと受け入れ難い決定事項だが、受け入れないといけないことはわかっていた。
(あ、今ならわかるかも。これが絶望ってものなのかな……? 結構堪えてるみたいだ)
日常は何時、何処で何が切っ掛けで変化するかわからない。そうして生まれるのは新しく変わる環境、日常の変化に対する不安。
(あっ……)
その時、灯夜はあることを思い出すと本棚から1冊の漫画を取り出して開いた。『Like a――』の1巻。灯夜が生まれて初めて買った漫画の1つで、表紙買いだったが読んでみるとハマってしまった思い出の作品。
――これは、とある少女が生んだ天使と悪魔の物語。
コスプレをしながら顔出しでゲーム実況を行う配信者・あーりん――彩里蕾花は、知名度で言えば無名と有名の中間、謂わば中堅に位置する配信者だ。
そのコスプレ衣装はほぼ自作で、ゲーム実況だけでなく衣装のメイキングの配信も行い、その裁縫スキルは評価されている。やや高めのテンションと耳当たりの良い声も根強いファンのいる理由の1つだった。
順風満帆な蕾花。しかしその帆には何時の間にか、穴が空いていた。
ある日、蕾花がパソコンからSNSを開くと1通のDMが届いていた。送り主は仲の良いコスプレ仲間からだった。
『あーちゃん。これ、本当なの……?』
この一文と1枚の画像がそこにはあり、その画像は匿名掲示板のスクリーンショットだった。
「何……これ?」
そのスクリーンショットには更に画像が貼られており、それは蕾花が――あーりんが知らないおじさんと手を繋いで夜の街を歩いていたものだった。当然蕾花の身に覚えは無く、悪質なコラージュ画像に過ぎなかった。
『ち、違う! 事実無根だから。信じて!』
当然蕾花は否定して返信する。何よりも蕾花にとって腹立たしいのは、そのコラージュのクオリティが悪趣味にも高かったことだ。突然痛み出した胸中。息が荒くなり、冷や汗も浮かぶ。
(やめた方が良い。やめた方が良いって、わかってるんだけど……)
冷静になることが不可能となってしまった蕾花は検索を行い――やがてスクリーンショットと同じスレッド、同じ書き込みを発見した。
「――――ッ!!」
そこから下へとスクロールさせると、漸く蕾花は制御出来なかった行いに後悔することとなった。
「お帰り。新しいクラス、どうだった?」
「うん。多分大丈夫だと思う」
始業式から灯夜が帰宅した。自己紹介の結果、少しだが漫画の話題が出来たことも灯夜は雛多に伝える。
「雰囲気的に近寄り難かったんだって。怖かったって言うか。漫画読むの意外がられたし、今まで勝手に怖がってごめんって謝られもしたよ」
「そっか。……お母さんとお父さん、育て方間違えてたのかな? 灯夜はとても賢い子だから必要以上に期待しちゃって勉強ばかり強いていたかも」
「それはもう良いよ、私は。ただ、これからはやることはやりながらそれ以外の時間も楽しみたいかな」
灯夜の人生の歯車が、漸く動き出した気がした。
実際、少しずつクラスでも輪の中に入ることが出来るようになり、灯夜の学校生活は良い方向へと変化して行った。
(こんな楽しみがすぐそこにあったんだ……)
願わくばこの時間を少しでも長く楽しみたいと思った。しかし、その願いは――
「えっ、今何て……?」
時は進み、6年生になった秋の終わり頃。雛多からの予想外の言葉に灯夜は思わず耳を疑った。
「だから、来年の4月からお父さんの異動の関係で引っ越さないといけなくなったのよ」
「そんな……。じゃあ、折角仲良くなった人たちとも別れなくちゃいけないってこと……?」
「灯夜には悪いけど、うん」
特に意識したことは無かったが、自ずとこのまま皆と一緒に中学校に進学すると思っていた灯夜にはまさに寝耳に水だった。
「………………」
言葉が出ない。
「辛いよね、灯夜。これでも異動がわかってすぐ伝えたんだけど……」
ほぼ無表情に近かった灯夜が変わり表に出るようになると、雛多もより灯夜の気持ちを、親として感じ取れるようになっていた。
「……せめて中学卒業まで続くと思ってたんだけどな、この時間。でもそれなら仕方無いよね。ごめん、ちょっと落ち着かせて欲しい」
そう言うと灯夜は部屋へと向かった。そんな灯夜に雛多は何も声を掛けることが出来なかった。
(皆と……お別れ……)
ベッドに端坐位になり、俯く灯夜。すんなりと受け入れ難い決定事項だが、受け入れないといけないことはわかっていた。
(あ、今ならわかるかも。これが絶望ってものなのかな……? 結構堪えてるみたいだ)
日常は何時、何処で何が切っ掛けで変化するかわからない。そうして生まれるのは新しく変わる環境、日常の変化に対する不安。
(あっ……)
その時、灯夜はあることを思い出すと本棚から1冊の漫画を取り出して開いた。『Like a――』の1巻。灯夜が生まれて初めて買った漫画の1つで、表紙買いだったが読んでみるとハマってしまった思い出の作品。
――これは、とある少女が生んだ天使と悪魔の物語。
コスプレをしながら顔出しでゲーム実況を行う配信者・あーりん――彩里蕾花は、知名度で言えば無名と有名の中間、謂わば中堅に位置する配信者だ。
そのコスプレ衣装はほぼ自作で、ゲーム実況だけでなく衣装のメイキングの配信も行い、その裁縫スキルは評価されている。やや高めのテンションと耳当たりの良い声も根強いファンのいる理由の1つだった。
順風満帆な蕾花。しかしその帆には何時の間にか、穴が空いていた。
ある日、蕾花がパソコンからSNSを開くと1通のDMが届いていた。送り主は仲の良いコスプレ仲間からだった。
『あーちゃん。これ、本当なの……?』
この一文と1枚の画像がそこにはあり、その画像は匿名掲示板のスクリーンショットだった。
「何……これ?」
そのスクリーンショットには更に画像が貼られており、それは蕾花が――あーりんが知らないおじさんと手を繋いで夜の街を歩いていたものだった。当然蕾花の身に覚えは無く、悪質なコラージュ画像に過ぎなかった。
『ち、違う! 事実無根だから。信じて!』
当然蕾花は否定して返信する。何よりも蕾花にとって腹立たしいのは、そのコラージュのクオリティが悪趣味にも高かったことだ。突然痛み出した胸中。息が荒くなり、冷や汗も浮かぶ。
(やめた方が良い。やめた方が良いって、わかってるんだけど……)
冷静になることが不可能となってしまった蕾花は検索を行い――やがてスクリーンショットと同じスレッド、同じ書き込みを発見した。
「――――ッ!!」
そこから下へとスクロールさせると、漸く蕾花は制御出来なかった行いに後悔することとなった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる