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会社の旅行で山に捨てられた俺。犯人の上司はバカにしてくるも、会社の株価が大変なことに!?

後編

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 俺の会社は毎年秋になると、部署ごとに社員旅行があるんだ。今年の社員旅行のプランは、あの無能上司が買って出た。それを聞き、背筋に変な汗が出た。どうやら、俺の嫌な予感は現実になったらしい。

 今年の旅行はある有名な温泉リゾート地。山奥にあるのだが、自然が豊かで周辺には乗馬が体験できる場所やキャンプ場などの施設が充実している。当日は観光バスに乗車し、紅葉が一面に広がる森をあるいたり、動物たちと触れあったりとした。あの上司のプランとはいえ、俺も日頃の疲れが癒えるように楽しめた。

 そして、一日の観光が終わって宿へ向かっている途中のことだ。俺がトイレ休憩をしていると、扉越しに上司が声をかけてきた。

「ふふふ、お前に良いことを教えてやろう。お前は、あの宿には宿泊できないからな」

「え......はい?」

「当たり前だろ。お前は社員じゃなく、派遣だ! 社員旅行に参加するなんて、俺は納得できないんだよ。毎年当然のように参加して目障りだったからな。だから今年は、お前のことを頭数に入れないで予約した」

 上司の声色は、一切の悪気を感じさせなかった。それどころか、どこか勝ち誇ったように聞こえた。俺は上司のその言葉に口をポカンと開き、唖然とした。これまでの嫌味や嫌がらせとは比ではない。

「はぁ!? おま、その上司終わってるだろ」

 友人Aは思わず、そう呟いた。俺もその時、同じ感情を抱いた。

「それは一体......俺は今夜どうしろっていうんですか!」

「ふぅん。観光の時期だしなぁ。このリゾート地じゃ、当日予約できる宿なんてないだろうな。このまま山で過ごせばいいんじゃないか?」

 と、上司というか人としてありえない返事が返ってきた。

「さ、流石に俺がバスに戻らなければみんな不審に思いますよ!」

 俺へ嫌がらせをしたいがために、その辺のとこを対策せず行動するところ......流石無能上司だと思った。

「お、お前はそうだな。急用が出来たから先に帰ったことになったと報告しておく。だから、もうバスに来るなよ!」

「いい加減にしてください! ここまで嫌がらせをされるいわれはないですよ! 俺が何をしたっていうんですか!」

「あぁん? お、ま、え、は、な! 高卒派遣社員のくせに、生意気でムカつくんだよ! チョチョQを作ったからって、調子に乗んな! 派遣は捨て駒らしく、雑用だけしとけ! これは俺なりのお前への教育だ!」

 と、あまりな考えを押し付けて上司は去っていった。俺は呆然と、彼がバスへ帰るのを立ち尽くして見届けるしかできなかった。
「犯罪だろもはや。やべぇな上司」

 友人Aは話を聞き、箸を止めた。俺は話を続けた。

 今あの上司の後を追いバスに戻り、先ほどのやりとりを他の社員に暴露してやろうか。あの上司は、俺以外の部下からも信頼がない。きっと、みんな俺の話を信じてくれると思う。

「うわぁ。そんな事も想像できないなんて、周り見えてないのか上司」

 友人Aはそう呟いた。でも、ホテルの予約人数の話は本当だと思う。嫌がらせには余念がない人だからな。このまま戻っても、誰か1人が泊まれない事態に陥るだろう。

「お前、お人好しだな。自分が野宿するかもしれないのによ」

 友人Aにそう言われたが、実際のところはそこまで危機感はなかった。俺には助かるあてが一つあった。それと同時に、あの上司にいわれた教育というフレーズが頭に浮かんだ。俺もあの無能上司に、キツイ教育をしてやろうとかと思いついた。

「どういうことだ?」

 俺は友人Aの顔をみて、二やりとした。

「山の中で遭難して、熊とかに襲われそうだが......」

「心配どうも。でも大丈夫だ。熊にも猪にも襲われていない」

 俺は半ば自ら、山に捨てられることを決断した。さっきも語ったが、泊まる場所にはあてがあって安全に夜を明かすことができた。

 そして上司はというと、翌日連絡をしてきた。

「お前、今どこだ?」

「どこ? 山に俺を捨てておいて、よくそんなこといえますね」

「うぅ。いいか、今会社の株が下落しまくっているんだ。社長から連絡があって、原因はお前だと聞かされている。だからどういう訳か、お前が今すぐ返答しろといわれた」

 旅行中の俺に連絡を取りたがっている社長は、プランを立てた上司にまずは伝達してきたようだ。でも、山に俺を放置したなんて口が裂けても言えない上司は、焦って電話をしてきたようだ。普通なら驚くだろうが、俺はなんともなかった。なぜなら、これも俺の想定内のことだったからだ。

「株価下落しちゃいましたか。多分原因は、チョチョQ作りに必要な耐久力のある部品が、うちに提供されなくなるからですよ」

「はぁ!? どういうことだ? なんでお前がそんなこと知っているんだ!」

「どういうことも何も......ねぇ? 提供を停止させたのは、俺自身だからですよ」

 上司は事態が飲み込めないのか、困惑する声を漏らしていた。俺は隙を与えず、立て続けに話す。

「あー実は、あの部品の提供に契約した工場は高校時代バイトしていた場所のなんです」

 俺は高校時代、大学に行く金を自分で稼ぎたくてその工場で毎日バイトしていた。いつしかそこの工場長に可愛がられ、今回の部品提供にも喜んで引き受けてくれた。ちなみに、このリゾート地について良く調べたところ、その工場の会社が運営しているビジネスの一つだった。工場長に事情を話し、泊まる場所を作ってくれたのだ。

