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第九話「初詣だよ、全員集合!(メメント襲来!)」

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「あーねんまつ。何か面白い事ないかしら」

「さやかちゃん、こたつでだらだらしてるからそう感じるんだよ。私は楽しみだな。日本のオショーガツ!」

さやかとリリィは演劇部の部室で年末を過ごしていた。
普通の学生なら自宅や外出先でのんびりといった所だが、いつアンドロメダの襲来があるか分からないこのご時世、プレリュード隊には学校での待機が命じられたのだ。
当然泊りがけである。

「あーあ、やんになっちゃう。唯一の楽しみは豪勢なおせちくらいね」

「わぁお!ジャパニーズオセチ!楽しみ~」

派手な反応をするリリィ。
正月年末と言えば和のイベント盛りだくさんなのだ。
外国人であるリリィが浮かれるのも無理はない。

「エデン女学院の演劇部のは毎年特別豪勢なのよね~」

「あまり浮ついて貰っても困るわよ?」

「「きょ、京子部長!?」」

こたつに入っていた二人の後ろには演劇部長の京子が立っている。
驚く二人を尻目に京子もこたつに入った。

「今日は冷えるわね~」

「「(京子部長がこたつでまったりするなんて…意外!)」」

「あらあら、もう先に入ってますのね」

椿がこたつを見回して言う。
京子が入ってなかったらはしたないとか言うんだろうなぁ…と思ったリリィであった。

「あーずっるーい、芽衣も入る!」

「ふふふ、慌てなくてもこたつは逃げないわよ」

芽衣と由香子がこたつに入り込んでくる。
残りのメンバーが入る余裕はもうない…のだがこたつは二つあったのだ。
なんとういう用意周到!

「アメリカじゃこたつはなかったからね、懐かしい」

「年末は紅白逃したか~アニソン枠減らされたからなぁ…まあこたつでまったりもいいか」

続けてやって来たのは咲夜と明日香。
既に椿の入っている二つ目のこたつに入って来る。
その横にはアニメショップの福袋が二袋握られていた。
どうやら明日香には秘密を打ち明けたらしい。
他の部員もあれは明日香の物だと思っているだろう。

「じゃあ今年の最後とアンドロメダ殲滅を祈って、乾杯!」

「かんぱーい」

京子の合図で皆がグラスをかかげる。
とは言っても未成年なので中身はジュースなのだが…
しかしなにより今日は他の部員も最低限しかいないし部活もお休みだ。
こんなチャンス滅多にないとはりきったリリィは皆に提案した。

「みんなで行きませんか?初詣!」

「初詣?」

きょとんとする他の部員であった。
そして除夜の鐘が鳴り年が明ける…

―年明け

「あけましておめでとうございます!」

「はりきってるわね、リリィ…。でも芽衣が寝そうだから静かにね」

「あっはい…」

小さい子はもう寝る時間だ…そう思ったリリィは声を抑えた。

「夜更かしはお肌に悪いから私ももう寝ますわ」

仮眠室に向かう椿。
それに釣られて我よ我よと芽衣も明日香も咲夜も由香子も京子までもが仮眠室へ眠そうに向かった。

「じゃあこれから勇気爆裂バーン・ガーディアン!のDVD全話鑑賞会をはじめまーす」

「ええ~見たい特番があるんだけど…」

いきようようとDVDBOXを取り出すリリィに対しぶーたれるさやか。
それでも付き合ってくれる辺り友達思いなのだろう。
勇気爆裂バーン・ガーディアン!とは昔流行った日本のロボアニメである。
母に幼少期に見せられてからというもの、この作品の大ファンになったリリィは戦闘中の歌にもこのアニメの主題歌を使用している。
これは一種のイメージトレーニングでもあるのだ…多分、恐らく。

「くらえ必殺、バーンフィニッシュ!」

テレビから必殺技の音声が流れて来る。
人型ロボットが巨大な剣を持って突撃していった。
眠気に負けたさやかはそのまま眠ってしまったが、リリィはその雄姿を目に焼き付けていた。
母の様に一流のRS操者に、そして大女優になるにはこのロボットの様に挫けぬ心と熱い勇気が必要なのだ。

「勇気…爆裂…むにゃ」

リリィは番組のキャッチコピーを口にしながらそのまま眠ってしまった。
そして朝8時になった頃…

「いい加減起きなさい、二人とも!」

「「ひゃい!?」」

京子の一声で目を覚ますリリィとさやかの二人。
周囲を見渡すと皆眠そうにしながら眠気眼をこすっている。

「初詣に行くんでしょ?じゃあ早くおせちを食べましょう?」

由香子が食堂を指さす。
そして食堂に向かうとそこには幾人かの部員が既に集まっていた。
彼女達はリリィ達に駆け寄ると、あけましておめでとうございます、と挨拶してきた。
同じくあけましておめでとうございます、と返すリリィ。
ジッサイアイサツは大事なのだ、忘れてはいけない。

