39 / 53
第1章
第1章 35
しおりを挟む
(全く。面倒なことに巻き込まれちゃったな……)
ただ漫画を買うためだけの外出から、こんなことになるなんて――。こう思いながら、御影と別れた灯夜は一人帰路を辿る。
(まあ取り敢えずやるだけやってはみるけど。もし仮に面白くても、無理強いはしないって言ってたし断れば良いわけだし)
立ち止まり、歩きながら買った漫画の入った袋をバッグから取り出す。白いビニール袋を街灯が照らすと『Like a――』の14巻の表紙が薄っすらと透けて見えた。
(『MANE DE KILL』か。昔の蕾花だったら二つ返事で喰い付いてやってたんだろうな。今の彼女だったらどうしてただろう……?)
袋をしまい、再び歩き始めた。
(……なんて、意味無い妄想か)
「っあー楽しかった!」
「良かった。僕も楽しかったよ。まあ最初はどうなるかと……」
あるてと道瑠がカラオケ店を出ると、あるてが伸びをしながら言う。そんなあるてを見て、道瑠も安心した様子を見せる。
「いやー……お騒がせしました」
「いやいや、僕も無理矢理誘っちゃったみたいで申し訳無い……って思っちゃったけど、杞憂だったようだね」
「最終的に吹っ切れちゃったからね。あーでももっと道瑠の歌聴きたかったな。歌ってみたとかやって投稿すれば良いのに」
「ちょっとそこまでやる勇気は無いかな。ごめんね?」
「なあんだ。でも、道瑠の圧倒的歌唱を独り占め出来たのは大きいってことだ」
「買い被り過ぎじゃない……?」
楽しそうに会話が続く。
「ところで夕飯はどうしようか?」
「うーん……一緒に食べれたら良かったんだけど、あまり遅くなると心配掛けちゃうし難しいかな。門限は無いんだけど……あっ、でも次遊ぶ時は一緒が良い」
「それもそっか。じゃあ今日はこれで解散かな?」
「ん。ほんとはもうちょっと楽しみたいんだけどなあ……。時間って生きてる人間と同じくらい残酷だよね」
「あはは……。取り敢えず駅まで行こっか」
2人はそれぞれ同じ駅の違う電車で反対方向に向かって帰るので、そのための駅へと向かい始めた。
暗い空の下の、市街の人込みの中。道瑠があるてに話し掛けた。
「今日はほんとに有難う」
「ん、あ、いや私こそ。……ねえ。私たちってもう友達なんだよね?」
「えっ、違うの?」
「いやだってさ。知り合ってまだ間も無いのに、何故か今も手ぇ繋いじゃってるよね」
「あ……ご、ごめん!」
道瑠が手を解こうとするが、それをあるてはきゅっと握って阻止をする。
「ううん、良いよこのままで。でも最悪な出会い方だったのに仲直り直後の実質的な初デートでここまで距離が近くて、友達ってこんななのかなって。私、友達ってぴよくらいしかいなかったからさ」
「それは……うーん、どうなんだろう?」
「でも、慣れておくのも悪くないかな? 流石に踏み入ったことは断固NGだけど」
「僕も流石にしないよ」
道瑠が焦った表情を見せるが、あるてはそれを面白がるわけでなく、優しく笑む。
「信じてる。勿論男の人と容易く手を繋ぐことだってほんとは嫌なんだけど……やっぱり道瑠となら平気なんだよね。チャラ男に変装してた時に手首掴まれた時もそうだったんだけど。どうして?」
「僕が知りたいよ。僕だって女慣れってそんなしてないから。でもあるてはすんなりと……。その謎を解明するんじゃなかったっけ?」
「そうだった。でも意外だな。身長とか骨格とか、よくよく見るとやっぱり男の人なんだなって。でもそれさえ除けば女性的だからさ。……ねえ、生まれる性別間違えてない?」
「言われても気にしないけど、それもよく言われるよ。もしも僕がさ、もっと『THE 男』って外見だったらどうなってただろうね?」
「THE 男……」
あるてがそんな道瑠の姿を想像してみ――
「――やっ! ちょっ! 無理、ギヴ! やっ、ははははは――!」
「何想像したの!? 何想像したのねえっ!?」
ここでも結局楽しそうな2人の会話が繰り広げられるのだった。
――そして、2人は駅に着いてしまった。
ただ漫画を買うためだけの外出から、こんなことになるなんて――。こう思いながら、御影と別れた灯夜は一人帰路を辿る。
(まあ取り敢えずやるだけやってはみるけど。もし仮に面白くても、無理強いはしないって言ってたし断れば良いわけだし)
立ち止まり、歩きながら買った漫画の入った袋をバッグから取り出す。白いビニール袋を街灯が照らすと『Like a――』の14巻の表紙が薄っすらと透けて見えた。
(『MANE DE KILL』か。昔の蕾花だったら二つ返事で喰い付いてやってたんだろうな。今の彼女だったらどうしてただろう……?)
