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第九章 神玉の冒涜
第百十三話 一つ目の巨人猿
しおりを挟むヒョウ、エリュー、ニミュエの三人は森で採集をしている最中、とてつもない大猿の群れに襲われていた。
エリューが敵の姿を一瞥しながらいった。
「ヒョウさん、気を付けてください、一つ目の大猿、恐らく大猿の高位モンスター、ダギラサイクロプスです」
「なに、あの巨人猿の!」
「ご存じなのですか?」
ヒョウは驚愕し続けて話し出した。
「ああ、少しだけな、聞いたことがある。剣が通らないほどの装甲を持って、大岩を一撃で軽く粉砕する馬鹿力と巨体の割に、スピードがあると、昔きいたがな」
「そうです」「私もきいたことがあるよ。あの眼に睨まれ、術を掛けられると時間を止められるとか」
ニミュエの言葉に、皆の顔色が曇り呆然となった。
「何? 時間を止められるだと?」
ヒョウは徐に答えると再び話を切り出した。
「でも、それは、ほんとかどうかわからない。時間魔法、時間魔術なんて、伝説上のことだ」
「私も、それは古文書だけでしか読んだことがないです」
エリューが答えを返したときだった。
ヒョウが身構えた。
「やっこさんはまってくれないみたいだ、くるぞ!」
「二人とも俺から離れるな」
少し間をおき、ヒョウは辺りを見回し魔剣を構え、牽制し身構えた。二人を守るように。
二人はヒョウの傍から離れなかった。怖いのだ。
一歩間違えれば、あの巨体の馬鹿力とスピードでねじ伏せられ、殺される。
「(二人を守りながら、片手で、この数を相手にする、厄介だな)」
その時だった。
「ぐぎゃあぁあぉ」
Booo!
「エリュー上に飛べ、炎のブレスだ!」
「きゃー」
なんと、ダギラサイクロプスの一体が、口から、強力な炎のブレスを吐いてきた。
それを上手く二人を抱きかかえ、ヒョウは後方に飛んだ。
「ちぃ」
目の前で魔剣を水平に構え、ヒョウは威嚇した。
エリューも空を飛べたが、魔剣士並みのスピードでは瞬速移動はできなかったからだ。
ニミュエはズットエリューの肩に捕まっていた。
ヒョウは牽制し、再三、仕掛けようと威嚇していた。
一歩間違えれば死に至る。ヒョウもそれは判っていた。
☆☆
その頃、ファイたちの方では魚とりが続いていたが、エリューの悲鳴がオネイロスとレイティスの耳にも入っていた。
ファイはズット、池の中に入ったまま、まだ出てきていなかった。
オネイロスが悲鳴がした方を見遣った。
「なんだ、今悲鳴が聞こえなかったか?」
「ヒョウさんのいる方だ」
レイティスが、急いで緊迫した声でいった。
二人に、緊迫感が走り、デッドラインに差し掛かっていたため、念のために辺りを見回した。しかし、モンスターのいる形跡はなかった。
どうやら、敵は戦力を熟知していると考えられる。魔王アガスラーマは見抜いているのか。
少し間をおいて、オネイロスが話し出した。
「あれは、エリューの声だ」
そのときだった。
「ん、レイティスどうしたんだ? よっこらせ」
ファイだ、ファイが岸辺に上がり、後ろ手で大きな魚を持っていた。
「ファイ、生きて戻れたか、よかったぞ」
オネイロスが安堵の色を示し、ほっと胸をなでおろした。
「ほらよ、手土産だ。仕留めてきたぞ、大魚!」
大きな音を立て、大きな巨大魚が陸に上がった。軽くあの巨体を片手でファイは投げおいた。
その余りのデカさにレイティスとオネイロスはびっくりし、一瞬、唖然となった。
レイティスが指をさし、頓狂な顔つきで言った。
「これはシーダラスフィッシュ、あのサメなみに凶暴な魚じゃないか」
「噛まれる瞬間に魔闘気を使い、フレアナックルを口の中に叩き込んだんだよ」
「なるほど、うちから攻めたわけか」
「なぁ、さっき水の中にいた時もよぉ、少しだけ地響きがして、悲鳴みたいな声が聞こえたんだけどよ、何かなかったのか?」
ファイの問いに、一同が不可解な顔色をした。
「今、恐らくだが、エリューの声が聞こえた」
「まさか?」
ファイがそういった矢先だった。
「きゃー」
「まただ、これは襲われてる、戦闘だ」
ファイの顔色が急に変わり、魔剣を握った。
その瞬間、大猿たちが何体も同時に着地したのか、地面が鳴り響いた。
「やけに地響きがするぞ」
「団長、大魚は任せた、俺は助けに行く」
「待ってくれ、俺もいく」
ファイとレイティスはそういうと、団長の方をチラリと見遣り、悲鳴がした方に走っていく。魚は置いたままだった。
オネイロスは困惑して、顔を手で抑えた。
「おい、お前ら、わしを置いておいて、この大きいのをもっていけというのか」
「団長の怪力なら、簡単だろ?」
「そうだがな、しかし、助けに行かねば」
ファイは団長の言葉を聞くと、一瞬、立ち止まった。
そして、真摯な顔で、口を開いた。
「団長はもしものことがあったら困るからよぉ、姫様を守っていてくれよ」
「ふぅ、仕方ないのぉ」
「レイティス、いくぞ」
「おう」
そういうと、凄い勢いで、二人は池を後にした。
こういう間にも、ヒョウたちの戦闘は続いている。
三人が無事であればいいが。敵の術中にはまらなければいいが。
魔王アガスラーマがどこまで魔力で介入など仕掛けてくるかがキーワードだった。
☆☆
明日最新話アップ予定。感想おまちしてます。なんでもかいてもらえたら嬉しいです。
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