「ほらほらリリィちゃん見てよ~伊勢海老丸々だよ~あ、あっちのステーキもお寿司もおいしそう!」

「慌てなくてもおせちは逃げないよ、さやかちゃん」

しかし一般家庭のおせちに比べれば確かに豪華である。
お嬢様校であり名門演劇部のおせちとなればこれだけ豪華になるのも当然と言える。
椿だけがこんなものかと言った感じで見ていた。
まあ財閥のご令嬢なのだ、当然だろう。

「でも私は普通の奴も食べたかったな。ジャパニーズニモノとか」

「そう思って作って来たわよ」

由香子は手持ちの風呂敷を広げると3段くらいのお重が出て来た。
豆腐にごぼうに蓮根に数の子、栗きんとん…どれも一般家庭のおせちの定番である。

「学校の奴と比べたら月並みだけど、どうかしら?」

「おいしいです!おふくろの味って奴です!」

はりきって食べるリリィは一人で完食する勢いだった。

「まあ、庶民の味も悪くはありませんわね」

椿の中での最大限の褒め言葉で称賛する。
あの人をめったに人を褒めない椿が褒めたのだ、余程おいしいのだろう。
他のプレリュード隊の面々もこぞって由香子のおせちを堪能する。
さやかだけが豪勢な演劇部のおせちに夢中になっていた。
そして気付いた時には時既にお寿司…いや遅し。
由香子のおせちは完食されていた。

「がーん、さやか一生の不覚!」

「ふふふ、また作ってきてあげるわよ」

「本当ですか!?」

優しく微笑む由香子の手を握り、目をキラキラとさせるさやか。
まああのおせちはおいしかったし気持ちは分からんでもないリリィであった。
そして初詣の準備を始めるプレリュード隊の面々。
リリィには母のお古の晴れ着があった。
綺麗に保管されていたのかシミ一つ無い。
しかしリリィはそれの着方が分からなかった。
どうしようと困っていた矢先である。
既に雅な晴れ着に着替えた椿が近付いてきた。

「しょうがありませんわね、着付けて差し上げてもよくってよ?」

「椿さん…ありがとうございます!」

本当は優しい人なんだよなぁ…日本で言うツンデレって奴かもしれない。
そう思ったリリィであった。

―都内某神社

ぱんぱん

紐を持って鈴を鳴らすと雅な晴れ着姿のリリィ達は手を合わす。
願い事はただ一つ、アンドロメダが世界からいなくなりますように…ではなく演技力の上達だったり家族円満だったり健康だったり色々だ。

「さあ、そろそろ帰るわよ」

京子が皆を先導して鳥居をくぐろうとしたその時である。
アンドロメダの巨体が上空に突如現れた。
いつもの円盤型のアンドロメダとは違い人型である。
六体のアンドロメダはリリィ達の方を向き内一人が声を発した。

「君達があの美しいシンフォニーを奏でていたのか、実に興味深い」

「お前たちは何者なの?」

京子は人型のアンドロメダに尋ねる。

「ただの観客だよ。メメントと呼んでくれたまえ」

「ただの観客が何故人を襲う!」

「人の悲鳴や死に際は実に美しいじゃないか。しかし私達はもっと美しい物を見つけた…歌と踊りだ」

別のメメントがずいっと出てきて話を続ける。

「しかしただ聞くだけはつまらない。死に際の歌や踊りこそ最も美しいと思わないかい?」

更に別のメメントが話を続ける。

「それがもし自分の死に際だったら…もっと甘美な物になると思わない?」

「死にたいなら勝手に死んでればよろしいのですわ!傍迷惑な…!」

要するにこっちを死ぬ寸前まで追い詰めて、必死に抵抗されて派手に死にたいらしい。
身勝手なメメント達の願望に憤慨する椿。
どうやら狂った死にたがりの様だ…しかも周囲を巻き込む凄く迷惑な奴。

「君達の美しい歌や踊りで倒される事に意味があるのだよ。ではまた会おう」

「あっ、待ちなさい!」

リリィが追いかけようとするがメメント達は空高く飛翔するとあっという間に姿を消してしまった。

「厄介な奴等が現れたわね…気を引き締めていくわよ!」

お正月気分で浮かれない様に、新たな敵に油断しない様に京子が喝をいれる。

「了解!」

今後のメメント達との激しい戦いを予想し新年心機一転、気合を入れるプレリュード隊であった。


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