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第五章 古代から生き永らえたもの

第六十二話 自警団ストラトス

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「着いたぞ、ここだ」
要塞のように堅固な、大きな家の前でレギンは足を止め、ファイたちの方に振り向きながら野太い声で言った。
何を想ったのかレギンは息を吸い、肺活量を上げた。
「サムソン村長、レギンが助けに参った、扉を開けてくれ」
恐らく家の中まで聞こえているだろうという、大声でレギンは吠えた。
「あれは、レギン殿の声。皆の者、もう大丈夫じゃ、ソワール城から救世主が参ったぞ」
サムソン村長が、家の中から遠目で、窓からレギンたちを見遣り、本人かどうか確認をし、自分の後方に集まっていた、村民たちに、嬉しそうな顔で報告した。
「ロラクス、扉を開けるのじゃ」
「ハッ」
村長の近くにいたロラクスと呼ばれた人物が大きな重いであろう扉のロックを外し開けた。
扉が開き、レギンがついて来いの合図をファイたちにし、先頭を切って、村民がいる中に入っていった。
村民達は不安な顔つきだった。ファイたちもその後を、ゆっくり入っていく。
「よかった、レギン様だ、レギン様だ!」
子供たちが安堵の色を浮かべながら、歓声を沸かした。
大人も子供も関係なく、喜んでいた。
レギンがその様子を一瞥し、皆に向けて、グッドラックのポーズをする。
「皆、大丈夫か? まだ、ここには、白煙の悪鬼は現れていないか?」
レギンが、丁寧にいう。余程、心配だったのだろう。
サムソン村長が、レギンの問いに、歩み寄ってきて言った。
後ろには、ロラクスや、武装した自警団の男が数人いた。
懸念はしているようだ。
「レギン殿、今のところは大丈夫じゃ、じゃが、いつ現れるか、判りもせん」
その時だった。
「ぐがぁぎゃぁッ」
「ロラクス!」
後ろにいたロラクスが、悲鳴を上げた瞬間、見る見るうちに身体が水分をなくした植物のように乾涸びていった。
ロラクスにもう、意識はなかった。
一瞬、何かに斬られたように見えた。
だが、さっきの入り口にあった死体の変異と同じで血飛沫もあげることはなかった。
もう、恐怖しか村民にはなかった。
事態が急変し、緊迫感が走る。ファイたちの表情が変わった。
「ひぃ、白煙の悪鬼だぁッ! 逃げろぉッ」
余りの急変した事態に、村民が逃げようと慌てふためき、その場を駆け巡りだした。
同時に、強固な家の中に、無数の白煙が漂い出した。
村民が逃げようとするほうに、白煙は勢いを上げて漂っていこうとする。これは、もしや?
「皆の者、落ち着くのじゃ! 冷静になるのじゃ!」
サムソン村長は、冷静沈着に皆を諌めようとする。
だが、村民は逃げるのに必死で完全に我を失っていた。
誰にも止めることは出来そうになかった。
白煙から死霊のような物が多勢、現れてきた。緊迫感が犇めく。
「やっぱり、正体は、死霊団マレブランケの死霊ムオーデルか!」
ファイが魔剣を持ち、構えた。ヒョウたちも同時に構え、戦闘態勢に入っている。
その時、天井高くから、獰悪な声がした。これは?
「グヘへへ! 生き血は美味いのぉ!」
獰悪な悪魔は、魔剣を翳す。その瞬間、普通の剣では考えられないことが起こった。
「その声は、死霊騎士! 黒幕はやはり、お前か!」
ファイが魔剣を構え、切っ先を向ける。レギンやヒョウも隙がないように構えていた。
「奴さんのお出ましか」
ヒョウが、重厚な声で、魔剣を握り直しながらいう。
その後ろにイーミ姫さまやテアフレナ、キュラたちがいた。
死霊騎士は、そのままの体勢で、ゆっくり天井から飛んでいた高度を少し落とした。
「よくぞ、我の居場所を突き止めたな。お前らがいなければ、簡単に皆殺しに出来たものを」
死霊騎士が、赤い目を朧気に光らせ、獰猛な声で言い返した。
「皆の者、殺されたものの、怨念を晴らすのじゃ、かかれぇ!」
何と、サムソン村長の一声で、武装していた、自警団の男達が、降りてきた死霊騎士に一斉に掛かっていった。
「止めるんだァッ、お前らが勝てる相手じゃない」
ファイが、腕を前に出し、声音を上げ、必死に止めようとした。
だが、村民も苦しめられている所為か、その執念があるのか、仕掛けるのに戸惑う者も一人もいなかった。死霊騎士に猛進していく!
「フン、来る物は拒まん、血(エナジー)を吸わせてもらうぞ!」
死霊騎士が、赤い瞳を照らし、屠る。動くことはなかった。魔剣を構え、死霊騎士は、自警団が掛かってくるのを、計算し、待っていたかのようだった。
その間にも、自警団が牙を剥き、斬りかかっていった。
勝負は一瞬だった!
「終わりだ!」
一瞬、死霊騎士の姿が消えた。
そして、また現れた。その瞬間、サムソン村長と近くにいた、怯えた一人の綺麗な顔立ちの女の人を残して、全て、惨殺された。
一瞬にして、殺された。
「くそッ、一瞬で全員、惨殺しやがった!」
ファイが、悔しそうな顔で舌打ちした瞬間だった。
殺された死体から血と光のようなものが、死霊騎士が持っていた魔剣に集中していく。
「ァッ、剣が血を吸っているだと? そんな、馬鹿な」
ファイたち全員が、唖然となり、驚愕した。
なんと、魔剣に血と光が集中し、吸い取られていった。魔剣は赤く同時に光る。同時に、死体が乾涸びていった。
「血は、我がエナジーとなるのだ! 美味いぞ、美味いぞ、ゲヘへ」
死霊騎士が、死霊ムオーデルをバックに引き連れ、獰悪な声でいい、不敵な笑みを漏らす。
レギンが、その様子を見遣り、怒った顔になる。
誰もが、助けれなかった悔しさで、顔を濁していた。
間合いを詰める。だが、動けなかった。





☆☆
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