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第六章 追憶の魔船

第七十四話 伝説の魔物

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エリューたちと別れてから、暫くの間、瘴気のある方へ、ファイたちは走っていた。
段々視界が靄で悪くなっていく。
「ファイ、気をつけろ! 瘴気が強くなってきた!」
「あぁ、判ってる。死霊が薄っすらと飛んでいるしな」
上空をゆっくり飛んでいる死霊を見遣り、ファイは走りながらヒョウに答えを返す。
確かに、死霊の数が増え始めて、瘴気は酷く感じられるようになっていた。
その場にいた誰もが怪訝な顔でそれを生で感じていた。
「恐らく、もう、死霊から、考察すると、ここらは、死の境界線(デッドライン)に入っているな」
レギンが考察し、そういった矢先だった。空を飛んでいた無数の死霊に変化が起きた。
「何だ、死霊たちが急に一箇所に集まっていく!」
「紫色の光に変わっただと?」
膨大な数の死霊が一箇所に集まり始めた。そして、死霊の塊の色が紫色に変わり、光が出て行く。
全員の顔色が急に変わった。皆、一様に警戒する。
「(あの色は?)気を抜くな! あれは、召喚魔法陣だ! やってくれるな、魔王アガスラーマ!」
ヒョウの洞察力は正しかった。確かに死霊が集まり始め、紫色の光を放ち、その陣容は大型の召喚魔方陣そのものだった。
余りの瘴気の凄さに、ファイたちの動きが止まり、固唾を呑んだ。
瘴気が激しくなり、召喚魔方陣近くの地盤から土煙や塊が舞い上がっていく。
稲光が起きる。召喚魔方陣の力が段々強くなっていく。
瘴気は最高潮に達した。
スパークが飛び散り、光り輝いた!
「なんて、邪気だ! 立っていられない!」

BUWOOOOOOOOOOOOOOON!