袋をしまい、再び歩き始めた。
(……なんて、意味無い妄想か)
「っあー楽しかった!」
「良かった。僕も楽しかったよ。まあ最初はどうなるかと……」
あるてと道瑠がカラオケ店を出ると、あるてが伸びをしながら言う。そんなあるてを見て、道瑠も安心した様子を見せる。
「いやー……お騒がせしました」
「いやいや、僕も無理矢理誘っちゃったみたいで申し訳無い……って思っちゃったけど、杞憂だったようだね」
「最終的に吹っ切れちゃったからね。あーでももっと道瑠の歌聴きたかったな。歌ってみたとかやって投稿すれば良いのに」
「ちょっとそこまでやる勇気は無いかな。ごめんね?」
「なあんだ。でも、道瑠の圧倒的歌唱を独り占め出来たのは大きいってことだ」
「買い被り過ぎじゃない……?」
楽しそうに会話が続く。
「ところで夕飯はどうしようか?」
「うーん……一緒に食べれたら良かったんだけど、あまり遅くなると心配掛けちゃうし難しいかな。門限は無いんだけど……あっ、でも次遊ぶ時は一緒が良い」
「それもそっか。じゃあ今日はこれで解散かな?」
「ん。ほんとはもうちょっと楽しみたいんだけどなあ……。時間って生きてる人間と同じくらい残酷だよね」
「あはは……。取り敢えず駅まで行こっか」
2人はそれぞれ同じ駅の違う電車で反対方向に向かって帰るので、そのための駅へと向かい始めた。
暗い空の下の、市街の人込みの中。道瑠があるてに話し掛けた。
「今日はほんとに有難う」
「ん、あ、いや私こそ。……ねえ。私たちってもう友達なんだよね?」
「えっ、違うの?」
「いやだってさ。知り合ってまだ間も無いのに、何故か今も手ぇ繋いじゃってるよね」
「あ……ご、ごめん!」
道瑠が手を解こうとするが、それをあるてはきゅっと握って阻止をする。
「ううん、良いよこのままで。でも最悪な出会い方だったのに仲直り直後の実質的な初デートでここまで距離が近くて、友達ってこんななのかなって。私、友達ってぴよくらいしかいなかったからさ」
「それは……うーん、どうなんだろう?」
「でも、慣れておくのも悪くないかな? 流石に踏み入ったことは断固NGだけど」
「僕も流石にしないよ」
道瑠が焦った表情を見せるが、あるてはそれを面白がるわけでなく、優しく笑む。
「信じてる。勿論男の人と容易く手を繋ぐことだってほんとは嫌なんだけど……やっぱり道瑠となら平気なんだよね。チャラ男に変装してた時に手首掴まれた時もそうだったんだけど。どうして?」
「僕が知りたいよ。僕だって女慣れってそんなしてないから。でもあるてはすんなりと……。その謎を解明するんじゃなかったっけ?」
「そうだった。でも意外だな。身長とか骨格とか、よくよく見るとやっぱり男の人なんだなって。でもそれさえ除けば女性的だからさ。……ねえ、生まれる性別間違えてない?」
「言われても気にしないけど、それもよく言われるよ。もしも僕がさ、もっと『THE 男』って外見だったらどうなってただろうね?」
「THE 男……」
あるてがそんな道瑠の姿を想像してみ――
「――やっ! ちょっ! 無理、ギヴ! やっ、ははははは――!」
「何想像したの!? 何想像したのねえっ!?」
ここでも結局楽しそうな2人の会話が繰り広げられるのだった。
――そして、2人は駅に着いてしまった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる