誰が為のアルティスト

あなくま

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第1章

第1章 26

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「ご注文を繰り返します。救済の白いカフェラテお1つ、暗礁スペシャルお1つ、潔白の虚無ライスお1つ、暗闇の中の一筋のピラフお1つ、コンクリート黒胡麻プリンお1つ、期間限定の鉄壁プリンお1つ。以上でよろしかったでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「畏まりました。お待ち下さい」

 …………。

「……料理も何と言うか」
「うん。黒いのか白いのかハッキリしないのも狙いなんだろうか。頭がちょっとバグりそうだけどこれだけ人がいるってことは、このカオスさを求めに来た人ばかりじゃなさそうだね」
 道瑠が周囲を見回すと、店内はほぼ席が埋まっていた。
「美味しいことを期待しよう。それでさ、ちょっと見てもらいたいものがあるんだけど……」
「ん? 何だろう」
 あるてがタブレットを取り出す。
「知っての通り、私絵ぇ描いてるでしょ? 何枚かさ、過去に描いた絵を見てもらいたくて」
「良いの? じゃあ是非とも」
「横にスワイプで次の絵見れるから」
 そして少しだけ操作すると、道瑠にタブレットを手渡した。それを受け取った道瑠は映っている絵をしっかりと眺めては、あるてに言われた通りにスワイプして次の絵へと移動させていく。オリジナルの女の子の絵が多く、時々男の子、少しだけ版権キャラクターの絵がそこには映っている。
「……やっぱ好きだな。あるての絵」
「ありがと。それで、ちょっと貸して?」
「え? はい」
 道瑠はあるてにタブレットを返す。そしてまた少し操作すると、再び道瑠に渡した。
「これは……」
「今描いてる途中の絵。もうちょっとで完成なんだけど」
「おお……。これはこれで私が描いてます感があってワクワクするね。でもさっきの絵もそうだけど、どうしていきなり見せて……?」
「えっと、この前ぴよに言われたんだ。私の描く絵って柔らかな表情の絵が無いって。確かに言われてみたらその通りで……」
「あー、言われてみると確かに。何だろう、あるてっぽい目をしてるかも」
「やっぱりそっか。いや、目に関して客観的な意見が道瑠から欲しかったからさ。ありがと」
「こっちこそ。良い物を見させてもらったよ」
 道瑠は再びタブレットを返す。あるての元へ戻ると、今度はあるてがその画面を眺めた。
「道瑠は……私や私の描く絵と違って、優しい目つきと表情をしてるよね」
「………………うん、まあ」
「え? あ、もし気に障るようなこと言っちゃってたらごめん。そんなつもりは無くて……」
「ううん。褒めてくれて有難う」
 道瑠の受け答えまでのブランクと曖昧な反応が気になり、もしかしたら地雷を踏んじゃったのかもしれないとあるては思った。本当はこれで話を終わらせて逃げたかったが、逃げ癖の克服のためにも後に退くことは考えず、本題を伝える。
「それでなんだけどさ。私、この絵柄で道瑠を描いてみたい。この目しか描けないの、実はぴよに言われるずっと前から悩んでて、プロの絵師の講座とか見ても駄目だったんだ。でも道瑠を描けるようになったらきっと、この悩みの解決の糸口を掴めそうな気がして。駄目かな……?」
「僕をか。参ったな、どうしよう……」
「もしも駄目なら無理強いはしないから」
「……実を言うと僕、自分の顔が好きじゃないんだ。理由は詳しく言えないけどコンプレックスと捕らえてくれたら」
「…………そっか。じゃあやっぱり、顔のこと触れるの良くなかったね。ごめん」
「あっ、いや、えっと……こっちこそ変に気を遣わせちゃってごめん。何時か言える気持ちになった時は、好きじゃない理由ちゃんと話すから」
「わかった。じゃあ――」
 あるてが諦めようとした、その時。
「でも、あるての描く僕は見てみたい」
「えっ……?」
 道瑠の言葉にあるては驚いた。
「知っての通り、僕はあるての絵が好き……と言うか、寧ろファンって感じなんだよね。そんな絵柄で僕を描いてもらえるなら、自分の顔が好きじゃないことなんてどうでも良いし嬉しいよ。それに……」
「それに?」
「苦難を乗り越えようと頑張る友達への協力は惜しみたくなくて。これがあるてのためになるのなら、間違い無くWin-Winウィンウィンだと思う」
「確かに。うん、有難う。しかしハードル上げてくれるねアンタって人は」
「あ、いや、そんなつもりじゃ……」
「わかってる。だから資料として、顔を撮らせてもらいたいんだけど良いかな?」
「……うん、わかった。良いよ」
 あるては今度はこの間合いから、本当は素顔を撮られるのが嫌なんだなと察することが出来た。
(でもこうして撮ってもらえるのって、何か特別感あって良いな)
 しかし同時にこうも思った。
「ん、じゃあ失礼して――」
「お待たせ致しました。こちら救済の白いカフェラテと暗礁スペシャルです。暗礁スペシャルは混ぜずにそのままがオススメの飲み方です」
 あるてが道瑠に向けてスマートフォンを構えた所で店員が現れ、頼んでいた飲み物がテーブルに置かれた。気まずく感じたあるては急いでスマートフォンを下ろした。
「……ごめん、後でお願いします」
「あっ、はい」
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