20 / 53
第1章
第1章 16
しおりを挟む
「まずはあるてさんとまた話す機会が欲しい。改めて謝って、仲直りがしたい」
「仲直り……そこが終着点ですか?」
「その先のことは僕だけで勝手に決められない……かな。あるてさんの気持ちやどうしたいかも考慮しないといけないし、僕はとんでもない過ちを確かに犯したんだから……理想ばかり言う資格は無いよ」
「資格……ですか。あの、立ちっぱなしも疲れますし、そこのベンチに座りませんか?」
「えっ? ……あっ、はい」
道瑠は何故か畏まり、灯夜の提案に従い近くにあるベンチに座る。灯夜もその隣に――は座らず、背を向けて立ったままだった。
「あれ、座らないの?」
「……これは独り言です。あるてさんは道瑠さんからの連絡を待っています。はーやれやれ。ほんっと、あるてさんは優し過ぎるんですよ。あるてさんを嵌めた男を庇って泣くんですから」
道瑠の言葉を無視し、灯夜が大きな独り言を言う。
「……うん、そうだね。でも僕は、平木さんも充分優しい人だと思う。だから言いたいんだけど…………有難う」
「……………………」
その独り言に乗じて道瑠が灯夜に礼を言うが、灯夜は無言を――
「はぁぁああああ……」
貫かず、わざとらしい大きなため息をついた。そして振り向いた灯夜は、まるでZ級映画を見せられているかのような視線で道瑠を見下ろす。
「何か勘違いしていませんか? 全てはあるちゃんのためで、貴方のためなんかじゃ全然無いって言いましたよね?」
「あ、あるちゃ――」
「大体何ですか!? 一昨日の『僕の話と照らし合わせて、もしも僕が嘘をついていたら……その時は潔く消えます』って! 未練たらったらじゃないですか! いいですか? もし次またあるてさんを泣かせたら……」
そう言うと灯夜は座ったままの道瑠の眼前に移動し、道瑠の前頭を掴んで押し上げる。それはまるで、一昨日あるてからされたように。
「……今度こそ、消えろ☆」
違うのは、そう言った灯夜の声はわざとらしく高く優しく、顔は怖いくらいに満面の笑みだったことだ。道瑠は本能的にゾッとしてしまう。そして灯夜は踵を返し、上機嫌に鼻歌交じりで歩き、道瑠の前から去って行った。
その間も道瑠は怯んでいて、自分の額から何かが落ちていたのに気付いたのは少し後のことだった。
「あ……」
それはヘアゴムだった。一昨日頭に着けていたもので、灯夜との別れ際に彼女から預かりたいとお願いされていたものだ。互いに今日の約束から逃げないように質にされていたのだが、終始緊張し続けていたため頭から抜けていた。
頭を押し上げられた時に、このヘアゴムを押し付けられていたのだろう。
『――じゃあ、堂々とした演技をしろ、と?』
『イッエース。オドオドしてたら駄目ってコト。本当はガクブルしてるんだろうけどさ、それを隠せるのが道瑠くんの凄いトコ』
一昨日の帰り道、御影が教えてくれた『良いコト』とは灯夜と話をする際の態度のアドバイスだった。
『ハードル上げてくれるね』
『人生、高いハードルも低いハードルもあるのよん? でぇも飛び越えなきゃ。ただ……』
『ただ?』
『態度は偽っても、言葉は絶対偽らない。自分の言葉で、理想論でも良いからあの平木さんにぶつけるんだ。あの子はきっと、道瑠くんの言葉を少しでも叶えようとしてくれると思う』
普段の軽い声から一瞬で真剣な声に変わる。
『そうかなあ?』
『道瑠くんはもーちょっとリアルの人を見よっか』
しかし、すぐに声は戻る。
『じゃあ参考までに、兄さんは平木さんの何処を見てそう思ったの?』
『うーん、僕の場合じゃちょっと参考にならないと思うな。ただあの子の眼は嘘はつかない。ってのも――』
御影が根拠を説明する。
『――なるほど、そりゃ兄さんじゃないと無理だ。でも凄い説得力はある。これで多分明後日、頑張れそうだよ』
『さっすが! まあその日僕はバイトだし、無くても邪魔する気は無いから。頑張れ弟よ。堂々とね』
(……兄さん。言われた通りに頑張ったよ……は、はは……)
しかし灯夜のあの言葉と顔が脳裏から離れず、立ち上がれるようになるまでにはもう少し時間が掛かりそうだった。