「じゃあ、宿泊した宿やキャンプ場もその工場の運営する土地ってことか?」

「そうです。施設の経営もほとんどが、派遣社員が運営していますけどね。あの宿にも泊まれましたが、迷惑はかけれなかったので」

「なんでそれを言わなかった? お前の知り合いの場所に社員旅行なんて、どういうつもりだよ!」

「別に隠してたわけじゃないです。上司であるあなたがプランを立てたんですから、野暮じゃないですか。純粋に旅行を楽しみたかっただけですよ」

 俺の高校時代の話なんて、仲いい関係じゃなきゃわかるわけない。いままで嫌味のネタにしかせず、良好な上司と部下の関係を築かなかったのがあだとなったのだろうよ。俺の事なんて忌引き休暇したことか、高卒であることしか知らないのだろう。他の社員も上司が嫌いだからなのか、俺の情報は必要最低限にしか話してこなかったようだ。

「よ、要するに。お前があの工場に部品を提供していたというのか? 知らなかったのは......俺だけなのか?」

「そうですね。チームの全員や同じ部署の人は書類に目を通して知っています。チョチョQが大ヒットになったのは、滅多に壊れないおもちゃとして親御さんにも評判だったからですよ。でも、あなたが私を山に捨てたおかげで工場は「頭のおかしい企業だ。こんな会社と関わりたくない」といっていましたよ」

「お前の知り合いの工場だよな? なんでお前にそんな権限があるんだよ!」

「私がというか......私を可愛がってくれた工場長の家族がここを運営していたんですよ。だから、捨てられた後に工場長へ電話したら「もう部品は提供しない」と契約にストップをかけたようです。それを聞いた工場の社員が、噂を広めたのが暴落の原因でしょうね」

 無能で頭が悪い上司でも、話を理解したようで、事態のヤバさに気づいたようだ。電話越しでも、かなり動揺しているのが分かる。俺は昨晩、工場長に山に置いてかれた話をした。工場長は俺の為に宿の社員が住む寮へ、一泊させてくれたのだ。工場長は俺の成長を喜んでいた分、酷い目にあったことを我が身のように怒ってくれていた。そのおかげか工場の社員に愚痴を吐き散らしたようだ。主力商品が販売中止となると、会社の利益が今後は期待ができないと投資家が予想するのは当然だろう。

「そういう訳です。社長には今いったことを、そのまま報告してください。もちろん、上司(あなた)の口からです」

「〇〇くん、大変申し訳なかった。今すぐ俺が車で迎えにいく。だから、昨夜のこと詫びをさせてくれ。あの部品が提供できないと、うちの会社は下落が止まらない! 頼むから、その工場長にもう一度声をかけてくれないか?」

 そこには、これまで俺を虐めてきた偉そうな上司の姿は欠片もなかった。実は、上司が担当する新しい商品開発にもあの部品を使用することを計画に入れていた。何の成果も出してこなかった上司も、あの工場の作る部品には期待を持ったようだ。しかし、工場との契約が破綻すればその計画もチャラになるだろう。その事情もあってか、上司は焦っているようだ。

「部品の提供を続けるよう声をかけてくれないか? いや、お願いします〇〇さん!」

 と、かなりへりくだった言葉が飛んできた。

「うーん。高卒派遣社員は出しゃばるなって言いましたよね? 私はもう、何もする気が起きません。あなたの教育どおり、大人しくしていますね」

 俺はそう言い放ち、電話を切った。結局上司は仕方なく、社長にありのままの説明したようだ。当然、社長は相当激怒した。社長に呼び出されたことも、俺を山に置き去りにしたことも会社中に知れ渡った。上司はそれまでとは一転し、全員から軽蔑の眼差しを向けられることとなった。そして、社長は上司の人間性を疑って年末に降格処分にした。

「山の中に人を捨てていくんだから、降格処分すら生ぬるい処罰だよ」

 友人Aは自分事のように、声を荒げた。その後、俺へ社長が深々と謝罪をしてきた。部品の提供を続けるよう、お願いしてくれと。会社には恨みはなく、正直自分が携わった商品がこんなことで製造できなくなるのは俺も辛かった。俺は後日、工場長へ一報を入れてこれまで通り契約を継続してくれるようお願いした。実は、俺も完全に契約を終わらせようなんてはなから思っていない。どうしてもあの無能上司に一矢報いてやりたいと、ふと思いついた作戦だった。でもこのことは会社の誰にもいえないから、どうしても友人Aにだけは伝えたかった。

「ハハハ、ビールうめぇ! いい肴くれて、ありがとうな〇〇! にしても思い切ったことしたな」

 正直、俺も会社や工場に迷惑をかけて少なからず罪悪感があった。友人Aがこんな反応をしてくれて、どこか気持ちが楽になったよ。あぁ、あの上司居づらくなったのか来月辞めるんだよな。そしたらようやく、俺のストレスフリーな仕事が始まるのに。
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