遠くで雷鳴共に、死霊たちが召喚魔方陣に吸い込まれ、それと同時に巨大な化け物がスパークと共に現れた! 
遠くからでもその異様は一望できた。
ヒョウが口を濁した。
誰もが、とんでもない邪気と、殺気を感じていた。
「この魔闘気は、奴のものじゃない、一体、何だ?」
ヒョウは言うと同時に、構え、足取りを止めた。
隣にいたファイが徐に懸念し、口を開いた。
それは、とてもこの世の生物とは思えないほどのデカさと異様さがあった。
「な、何だ、あの馬鹿デカイ魔物は?」
「デカイ竜頭が腹の部分に三つある。あれは、ヒュドラか?」
ファイがレギンの問いに続けて言葉を発した。顔色が苦渋に満ちている。
「いや、違うぞ、ヒュドラにしては、竜頭が少な過ぎる。その上部に魔族のような人体が付いている? 一体、何だ、あの魔物は?」
ヒョウの眼光が漲った。憶測は正しかった。確かに、ヒュドラには見えなかったからだ。
そのとき、黙っていたレギンが何かを考察し、重い口調で口を開いた。
「ッ、何てことだ、拙いぞ。あれは、恐らく、ソワールの伝説の悪魔だ!」
「なんだって? レギンさん、一体、どういうことだ?」
「ッ!」
面子に動揺と困惑が走る。この異形の怪物が伝説の悪魔なのか。
「ソワール王に仕え出した時、王や、側近から聞いたことがある。古代昔に、古代王国レメゲトンの英雄アオンが、ソワールを訪れた時、民が苦しめられていた、魔族のような上半身を要し、三本の竜頭を要した魔物、ドラゴスキュラを、英雄アオンが決死の覚悟で挑み、瀕死の状態で打ち倒し、封印魔石に封印したのだということを王からも聞いたことがある」
レギンの面が重くなり、懸念した口調で、眉間に皺を寄せた。誰もが口を濁した。
「姿形が余りにも酷似している。もしや、あの話が本当なら、古代にいたソワールの悪魔かもしれないぞ!」
「ドラゴスキュラ?」
「ッ!」
ファイが、怪訝な面持ちで魔物に睨みを返した。
その時だった。
次の瞬間、現れた魔物が動き出した。
「来るぞッ!」
ヒョウが即座に言った。その瞬間、こちらに奴は身体の方向を向け、向かってきた。
その場にいる誰もが、緊迫感を犇犇と感じ、段平を返した。
だが、負けるわけにはいかなかった。
しかし、奴との間合いも、時間にも余裕はなかった。
「へん、やってくれるぜ。俺たちの前に立ち開る以上、敵ってわけか。だったら、潰すまでだ!」
「坊主、全員で一斉に掛かるぞ、名高い英雄アオンが苦戦した相手だ。さっきの魔族とは、魔闘気の桁が違う。いくぞ!」
ファイの触発する言葉に、喝を入れるように、前に出てレギンは言い動いた。
ファイは先陣を切って、上空高く、飛び上がった。
技を発動させる為、右手に魔闘気を集中させた! 
そして、魔剣を上空で素早く振り翳した。
「了解だ! フレアブレード!」
「らぁっ、らぁっ、らぁぁあぁっ!」
ファイが上空から何発もの弧の字掛かった炎の刃靭を叩き込んだ。
同時に、ヒョウも左の方に動き、飛び上がり、魔闘気を集中させ、思いっきり肩を振り上げ技を発動させた。
「アイスザンバー!」
ヒョウの氷の刃が天空高く伸び、振り落とされた。
冷気が立ち帯び、空中を四散させた。
魔物の左と右からの挟み撃ち攻撃だ。その真ん中にレギンがいた。
レギンも次の攻撃態勢に入っている。
「うぉらぁッ!」
レギンが中央から突進し、飛び上がり、真ん中の大きな竜頭に切り込んだ! 真面に三人の技は魔物を飲み込んでいくように、ぶつかる。
「ダメだ、あいつ、上半身から防御壁を展開してやがる」
「恐らく、上半身にある、あの光るコアだ。あの司令塔を崩さない限り、勝機は見えないってわけか!」
ヒョウは、眉間に皺を寄せながら、苦渋の表情をみせる。それもその筈、可也の破壊力の攻撃が、三人同時にぶつけても、いとも、簡単に防がれたからだ。
魔物のコアが光り、防御壁が展開していた。技がぶつかった反動で爆音と火花が爆ぜる。
砂塵が舞い散る。
この鉄壁の防御はどうにもならないのか。
三人の表情が曇り、第一弾の攻撃は皆無になり、悔しそうに舌を打つ。
次の攻撃態勢に入ろうと構えた。
その時だった!
「ヒョウ、伏せろ!」
「ぐはぁッ!」
キュラの咄嗟の声に反応し、後ろを振り向いたものの、間に合わず、ヒョウは見事に大きな尻尾に瞬時に叩かれ、吹っ飛ばされた。
地面にぶつかり、小石の破片が飛び散った。
砂塵が舞う。誰もがヒョウの方を見遣った。
「大丈夫か!」
「チィ、やってくれるな、デカ物! スピードなら負けない!」
ヒョウは、悔しそうな面持ちで、撃たれた反動で口から出た血を、足で頬杖を着いた状態で左手で拭った。
魔剣アイスブレイカーがぶたれた反動で、遠くに落ちた為、瞬時にヒョウは手元に出現させた。
戻り、睨み返し、強く右手で握り段平を反した。
その時だった。
躊躇してる暇はなかった。巨大な敵が続け様に攻撃を仕掛けようとしていた。何やら、物凄い熱気を感じる。
魔族のような上半身だけの頭から、口に凄い魔闘気を集中し、放とうと充填していた。
躊躇う間もなく、瞬時に口から放った!
物凄い熱量が三人を一閃しようと頭を振って波動を動かした。
「何、これは、熱系の技!」
「拙い、上に飛べ、ファイ!」
「!」
波動の強さが巨大な為、地盤が弾けて壊れるのと同時に溶解し溶け出した。
赤く熱で切り詰めた!
だが、上手く、キュラのアドバイスで、全員、躱した! 
地盤に大きな抉りが瞬時にできた。誰の表情も曇っていた。余りに手強かったからだ。
それに、破壊力が桁違いだった。





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