誰が為のアルティスト

あなくま

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第1章

第1章 35

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(全く。面倒なことに巻き込まれちゃったな……)
 ただ漫画を買うためだけの外出から、こんなことになるなんて――。こう思いながら、御影と別れた灯夜は一人帰路を辿る。
(まあ取り敢えずやるだけやってはみるけど。もし仮に面白くても、無理強いはしないって言ってたし断れば良いわけだし)
 立ち止まり、歩きながら買った漫画の入った袋をバッグから取り出す。白いビニール袋を街灯が照らすと『Like a――ライク ア』の14巻の表紙が薄っすらと透けて見えた。
(『MANE DE KILL』か。昔の蕾花らいかだったら二つ返事で喰い付いてやってたんだろうな。今の彼女だったらどうしてただろう……?)
 袋をしまい、再び歩き始めた。
(……なんて、意味無い妄想か)



「っあー楽しかった!」
「良かった。僕も楽しかったよ。まあ最初はどうなるかと……」
 あるてと道瑠がカラオケ店を出ると、あるてが伸びをしながら言う。そんなあるてを見て、道瑠も安心した様子を見せる。
「いやー……お騒がせしました」
「いやいや、僕も無理矢理誘っちゃったみたいで申し訳無い……って思っちゃったけど、杞憂だったようだね」
「最終的に吹っ切れちゃったからね。あーでももっと道瑠の歌聴きたかったな。歌ってみたとかやって投稿すれば良いのに」
「ちょっとそこまでやる勇気は無いかな。ごめんね?」
「なあんだ。でも、道瑠の圧倒的歌唱を独り占め出来たのは大きいってことだ」
「買い被り過ぎじゃない……?」
 楽しそうに会話が続く。
「ところで夕飯はどうしようか?」
「うーん……一緒に食べれたら良かったんだけど、あまり遅くなると心配掛けちゃうし難しいかな。門限は無いんだけど……あっ、でも次遊ぶ時は一緒が良い」
「それもそっか。じゃあ今日はこれで解散かな?」
「ん。ほんとはもうちょっと楽しみたいんだけどなあ……。時間って生きてる人間と同じくらい残酷だよね」
「あはは……。取り敢えず駅まで行こっか」
 2人はそれぞれ同じ駅の違う電車で反対方向に向かって帰るので、そのための駅へと向かい始めた。

 暗い空の下の、市街の人込みの中。道瑠があるてに話し掛けた。
「今日はほんとに有難う」
「ん、あ、いや私こそ。……ねえ。私たちってもう友達なんだよね?」
「えっ、違うの?」
「いやだってさ。知り合ってまだ間も無いのに、何故か今も手ぇ繋いじゃってるよね」
「あ……ご、ごめん!」
 道瑠が手を解こうとするが、それをあるてはきゅっと握って阻止をする。
「ううん、良いよこのままで。でも最悪な出会い方だったのに仲直り直後の実質的な初デートでここまで距離が近くて、友達ってこんななのかなって。私、友達ってぴよくらいしかいなかったからさ」
「それは……うーん、どうなんだろう?」
「でも、慣れておくのも悪くないかな? 流石に踏み入ったことは断固NGだけど」
「僕も流石にしないよ」
 道瑠が焦った表情を見せるが、あるてはそれを面白がるわけでなく、優しく笑む。
「信じてる。勿論男の人と容易く手を繋ぐことだってほんとは嫌なんだけど……やっぱり道瑠となら平気なんだよね。チャラ男に変装してた時に手首掴まれた時もそうだったんだけど。どうして?」
「僕が知りたいよ。僕だって女慣れってそんなしてないから。でもあるてはすんなりと……。その謎を解明するんじゃなかったっけ?」
「そうだった。でも意外だな。身長とか骨格とか、よくよく見るとやっぱり男の人なんだなって。でもそれさえ除けば女性的だからさ。……ねえ、生まれる性別間違えてない?」
「言われても気にしないけど、それもよく言われるよ。もしも僕がさ、もっと『THE 男』って外見だったらどうなってただろうね?」
「THE 男……」
 あるてがそんな道瑠の姿を想像してみ――
「――やっ! ちょっ! 無理、ギヴ! やっ、ははははは――!」
「何想像したの!? 何想像したのねえっ!?」
 ここでも結局楽しそうな2人の会話が繰り広げられるのだった。

 ――そして、2人は駅に着いてしまった。
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