「仲直り……そこが終着点ですか?」
「その先のことは僕だけで勝手に決められない……かな。あるてさんの気持ちやどうしたいかも考慮しないといけないし、僕はとんでもない過ちを確かに犯したんだから……理想ばかり言う資格は無いよ」
「資格……ですか。あの、立ちっぱなしも疲れますし、そこのベンチに座りませんか?」
「えっ? ……あっ、はい」
道瑠は何故か畏まり、灯夜の提案に従い近くにあるベンチに座る。灯夜もその隣に――は座らず、背を向けて立ったままだった。
「あれ、座らないの?」
「……これは独り言です。あるてさんは道瑠さんからの連絡を待っています。はーやれやれ。ほんっと、あるてさんは優し過ぎるんですよ。あるてさんを嵌めた男を庇って泣くんですから」
道瑠の言葉を無視し、灯夜が大きな独り言を言う。
「……うん、そうだね。でも僕は、平木さんも充分優しい人だと思う。だから言いたいんだけど…………有難う」
「……………………」
その独り言に乗じて道瑠が灯夜に礼を言うが、灯夜は無言を――
「はぁぁああああ……」
貫かず、わざとらしい大きなため息をついた。そして振り向いた灯夜は、まるでZ級映画を見せられているかのような視線で道瑠を見下ろす。
「何か勘違いしていませんか? 全てはあるちゃんのためで、貴方のためなんかじゃ全然無いって言いましたよね?」
「あ、あるちゃ――」
「大体何ですか!? 一昨日の『僕の話と照らし合わせて、もしも僕が嘘をついていたら……その時は潔く消えます』って! 未練たらったらじゃないですか! いいですか? もし次またあるてさんを泣かせたら……」
そう言うと灯夜は座ったままの道瑠の眼前に移動し、道瑠の前頭を掴んで押し上げる。それはまるで、一昨日あるてからされたように。
「……今度こそ、消えろ☆」
違うのは、そう言った灯夜の声はわざとらしく高く優しく、顔は怖いくらいに満面の笑みだったことだ。道瑠は本能的にゾッとしてしまう。そして灯夜は踵を返し、上機嫌に鼻歌交じりで歩き、道瑠の前から去って行った。
その間も道瑠は怯んでいて、自分の額から何かが落ちていたのに気付いたのは少し後のことだった。
「あ……」
それはヘアゴムだった。一昨日頭に着けていたもので、灯夜との別れ際に彼女から預かりたいとお願いされていたものだ。互いに今日の約束から逃げないように質にされていたのだが、終始緊張し続けていたため頭から抜けていた。
頭を押し上げられた時に、このヘアゴムを押し付けられていたのだろう。
『――じゃあ、堂々とした演技をしろ、と?』
『イッエース。オドオドしてたら駄目ってコト。本当はガクブルしてるんだろうけどさ、それを隠せるのが道瑠くんの凄いトコ』
一昨日の帰り道、御影が教えてくれた『良いコト』とは灯夜と話をする際の態度のアドバイスだった。
『ハードル上げてくれるね』
『人生、高いハードルも低いハードルもあるのよん? でぇも飛び越えなきゃ。ただ……』
『ただ?』
『態度は偽っても、言葉は絶対偽らない。自分の言葉で、理想論でも良いからあの平木さんにぶつけるんだ。あの子はきっと、道瑠くんの言葉を少しでも叶えようとしてくれると思う』
普段の軽い声から一瞬で真剣な声に変わる。
『そうかなあ?』
『道瑠くんはもーちょっとリアルの人を見よっか』
しかし、すぐに声は戻る。
『じゃあ参考までに、兄さんは平木さんの何処を見てそう思ったの?』
『うーん、僕の場合じゃちょっと参考にならないと思うな。ただあの子の眼は嘘はつかない。ってのも――』
御影が根拠を説明する。
『――なるほど、そりゃ兄さんじゃないと無理だ。でも凄い説得力はある。これで多分明後日、頑張れそうだよ』
『さっすが! まあその日僕はバイトだし、無くても邪魔する気は無いから。頑張れ弟よ。堂々とね』
(……兄さん。言われた通りに頑張ったよ……は、はは……)
しかし灯夜のあの言葉と顔が脳裏から離れず、立ち上がれるようになるまでにはもう少し時間が掛かりそうだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる